第11回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

前回に引き続き、「売れる文章を書くため」の3回目は、
「テーマは著者独自の視点で(不満、怒り、疑問などのスタート地点)」
ということについて解説していきます。

今回は本題の前に、ちょっと違う視点から入ってみます。

さて、SNSが登場して以来、多くの人が情報や自分の意見を発信できるようになりました。
とくに、そこで繰り広げられるコメントでは、良し悪しにかかわらず反響になれば、「炎上」と呼ばれる現象が起こります。

私もたまに、自分の興味のあることにコメントを入れたりしますが、これは、そのときの自分のコメントに対する反応をうかがってみるためです。

これは、ある炎上していたコメント欄を見て、私独自の意見を入れてみたときの話です。

私は高校野球が大好きで、ここ数年、実際に甲子園に応援に行っているのですが、ご存じの通り、今回のコロナショックにより、センバツ、夏の選手権大会も中止となりました。
その際の高野連の対応に、「インターハイなどほかのスポーツは早々に中止になっているのに、なぜ甲子園はさっさと中止にしないのか!」「高校野球だけ特別扱いするな!」と、世の中が中止一色になりました。

私は、あるスポーツ記者の記事が炎上しているのを見て、高校野球をちょっと擁護寄りの意見でコメントしてみました。

内容を簡単に書くと、こんな趣旨です。

・日本の高校野球は、多くの国民が観戦するスポーツとしては歴史が古く、その歴史をもっとリスペクトすべきである。
・球児たちの夢は、そんな歴史が積み上げたてきたうえでのものである。
・たとえば、サッカーも甲子園という舞台のように、これから歴史を積み上げていけば、その重みがわかるだろう。
・ただ中止せよではなく、もっと歴史的な視点(特別なものとして)から慎重に検討してみても(もしやれる方向があるとすれば)いいのではないか。

以上のような主旨で、「高校野球だけが特別なのか?」と批判する風潮に一石を投じてみたのです。

ちなみに、高校サッカーの歴史も古いのですが、決勝戦が関東地方に移されたのは第55回大会(1976年度)からで、その後、決勝戦が行われる旧国立競技場が高校サッカーの聖地となりました。
また、トーナメントは関東各地の競技場で行うため、甲子園とは意味合いが違ってきます。
国民全体に対する熱も、野球とサッカーの歴史を考えれば、その違いは説明しなくてもおわかりかと思います。

さて、そのコメントに対する結果はというと、やはり賛同よりも反対という反応が多く、お上の指導に右にならえの国民性だなと、あらためて認識しました(歴史に関する国民のリスペクトの浅さも)。

話が長くなりましたが、実はこの話、今回の「テーマは著者独自の視点で(不満、怒り、疑問などのスタート地点)」に、大いに関係してくるのです。


◆「テーマは著者独自の視点で(不満、怒り、疑問などのスタート地点)」とは?

もし、あなたがビジネス書を書くとなったら、そもそもどんな動機でビジネス書を書こうと思ったのでしょうか?

実は、この「ビジネス書を書く動機」というのは、売れるビジネス書を書くための大事な部分です。

そして、ここには2つの視点が存在します。

・著者独自の視点で
・不満、怒り、疑問などのスタート地点

最初の「著者独自の視点」という話は、第3回目の「その企画には『オリジナリティ』はあるのか?」や第5回目の「本に書かれる『メッセージ性』とは何か?」などでもお話しした通り、文章を書くうえで、ここがないとそもそも本として成立しません。

著者の持っているメソッドやスキル、考え方を述べるのはもちろん、コメンテータ的な意見ではなく、独自の視点から書かれていることが読者の興味を引くからです。

冒頭に挙げた私のコメントを簡単に言ってしまえば、「高校野球=ほかのスポーツとは歴史の重みが違う→中止一辺倒はいかがなものか?」という意見を、“歴史”という、ほとんど誰も述べなかった考えを用いて、独自の視点から述べたのです。

しかし、SNSに関して1つだけ注意が必要です。

SNSはあくまで「匿名性」だからです。
つまり、“誰が”述べているかわからないということです。

私のコメントも実名ではないため、意見を述べるほうも、それに反応するほうも誰だかわかりません。
昨今の誹謗・中傷などの心ないコメントも、誰だかわからないからこそ、そのときの感情だけを書き込むことができます。

そういった意味で、SNSは人を死に追いやるくらい危険な道具です(これに関しては、この記事の主旨と異なるのでコメンテータ的意見にとどめます)。

さておき、本はSNSと違って匿名ではありません。
書き手は自分をさらけ出します。

ということは、書き手が明白ですから、逆に「著者独自の視点」がないと、本という媒体の面白みがいっさいなくなってしまうということです。

この「著者独自の視点」という考え方は、これまでさまざまなところで述べているので、ほぼおわかりいただけたかと思います。

さて、2番目の「不満、怒り、疑問などのスタート地点」ですが、こちらが意外と重要です。
というのも、「本を書く動機」が「売れる本を書く」ということに大いに関係してくるからなのです。



◆「あなたはなぜ、ビジネス書を書くのか?」は、自分自身の棚卸し作業

あなたがビジネス書を書くうえで、なぜ、その動機が重要なのでしょうか?
そして、それがなぜ売れる本の条件になるのでしょうか?

