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野生のシャチ(オルカ)について本とともに語る

編集部の稲川です。

前回、オルカの魅力についてお話しさせていただきましたが、私は学生時代、野生のオルカを実際に見て人生が変わりました。

そもそもなぜ現地で野生のオルカを見ることができたのか。
それはオルカの研究者、ポール・スポング博士を支援する非営利団体オルカラボソサイエティ(現・オルカラボ・ジャパン)の一員としてボランティアで参加したからでした。

この団体は、毎年オルカがやって来る夏の時期に、現地ボランティアとしてオルカラボのあるハンソン島にスタッフを派遣し、現地レポートをするということを行っています(現在も続いています)。

オルカラボ

私は就職を機に、編集者という多忙な日々を過ごし退会してしまったのですが、ボランティアとして参加させていただいたことは、今でも感謝にたえません。

今回は、現地でどんな活動をしていたのかを本とともに語っていきたいと思います。


◆オルカの生態、群れで回遊する定住性の海洋哺乳類

オルカとは学名オルカヌス・オルカ(Orcinus orca)から取られた別名で、海洋哺乳類であるクジラの一種。
クジラ目にはヒゲクジラ亜目と歯クジラ亜目の2種類があり、オルカは
歯クジラの仲間です。

ヒゲクジラ亜目の代表的なクジラは、シロナガスクジラ、ザトウクジラ、セミクジラ、ミンククジラなどで、歯クジラ亜目では、マッコウクジラ、ゴンドウクジラ、イッカクなどが有名です。
ちなみに、イルカはすべて歯クジラ亜目に属します。ですから、イルカもクジラの一種で、学術上はクジラとイルカは大きさだけで区別しているにすぎません。

たとえば、韓国ではクジラをコレ(고래)、イルカをトルコレ(돌고래)と呼んで大きく区別をしていません(トルは石という意味)。

さて、クジラやイルカを紹介している図鑑は数多くありますが、私がお勧めなのは『クジラ・イルカ大百科』(TBSブリタニカ)です。

クジライルカ大百科

定価は4800円(税別)とちょっとお高いですが、海洋写真家の水口博也氏が撮った写真を中心に、なんと900点、イラストも130点掲載されていて、まさに圧巻の百科事典です。
百科事典というより、さまざまなクジラの姿が見られる写真集の決定版と言ってもいいかもしれません。

めずらしいのは、クジラの頭蓋骨の標本写真なども掲載されており、貴重な資料としても見られる1冊です。

中身をお見せできないのが残念ですが、私の手元にナガスクジラのヒゲ(このヒゲが何本もあって、小型のエビなどの餌を海水ごと飲み込み、漉して餌だけを飲み込みます)がありましたので、ご覧いただければと思います。

ナガスクジラ

オルカについてですが、オルカはゴンドウクジラ科に分類され、大きさは雄で9メートル(背びれは3メートル近くあります)、雌で7メートルほど。全世界に分布しておりそれぞれの海に適応して生息しています。

特出すべきは、オルカは母系の家族群(これをポッドといいます)で暮らしており、一定の海域に定住している群(レジデント)と家族で暮らしていないトランジェントという生活様式が確認されています。

私が生態調査を手伝っていたのが、レジデントと呼ばれる家族群のオルカで、バンクーバー島と島々を挟むジョンストン海峡を群れで移動してくるオルカを観察していました。


◆個々のオルカにはIDがあり、その個体群が明らかにされている

私がハンソン島のオルカラボで活動していたのは、主に各所に備えられた水中マイクから声を拾い、きれいな声であればDADに録音するという作業でした。
世界各国からボランティアとして集まった人たちとシフトを組み、24時間態勢でラボに張りつきます。
とくに昼間などは、航行する船やボートの雑音がひどく、オルカの声がなければマイク音を絞って、オルカの居る場所を探します。

そして、もう1つ重要な仕事は、水中マイクでオルカの声が聞こえたら、その地点をホエールウォッチング船に無線で知らせてあげることです。

水中マイク

レジデントのオルカは、ポッドに名称がつけられており、その家族構成も明らかにされています。
これはバンクーバー水族館のジョン・フォード氏の研究により、個体群を見分けられる本として出版されています。

