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第18回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

第16回で、私はあまりビジネス書を読まない編集者であると書きましたが、小説を読むことは「人物や情景の描写はディテールまで描く」ということに、少なからず役に立っているということを述べました。

私が読む小説はジャンル問わず。
推理小説、時代小説、海外小説、
青春もの、恋愛もの、エッセイを含め、
だいたい3~4冊くらいを並行して読み進めています。

ここ数年は、並行して読むジャンルに北欧ミステリーが加わっています。
しかし、この北欧ミステリー、ほとんどが上下巻でページ数にすると600ページを超えるものばかり。
並行して読むと1カ月くらいかかります。

その間に、日本の小説は数冊読了してしまうのですが、
こんなペースで私は読書をしております。

ちなみに、いま読んでいる本(すべて文庫です)は、

『青くて痛くて脆い』(住野よる・著)
『蛍草』(葉室麟・著)
『湖の男』(アーナツデュル・インドリダソン・著)
 ※アイスランドのミステリー作家
『月の満ち欠け』(佐藤正午・著)
『人生のことはすべて山に学んだ』(沢野ひとし・著)

この5冊には、まったく何の関連性はありませんが、
この並行読みで、私はあることに気づくことになったのです。


◆“1ページの文字数”と“総ページ数”で抱いた感情

この並行読み、“そのときの気分”や
“その先が気になる”かなどによって
取り出す本が決まる場合もありますが、
文庫ゆえに50歳を迎える私にとっては文字が小さく感じて、
読み進めるのに多少時間がかかる本は、
手に取る回数が自然と減っています。

これは内容の面白さとは別で、
単に読了までの時間がかかるかどうかは、
文字数とページ数が大いに関係していました。

先ほどの小説(最後のエッセイは除く)の文字数を調べてみました。

『青くて痛くて脆い』……38文字×17行×345ページ(22万2870字)
『蛍草』……36文字×16行×370ページ(21万3120字)
『湖の男』……42文字×18行×482ページ(24万8640字)
『月の満ち欠け』……39文字×16行×400ページ(24万9600字)

上の4つの作品の文字数を見てみると、およそ21万~25万字で、
総文字数にそれほど大差がないように感じます。

しかし、実際に読み進める速度にかなりの差があることがわかりました。
内容については、ここでは問いません(どの作品も面白いです)。

このなかで注目すべきは、1行の文字数と1ページの行数です。
当然のことながら、この2つが多い作品は1ページ読むのに時間がかかります。

たまに1時間で何ページくらい読んだかを数えてみるのですが、
そのときの私の感情は、「1時間読んで、まだこれだけか……」というものです。

この遅々として進まないという感情が、
ビジネス書をつくる際においても大いに関係する感情だということに気づいたのです。

それを説明する前に、1つだけ弁明しておきます。
編集者は原稿を本にするときに、
総ページ数に関しては2つの要素を考えます。

それは「読みやすさ」と「コスト」です。

当然、読者にとってなるべく読みやすくつくろうと考えます。
文字の大きさ(これを“Q数”と言います)をどれくらいにするか、
行と行の間隔(これを“歯送り”と言います)どれくらいにするか、
見出しや区切り(小説なら大段落)ごとにページを空けるか(これを“改ページ”“改丁”などと言います)などを考えて、
1ページのレイアウトを決めていきます。

さらに、総ページ数も考えて1ページのレイアウトを考えます。
これはページ数が多くなればなるほど、印刷コストがかかり、
コストがかかれば本の価格が上がってしまうからです。

ここは編集者の葛藤とも言えます。
読者にとっては、やはり少しでも安い値段で本を購入したいと思うのは当然で、
総ページ数(コスト)を抑えると1ページの文字数が多くなってしまうのです。

ですから、読みやすさを取るか、コストを抑えるかで、
おおよその本の体裁は決まってきます。
本の価格は、その内容によって単純にコストだけ考えるということではありませんが、
総ページ数で本の値段がだいたい似通ってくるのはこのためです。

話が長くなりました。

閑話休題。

実は、この1ページにおける文字数や総ページ数に、
私が抱いたような同じ感情を誰もが持っていることに気づいたのです。
そして、こうした感情をビジネス書に置き換えた場合にどうなるのか。

売れる本の条件の1つが、ここにもあったのです。


◆読みやすさとは、読者満足をアップさせ達成感を与える

ビジネス書は小説とは違い、読者は本から有益な情報を得ます。
それゆえに、作品をゆっくり味わうことよりも、
いかに効率的に情報をインプットする必要があります(実践や行動はアウトプットと言えるでしょう)。

