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第27回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

先日、コロナ禍から初めて映画館で映画を観ました。

というと、「さては『鬼滅の刃』を観に行ったな」と思われるでしょう。
たしかに、映画館で列をなしていたのは、この映画。

私の周りにも「めちゃくちゃハマった」という人がたくさんいますが、コミックの世界で言えば、シリーズ累計発行部数は6000万部を突破。売れ筋ランキングでも1位~10位まで上位を独占するという作品ですから、映画がヒットしないはずがありません。

で、私が観に行ったのは『TENET』

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クリストファー・ノーラン監督の作品で、『インセプション』『インターステラ』などを観ていたため親しみがあったことと、巷で「この映画は難解だ」「2~3回観に行く」などの評があったので、直接映像で確かめたいという思いがありました。

ネタバレするので内容は避けますが、とにかく難解な作品でした。
現在と未来の時間軸が「順行」と「逆行」同時に展開され(今でいうパラレルワールド)、反粒子の対消滅やエントロピー増大の法則などの物理・量子力学の知識がないと理解しづらい。
そういう意味では、まったくの異次元体験をする映画です。

それはさておき、なぜ冒頭からこんな話をしたかというと、私が編集者として若かった頃の上司Sさんの影響があります。

当時、私はキングベアー出版という出版社におりました。
その上司は、100万部を超えるベストセラー『7つの習慣』を編集した方なのですが、私はSさんに編集者のイロハを徹底的に叩き込まれました。

Sさんは、私をいろいろな場所に連れて行ってくれました。
映画、絵画展、落語、ほかにも競馬記者やカメラマンなどが集まる会(そのおかげで競馬は今でもやっています)など、およそ仕事には関係ないだろうと思われるところへ、私を連れ出してくれたのです。

Sさんは、そのことについて私にこう言いました。
「稲川君、編集者は仕事だけじゃダメだよ。何でも興味を持って、広く浅くでもいいから何でも話ができるようにならいないとね。引き出しの多さが仕事に活かせるときがくるから」

もともと好奇心のある私でしたが、編集者としての幅を広げてくれたSさんには感謝しております。

さて、では著者にとっての“引き出し”とは何でしょうか?
本日は、ビジネス書を書くにあたってのネタの集め方について、お話ししてみたいと思います。


◆著者として活躍するために“多くの引き出し”を持つ

編集者はたいがい、企画のネタ帳というものを持っています。
また、ネットで面白い情報があれば少なくともURLを保存しておいたり、新聞や雑誌などは写真を撮っておいたり、興味のある人物がいればその名前をメモっておいたりと、企画になるかわからないものも含め、とにかく書き留めておきます。

編集者はジャンル問わず幅広く情報を拾いますが、著者の場合はどうでしょうか?

基本的には同じですが、著者には“専門性”というものがあります。
つまり、同じ情報を拾うにしても、まず専門的な分野での資料やネタを収集していく必要があります。

本のテーマに沿った、それを裏付けるような情報、社会ソース、エビデンスを出せる資料など、本の内容や本のテーマになるであろう本業に関わる情報はどんどんインプットしていきます。

常にそのテーマにアンテナを張っていれば、おのずと情報は集まってくるものです。

そして、そこから一歩広がるテーマを収集していきます。

たとえば、「オンライン時代における集客の新しい方法」というテーマで本を書くなら、“集客”に関することがメイン情報、一歩広げた情報は“オンラインという社会”についての情報、“オンライン時代の顧客心理”や“数あるECサイト”の情報、さらに広げて“海外のオンライン時代事情”など、ネット、本、雑誌、テレビ、あなたの周りの人たちなどから情報を集めていくのです。

そこで大事なのは、これらはあくまでインプットした情報であり、本のネタの1つにすぎないということ。
つまり、集めた情報を深堀りして、自分自身の主張を築き上げていくことです。
その際に、使える情報と使えない情報を選んでいきます。
そして、自分の主張を裏付ける情報を内容に盛り込んでいくのです。

もちろん、先ほど私が述べたように、一見、本とは関係ない情報も時には役に立つかもしれません。しかし、それは余裕があってのこと。
著者はその分野とその周辺に造詣が深いことが必須です。