フォレスト出版のベストセラー著者に、資金繰りコンサルタントをされている小堺桂悦郎さんという方がいます。
主に中小企業経営者の資金繰り対策で、銀行からお金を引っ張ってくる方法を指南している方ですが、彼の『なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?』はシリーズで70万部以上も売れたベストセラーです。

その小堺さんとお話をした際に、本を書く動機についてうかがってみたことがあります。

彼は高校時代、相当荒れていて、かなりやんちゃな時代があったそうです。
しかし、そこから一念発起、なんと銀行に就職します(これだけでもすごいプロフィールなのですが)。
しかし、銀行の仕事に不満がありました。銀行は雨の日、融資を受けにきた中小企業の経営者に対し、企業の業績がいいときは喜んで傘を差し出しますが、景気が悪くなると対応は一変、態度がコロッと豹変するのです。
そんな銀行のあり方に対して、彼のやんちゃ族時代の魂が再び湧上がりました。
なんと彼は銀行を辞め、資金繰りに困っている中小企業の経営者を助けるべく、銀行で培った融資のノウハウを指導し始めたのです。
その実践的な内容に、多くの経営者が救われました。

結果、そのたくさんのノウハウが本という形になり、次々とベストセラーとなっていったのです。

ちなみに、小堺さんは大の永ちゃん(矢沢永吉さん)ファン。
中小企業の社長も永ちゃんファンが多いですから、彼が資金繰りコンサルタントとして書く内容に、魂がつながっていたと言っても過言ではありません。
私の知っている佐賀県の中小企業の社長のベンツの運転シートの後ろ、まさにお客さんの座っている目の前には、矢沢永吉さんがマジックで書いた直筆のサインがありました(もう社長の自慢のベンツです)。

さて、ここからは私の分析ですが、とにかく小堺さんには社会に対する不満や憤り、疑問がありました。

・銀行はなぜ、融資に対して態度が変わってしまうのか疑問に思う
・本来は企業のために融資する仕事であるはずの銀行のあり方に不満を感じる
・中小企業の経営者ばかりいじめられることに怒りを感じる
・中小企業の社長は、なぜ借金に苦しめられるのか(真面目に返済するのか)、もどかしさを感じる

まだまだ推測でそうですが、こうした不満や怒り、疑問が資金繰りコンサルタントを始めた動機であり、中小企業の経営者を助けたいという思いにつながっています。
そして、同じような立場にある、もっと多くの中小企業の経営者を助けたいという強い思いが、本が売れていく要因になったと思います。

とくに小堺さん独自の主張は、「経営は自転車操業でいい」というものです。

普通なら「無借金経営の方法」を説くのでしょうが、まさに真逆。
もちろん、この独自のテーマも本が売れた大きな要因です。

しかし、ここに行き着く過程において、資金繰りコンサルタントになった動機は、そのまま本を書く動機にもなっているのです。

振り返って、あなたが本を書く動機も、同じように社会や仕事に対する不満や怒り、疑問から生まれているはずです。
なぜならば、そうしたものをご自身で解消、問題解決してきたからこそ、今があるからです。

・あなたがこれまでに抱いた、不満や怒り、疑問は何だったのでしょうか?
・その不満や怒り、疑問に対して、あなたはどんな行動を取ったのでしょうか?
・その不満や怒り、疑問に対して、あなたはどんな方法で乗り越えたのでしょうか?
・あなたのその方法で、どんな人たちを助けたでしょうか?

つまり、「本を書く動機=売れる本の条件」とは、自分自身がこれまでやってきたこと、そして、それを解決してきたことを見直してみる「棚卸し作業」と言えるのです。

本日のまとめ
・SNSのコメントで意見を述べるのと、本で意見を述べるのはまったく別もの
・著者独自の視点で書く(テーマについて独自のフィルターを持って書く)は、本を書くうえでの絶対条件
・不満や怒り、疑問などのスタート地点が「本を書く動機」となる
・本を書く動機が何であるかを、過去を振り返りながら棚卸し作業をする
・本を書く動機が、売れる本につながる



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