そこで何が重要になってくるのかというと、
ここで、売れる本を書くための条件10が登場します。

「読者は読了の達成感を求める(加読力)」になります。

言い換えれば、「1冊読み終えた~」という満足感です。

第16回で述べた「人物や情景の描写はディテールまで描く」という、
エンターテイメントにも通ずるものですが、
読者がどんどん読み進めて、1冊を読み終えた達成感を得ると、
その本は「いい本だった」という満足感に変わります。

ここで意識することは「加読力」というものです。

加読力は、読者がどんどん先を読み進めていく読書のスピード力で、
時間を気にせずに気づいたら読み終えていたという感情につながっていきす。

ですから、文章を書く際にもこの加読力を考えながら書き進めるといいのです。

実際に意識することは、次の通りです。

・意識的に改行を多くする
・内容や意味が変わる部分で1行空けてみる
・箇条書きにできるところを探す
・小見出しにできる部分は文章を分ける

「なんか、スカスカの本になりそう」
「内容がうすい感じに思われそう」

そう感じた人もいるかもしれません。

しかし、私はそれでもなお、読者の加読力を重視します。

読者が途中で読むのをやめて、積読(つんどく)となるよりは、
1冊を読了したもらったほうが、達成感や満足感が得られ、
ほかの人に口コミしやすくなるからです。

口コミはベストセラーの絶対条件。
人は途中で読むのをやめてしまった本を他人に勧めることはないのです。

私は本の総ページ数よりも、この加読力が大事だと考えています

ここで例を挙げてみましょう。
私が担当する著者に、ひすいこたろうさんというベストセラー作家がいます。
『3秒でハッピーになる名言セラピー』や『あした死ぬかもよ?』など、
数々のベストセラーを世に出し、私の担当した『前祝いの法則』も10万部突破のベストセラーになりました。

ひすいさんは、編集者よりも読者に読みやすい文章を突き詰めていて、
いつも普段本を読まない奥さんが、
どうしたら自分の本を読んでくれるだろうということを、
いつも念頭に置いて作品を書き続けている方です。

ちなみに『前祝いの法則』の文字数はこんな感じです。

40文字×15行×292ページ

総ページ数はかなりありますが、
冒頭のプロローグの数行を見てみましょう。

なぜ日本人はお花見をするのか?(改行)
実は、お花見こそ、古代日本人が実践していた、夢(願い)を叶えるための引き寄せの法則だったのです。(改行)
古代日本人の一番の願いは、稲がたわわに実り、お米がしっかりとれることでした。その願いの実現を引き寄せるためにやっていたのが、実は、お花見だったのです。(改行)
(1行空き)
どういうことか?(改行)
春に満開に咲く「桜」を、秋の「稲」の実りに見立てて、仲間とワイワイお酒を飲みながら先に喜び、お祝いすることで願いを引き寄せようとしていたのです。(改行)
(次のページ)
これを「予祝」と言い、ちゃんと辞書にも載っています。(改行)
(1行空き)
古代日本人がやっていた、夢の引き寄せの法則、それが「お花見」だったのです。(改行)
祝福を予め予定するのです。(改行)
いわば、「前祝い」です。(改行)
(1行空き)
先に喜び、先に祝うことで、その現実を引き寄せるというのが、日本人がやっていた夢の叶え方なんです。(改行)
盆踊りも予祝です。秋の豊作を喜ぶ前祝いダンスが由来です。(改行)
(1行空き)

実は、奇跡はとてもシンプルな法則(原理)で起きています。
(1行空き)……続く

著者は冒頭で読者の読みやすさを重視しています。
読者は、あっという間に2ページほどを読み終えています。

これが加読力です。
実際に、多くの読者の方から、
「面白くて一気に読みました」
「読み始めたら止まらなくなりました」
「いつの間にか読み終えていました」
という感想をいただきました。

ですから、「読者は読了の達成感を求める(加読力)」は、売れる本を書くための条件と言っていい。
そのために、私は総ページ数には、ある程度目をつむります。

なぜなら、1冊を読み終える満足感、達成感を味わってほしいからです。
その満足感、達成感が、ひいては売れる本になっていくと、私は考えています。

本日のまとめ
・本の総文字数の多さは、読者は苦に感じない(総ページ数は問わない)
・1ページの文字数が多いと、当然ながら読書が進まない
・読者は読了の達成感を求める(加読力)
・加読力を与えることは、同時に読者の満足感を与える
・1冊を読み終えてもらうほうが、積読よりも読者は人に紹介しやすい(口コミ効果)
・改行、行空き、箇条書きなどを意識して文章を書いてみる



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