◆”情報を発信していく”ことの大切さ

私の本の担当著者に、ベストセラー作家のひすいこたろうさんがいます。
彼は作家になる前は、人見知りのサラリーマンで、ただいつかは本を書きたいという夢を持っていた方です。

作家になる前、ひすいさんは3名の仲間と毎月1回、お酒を飲んで互いに夢を語り合っていたそうです(これは「セカフザ」といいます。詳しくは『世界一ふざけた夢の叶え方』(ひすいこたろう・菅野一勢・柳田厚志著、小社刊)。

そのときに、ひすいさんは本を書くという夢を宣言して夢を語りました。
そこで最初にしたことは何だったのか?
それは「毎日ブログを書き続ける」ということ。
ひすいさんが毎日更新したそのブログは、多くの応援もあって人気ブログへとなり、やがて「ディスカヴァーMESSAGE BOOK大賞」の特別賞に選ばれ、作家の道へと歩み続けることになりました。

これは、ひすいさんがブログを書き続けて、多くの人の目に留まったからこそ、出版への道が開けたのです。

人は頭のなかで考えていても、それがいくら素晴らしいものでもなかなか周りには伝わりません。ですから、常にどこかで発信している必要があります。
それがいつしか多くの人の目に留まり、面白い、役に立つと言われ、そんな情報が編集者の情報網に入ってくるのです。

情報発信はブログでなくてもかまいません。ネットではなく、セミナーを開催するなどの実績を積めば、それも編集者の網のなかに入ってきます。

昔はこういった情報はなかなか入ってきませんでしたが、今は検索すればいくらでもヒットします。そうした情報がホンモノなのかどうか、編集者はそこを判断するのです。

情報を発信することは、本を書くうえでの近道かもしれませんね。

◆「本を書くということ」はどういうことなのか?

最後に、編集者の情報網のなかに入ってきたものが本になるのかということですが、著者にとって大事なのは一貫した独自の主張と、本を書く覚悟があるかどうかです。

覚悟などというと大げさに聞こえますが、私のいう覚悟とは、著者が「心から楽しそうかどうか」「本を書く動機が本気かどうか」、そして「引き出しを多く持っているかどうか」です。

「心から楽しそうかどうか」とは、たとえば、本業から書く内容であれば、その仕事を心から楽しんでいるかということ。
ただ単に、儲かる仕組みがあるからという理由や、本を出せばさらに自身が儲かる、有名になるといった理由なら、私はパスします(かつてそれだけの理由で本を出したことがありますが、私の黒歴史になっただけでした)。

楽しんで仕事をしている人は、周りを元気にします。応援者もたくさんいます。そして、多くの人を巻き込んでいきます。ですから、売れる本になるわけで、私が理由を語るまでもないでしょう。

「本を書く動機が本気かどうか」も同じようなことです。
とにかく「多くの人の悩みや問題を解決したい」という著者の本気の思いがなければ、本に命は吹き込まれません。
この本気を引き出すのも編集者の仕事といっていいかもしれません。

そして最後に、今回のテーマ「引き出しを多く持っているかどうか」です。
実際に心から楽しそうな人や本気の人は、多くの引き出しも持っているものです。
話していても楽しく、勉強になることをお話ししてくれます。
それに引き出しの多さは、人間性の豊かさも感じます。

あなたもすでに著者になったつもりで、専門性のある引き出しをどんどんインプットしていってください。
そうすれば、本を書くときが必ずやってきます。

眠れなくなるほど楽しくなり、本気のスイッチが入ったときが、本を書くときだと私は考えています。

本日のまとめ
・著者にとってやはり大事なのは専門的な知識
・著者は専門的な分野での資料やネタを収集していく必要がある
・専門的な情報をさらに広げた情報を収集する
・集めた情報を深堀りして、自分自身の主張を磨き上げる
・著者は多くの引き出しを持つこと
・情報を発信する場を持つ(編集者の網に引っかかる可能性も高くなる)
・著者には本を書く覚悟がなければならない(「心から楽しそうかどうか」「本を書く動機が本気かどうか」、そして「引き出しを多く持っているかどうか」)

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