それが『Killer Whales』という1994年に発行された本で、その後、個体群の変遷により2000年にニューエディションとして改訂されています。

キラーホエール

かなり特殊な本ですが、A POD、B POD、C POD、D POD、H POD、I POD、G POD、R POD、W POD、K POD、L PODの11のポッドが紹介されており、さらに群れで回遊しているポッド(サブポッド)ごとに分けられています。

個体の判別は、主に背びれの形や傷の形、背びれの下に見える白い部分、サドルパッチの模様など、目視で確認できます。
そして、家族単位のサブポッドの個体もそれぞれ名称(ID)がつけられ、とくに愛くるしい仕草で喜ばせる人気個体はニックネームまでつけられています。

参考までに、人気のあるA5 PODのA23 Subpodは、A23という5頭(赤ん坊が生まれて)からなる群で、写真の4頭にはそれぞれ名前がつけられています。

ポッド1

(Killer Whalesより)

A23はおばあちゃん家長で、STRIPEと呼ばれる有名なオルカです。
なぜ有名なのかというと、サンディエゴ水族館にとらわれたコーキー(A16)というオルカの母親で、前回も述べたように、コーキーを海に戻そうという運動が盛り上がっていたからです。

ここまで正確に個体がわかってしまうと、オルカはただの海洋哺乳類という見方ができなくなります。クジラやイルカを神聖視するわけではないですが、その生態を守りたくなりますね。

こうして目視でも、どのポッドが来たのかがわかるのですが、ボランティアの仕事として、水中マイクから声を拾うほかに、この目視での調査もありました。

およそ1週間単位で、スタッフが目視できるエリア数カ所に散って、生態を調査するのです。
私も数カ所派遣されたのですが、スタッフのドイツ人と1週間暮らしたこともありました(1週間2人で過ごしたので、それこそいろいろな話をしました)。

また、カナダには人も入ることが許されない生態保護区があります。
ロブソンバイトと呼ばれる保護区は、船も近づいて航行することが許されません。
そこで、ボラティアの仕事として、対岸から船を監視するということもしました。崖の上にあるサンダンスと呼ばれるポイントから、1日中双眼鏡片手に監視を続けたこともあります。

世界各国

こうして、世界各国から集まったオルカ好きのボランティアにより、水中マイク班、目視班(キャンプ班)、監視班など、さまざまな経験をしました。
もちろんスタッフ同士、多くの衝突もありましたが、最後はオルカ好き、自然を愛するという心で、楽しく生活したのです。

最後に、なぜこのように世界各国からオルカラボに集まるのか。
それは誰もが待ち望む「スーパーポッド」と呼ばれるオルカのイベントです。

ジョンストン海峡には、200頭を超えるオルカがいっせいに集まるスーパーポッドという日があり、それがいつやってくるのかわかりません。
スーパーポッドは、オルカが繁殖のために集まる儀式と言われていますが、とくに群れで移動しているオルカにとって、近親繁殖を避ける意味で年に一度集まると言われています。

スーパーポッド

(Killer Whalesより)

これが有史3000年以上、海の生態系の頂点に居続ける智慧なのかもしれません。

私はジョンストン海峡に面していない地に派遣されていて、無線でスーパーポッドがきたことを知りました。その迫力を目にすることができなかったことだけが残念です。

ということで、2回にわたってオルカについて語ってきました。
オルカについては、まだまだ語り切れないことも多々ありますが、私が伝えたいのは「クジラ(オルカ)を見れば人生が変わる」ということです。

クジラでもイルカでも何でもいいです。

ホエールウォッチング船に乗って、野生の姿を見てください。
雄大なクジラの姿を見るだけで、「人間なんてちっぽけな存在だ」と思えてきて、その後、こわいものなんてなくなります。

これから迎える「風の時代」(占星術)に、心に向き合うことが重要になります。そんなとき、もしかしたら野生のクジラやイルカたちが、私たちに何か教えてくれることがあるかもしれません。

けっして種族で争いをしないオルカ。

人類も彼らに学ぶときがきたのかもしれません。


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