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「電通案件陰謀論」を信じそうになった件(汗)と認知バイアス

「東京五輪を中止すべき」という声が膨れ上がっていることが各社世論調査などで示されているなか、5月7日に投稿された東京五輪代表の池江璃花子選手のツイートが話題になりました。

仮に「東京五輪中止」にどんな大義があろうと、池江選手へ「出場辞退」や「開催反対」を要望するというのは筋違いも甚だしい。このツイートに対しては、そのように受け止める方が大半だったと思います。私もそのうちの一人です。

しかしその後、池江選手のツイートに対して次のような疑惑が語られたことをご存じでしょうか?
それは、「東京五輪中止論を抑えるべく、電通が池江選手にツイートさせたのではないか」というもの。
この「電通案件疑惑」の根拠とされるのが、主に次の4つです。


池江選手が5つの投稿をする前に、デイリースポーツが池江選手のツイートを使って記事をヤフー・ニュースに配信した(池江選手の最終ツイートは21:26、デイリースポーツの記事の記事配信は21:11)。デイリースポーツはすでにツイートの内容を知っていたのではないか?


BuzzFeed Japanの記事も、池江選手がツイートしてからわずか8分後に配信。いくらなんでも早すぎないか? やはり、事前に投稿を知っていた?


池江選手のマネジメントは電通のグループ会社が行っている。やっぱりズブズブじゃん!


池江選手の兄は電通に勤めている。そりゃ、頼まれれば断らないよね。


②については、ツイートから記事配信まで早いのは確かですが、ツイートをコピペして記者の見解を入れない「事実」だけの速報記事をつくることは、記者であればできるはずです。ましてや、池江選手のTwitterアカウントのフォロワー数は60万人超。記者ならば常時注目していても不思議ではありません。
しかし、①についてはあまりにも不可解でしょう。それが③④と結びつくと、この「電通案件疑惑」は真実味を帯びてきます。
事実、私が普段信頼している著名人も、この疑惑についてSNSで信憑性があるかのように語っており、私も「さもありなん」と感じたものです。
しかし、結論からいえば、この疑惑はフェイクの可能性が著しく高いものです。

要するに、①の疑惑については、配信日時を変更せずに、池江選手のツイートに合わせて記事を更新していたことがファクトだったようです。
ということで、「電通案件疑惑」という陰謀論は、限りなくフェイクに近いといっていいでしょう。

しかし、こうしてファクトを示してくれる人がいなければ、私もこの陰謀論にハマっていた可能性は高かったのではないかと感じます。

実は私、先月発売してご好評をいただいている『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』を企画・編集したので、「ファクトとフェイクを見極める目は他人よりもある」という自負を持っていました。それでも今回、フェイクに騙されそうになったのは、自分でもショックでした。

誰も私の個人的な見解など興味がないでしょうが、私は東京五輪は中止すべきだと思っております。そもそも、東京五輪誘致のために行われたIOCの総会において、安倍前首相が「アンダーコントロール発言」をした時点で、私は東京五輪を開催する大義を見いだせませんでした。

という前提があったことを踏まえ、前掲の『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』をペラペラめくると、私は次のような認知バイアスに陥りそうになっていたことに気づきます。

チェリー・ピッキング
都合のよい特定の証拠にだけ着目し、それ以外の不都合な証拠を無視すること。

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つい、自分の考えに都合のよい意見を見つけてしまい、それを真実だと思い込みそうになったのです。

信念バイアス
結論に着目した際、その結論をもっともらしく感じるか否かが、論理的な判断をしようとする場合にも影響を与えてしまうこと。

こちらも似ておりますが、東京五輪中止派の私は、電通案件疑惑をもっともしく感じてしまいました。

気分一致効果
落ち込んだときには物事の悪い面ばかり見て、それをよく記憶する。逆に、うれしいときには良い面ばかり見たり記憶する。自分の気分に合った情報に目が行きやすい。

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やっぱり、自分の主義主張に合った意見ばかりに目が行ってしまうんですよね。

内集団バイアス
自分の所属する集団(内集団)やその集団のメンバーを高く評価したり、好意的に感じたりすること。

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私が信頼している人が、私と同じ東京五輪中止派で、電通案件疑惑に真実味を見ていたため、ついそちらに肩入れしそうになりました。


以上のように、私はこれらの認知バイアスによってフェイクに騙されそうなったのだと思います。
しかしながら、すんでのところで騙されなかったのは、「認知バイアスの存在を知っていたから」だというのが間違いなく大きいはずです。
もし、認知バイアスを知らなかったら、認知バイアスに陥っていることにさえ気づかず、騙されていたことでしょう。
「本当に本当か? オレは勘違いしていないか? 認知バイアスに陥っていないか?」という自問自答が、かろうじて私の中で生き残っていたのです。

クソミソの区別もしづらい情報過多時代です。
フェイクに騙されないためにも、読者のみなさんもぜひ『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』を読んで、自分の「心のクセ」に気づいていただければと思います。

(編集部 石黒)

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