第10回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

前回に引き続き、「売れる文章を書くため」の2回目、
「その問題に真剣に悩んでいる1人の人に向かって書く」
ということを考えていきたいと思います。

「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」
第10回目をお届けします。

「1人に向かって書く」は、ビジネス書を書くうえで、もしかしたら最も重要で、書き手もこの手法を知れば、どんどん書き進めていける文章術かもしれません。

なぜ、1人の人に向かって書くのでしょうか?
そして、それがなぜ売れるビジネス書へとつながるのでしょうか?


◆かつてのビジネス書は、知識を得たうえで悩みや問題を取捨選択しなければならなかった

およそ20年前のビジネス書と言えば、
その分野を研究している教授や専門家が名を連ねていました。

私が若手の編集時代、よく中小企業の社長室を訪ねましたが、
そこにはハードカバーの分厚い本が書棚に並べられていました。

どれも難しそうな本ばかり。
私は社長を持ち上げるつもりで、「さすが社長は勉強家ですね」と言うと、ある社長がこう答えました。
「いや、お守りみたいなもんだよ。積読、積読」
もちろん謙遜されての言葉でしょうが、よく見ると本はきれいなまま。あながちお守りというのは嘘ではなかったのかもしれません。

余談になりますが、そんなビジネス書よりも、本当は歴史の本が好きだとおっしゃる社長のほうが断然に多かったような気がします。
私が尊敬する経営者の方が、藤沢周平の本をすべて読んだというので、私も当時、彼をマネて藤沢作品を読破したりしました。

とにかく、好きな本のことを語る時の姿は生き生きされていたことを、よく覚えています。

今になってみると、あの分厚いビジネス書が難しかったのは、
あくまで”勉強としてのビジネス書”だったからだと思っています。
そこでは、さまざまな研究資料を見せながら、
「市場はどうなっているのか?」
「顧客ターゲットはどのようにして決まるのか?」
「マーケティングとは何か?」
など、まるで大学の講義を受けているような本が主流でした。

考えてみれば、教授が書いた本であれば、
一般大衆のビジネスパーソンに向かって語っているわけですから、
万人への理解を求める形となるのは当然です。

これはこれで役に立つものであり、知っておかなければならないものだと思います。しかし、読者にとっては、その内容を自分自身のビジネスにどう落とし込むかなど、かなり頭をひねることになります。

つまり、自分事なのかを内容から取捨選択しなければならず、
悩みや問題を解決する前提の知識として、それが自分(私)のために言ってくれているものなのかを判断する作業が生じてしまうのです。

あなたが書くビジネス書で目指すのものは、そこではありません。
すでに、あるテーマに対して悩んでいたり、問題を抱えている人の解決やヒントとなることを、著者が読む前に提示しているからです。

ですから、その部分にストレートに切り込んでいかないと、読者は自分事としてとらえられず、何も頭に残らないビジネス書になってしまう可能性があるのです。


◆「その問題に真剣に悩んでいる1人の人に向かって書く」とは?

とくに、初めて本を書く著者にアドバイスさせていただいていることの1つが、この「その問題に真剣に悩んでいる1人の人に向かって書く」ということです。

冒頭でも述べましたが、これはビジネス書を書くうえで重要な部分であり、また非常に書きやすくするための考え方です。

1人でも多くの方のためにという思いで著者は書きたいでしょうし、そのほうが多くの方に読んでもらえそうという気がします。

しかし、「多くの方に」という意識が、あの人にもわかるように、この人にもわかるようにと説明し出し、冗長な文章になりやすいのです。
しかも、読み手はそのなかから自分事を選択しなければならず、読んでいてもなかなか頭に入ってこないのです。

この場合、あなたが1人の人に向かって書くというのは、これまでにあなたが悩みを解決したその人、問題を解決したその人に向かって書くということです。

あなたのスキルやメソッドで、悩みや問題を解決した人は大勢いるでしょう。とくにそのなかでも、一番深く関わった人、もっとも悩んでいた人を選んで、その人に話してあげたことを文章にしていくのです。

そうすることで、読者はあなたかも自分の悩みや問題に語りかけてくれるような気持ちになります。
内容もスッと入り、ワンアクションなども提示すれば実践してみようと思うはずです。

文章を書く前に、誰が読者であるかを決めることで、書き手もテーマからブレることなく、かつ読者にストレートに伝わるのです。

では、その1人をどうやって決めればいいのか。
あなたの関わりのなかで誰にしたらいいのか。
参考までに、1人を決めるポイントを挙げておきます。

誰に向かって書くかを決める】
・あなたが関わった人で、最も問題解決をした人(全体を通して)は誰だろうか?
・あなたのメソッドやスキルで、最も成功
した人(短期間、最高の結果など)は誰だろうか?
・一番悩んでいた人、一番問題を抱えていた人は誰だろうか?
・今でもあなたに最も感謝している人は誰だろうか?
・あなたが関わった人で、一番の問題児は誰だろうか?

さあ、誰に向かって書くのが決まりました。
でも、どうして1人に向かって書くことが売れる文章の条件になるのでしょうか?


◆「その問題に真剣に悩んでいる1人の人に向かって書く」が、なぜ売れる文章になるのか?

では、なぜ1人の人に向かって書く文章が、売れる文章を書くための条件になるのでしょうか?

これについては、弊社代表がよく言っていたことがあります。
かつて彼が、当時一世を風靡していた雑誌「anan(アンアン)」の編集長のセミナーを受講した時の話です。
セミナー後、彼は編集長に質問してみたそうです。

「『anan』の読者層は、どうやって決めたんですか?」と。

すると、その編集長はこう答えたそうです。

「この娘」

この娘とは、編集長の秘書のような仕事をしていた若い女性。
セミナーにも同行している、隣にいた女性が読者層であると言ったのです。
そして、こう付け加えたそうです。

「彼女が読みたい雑誌をつくること。彼女が喜ぶもの、彼女が行ってみたいところ、彼女が食べたいもの、彼女がもっときれいになれるものをテーマにすれば、彼女のウラには同じような女性が何十万人といる。だから、彼女のための雑誌をつくった」と。

つまり、「anan」の編集長は、いつも隣で仕事をしている女性1人のために雑誌をつくっていたのです。
それは、その後ろにいる同じような願望を持つ多くの女性をも虜にしたのです。

たしかに当時のマスの世界では大いに通用した手法かもしれません。
しかし、ビジネス書の世界ではまだまだ通用するものと思っています。
なぜならば、仕事においては、まだまだ多くの人が同じような悩みや問題を抱えているからです。

「どうしてお客さんが集まらないんだろう?」
「どうして商談がうまくいかないんだろう?」
「どうして経営がうまくいかないんだろう?」
「どうして人間関係がうまくいかないんだろう?」
「どうしてうまく説明できないんだろう?」
「どうして仕事が終わらないんだろう?」
「どうして給料が上がらないんだろう?」

もう挙げたらキリがありません。
それこそ同じような悩みや問題を抱えている人は、あなたが救った1人の後ろに何万人もいるのです。

これが売れる文章の条件の1つになります。

本日のまとめ
・その問題に真剣に悩んでいる1人の人に向かって書く
・読者には自分事のようにとらえてもらうことが大事
・多くの人に伝えようとする文章は冗長になりがち
・文章を書く前に、あなたが関わった人のなかの1人を決める
・1人の後ろには、同じ悩みや問題を抱えている人が何万人もいる


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