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第25回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

かなり前の話になりますが、私が書店で見かけた光景があります。

女子高生らしき2人組が、カバーをめくって表紙を見たり、中身を何度もパラパラと繰りながら何やら話をしていました。
その姿があまりに気になり、私は棚を見るふりをしながら、彼女たちの話に耳を傾けました(編集者の習性ですので、お許しあれ)。

彼女たちは、カバーや表紙のデザインについて話していました。
「このカバー、いいよね。中もかっこいいし(表紙のことです)。この紙って何かな? すっごいおしゃれ……云々」

いやぁ、正直びっくりしました。
女子高生が紙質まで語って、本を吟味していたのです。

と同時に、私はハッとしました。
もしかしたら本好きの方は紙も含めて、本のトータルデザインにもこだわるのかもしれないと。

というわけで、本日は本のデザインについて少しお話しします。


◆ビジネス書も様変わり。デザインはどんどん洗練されていく

タイトルについては、編集者が著者の原稿を読んで、テーマやジャンル、書店のどこに並ぶのかなどを調査して、競合する作品を見比べながらタイトル案を提案します。
このタイトルについては重要ですので、次回にお話しいたします。

さて、タイトルが決まると、編集者は作品にふさわしい”装丁家(ブックデザイナー)”を選び、デザインを依頼します。
その際、初めての装丁家にお願いするか、日頃からお付き合いのある装丁家にお願いするのかを考えます。

なぜ、この二者選択をするのかというと、初めて仕事をする装丁家の場合、仕事の進め方も初めてなら、どんなデザインが出るかも初めて、編集者のイメージが伝わるかも未知数のため、賭けの要素が大きいのです。

私の場合は、書店で見かけたカッコいい装丁やなかなか尖った装丁を見たとき、予定調和を崩してくれそうな感じがして、新しい装丁家にお願いすることがあります。
装丁家を探す場合は、本の内容を度外視して装丁だけを見て気になったものを買っていきます(これを「ジャケ買い」と言っています)。

そして、新しくお付き合いする装丁家の方々と2、3度仕事をするうちに、互いのイメージも話しやすく、精度が高くなっていきます。

いっぽう、ふだんお付き合いしている装丁家は、付き合いが長い分、こちらのイメージを伝えれば、ある程度イメージ通りのデザインが出てくることが多いので、安心してお任せできます。

いずれにしても、売れっ子デザイナーは、月に何本も仕事を抱えていることが多いので、スケジュールが合うかどうかも、その装丁家と仕事ができるかの判断になります。

こうして、さまざまな装丁家とお付き合いするわけですが、装丁に使用する紙を選択するのも装丁家の仕事です。

紙にはかなりの種類があり、紙に関しては装丁家と印刷所が詳しいのですが、ビジネス書もこうした紙質にこだわるようになってきました。

以前なら、ビジネス書はあくまで内容が重要だったため、カバーはコート紙にPP加工(カバーの表面がツルツルに光っていますね)、表紙もカード紙(板紙)というのが主流でした。

しかし、今では書店に並んでいる本は紙もさまざま。
しゃれた紙にデザインをほどこした本がほとんどと言っていいのではないでしょうか。

冒頭に述べた女子高生の会話は、まさに”お客様の声”だったと実感しています。

では、カバーや表紙はどのようにしてできるのでしょうか?
ちょっと専門的な話になりますが、ぜひ知っておいていただければと思います。


◆カバーや表紙は本文とはまったく別の工程で進められる

本には本文(中身)の周りに付随するものが、主に5つあります。
「カバー」「オビ」「表紙」「化粧扉」「見返し」と呼ばれるものです。
これらは「付物(つきもの)」と呼ばれています。

実際は本文に関係ない、別進行で行われるものを付物というのですが(たとえば、読者ハガキなども付物です)、装丁家との仕事は、上記の5つがメインです(見返しは表紙と本文の間に挟まれている紙で、ほとんどは印刷しませんので、紙だけ指定します)。

そこで、実際にどう出てくるのかを私が今、進行している付物で見てみましょう。

付物写真

写真は『1分彼女の法則』(ひすいこたろう/大嶋啓介/白鳥マキ・著)という本です(これから発売になる本です)。
この本は「予祝」という考え方を解説した『前祝いの法則』(ひすいこたろう/大嶋啓介・著)を恋愛に応用した作品で、装丁家は同じ方です。

写真を見ていただくとわかるように、「カバー」「オビ」「表紙」「化粧扉」と、4つ別々に印刷されてきます。
なぜ別々に印刷されて出てくるのかというと、それぞれ紙が違うためです。

これは「色校(いろこう)」というのですが、装丁家が指定した色が、選ばれた紙でちゃんと印刷で反映されているかを確認する作業です。

著者には、色校前にカバーラフ案などで事前に確認していただくのですが、ここまで出ると「ついに本になるのか~」と実感していただけます。

『1分彼女の法則』では、ジャンルがビジネス書ではないので当然なものの、紙もかなり考えていただいています。

・カバー Mr.B ホワイト/四六判/135kg
・オビ  キャピタルラップ/100g/m2
・表紙  ライトスタッフGA/四六判/170kg
・化粧扉 キャピタルラップ/100g/m2(オビと同じ)

「Mr.B ホワイト」「キャピタルラップ」「ライトスタッフGA」というのが紙の名前ですが、変な名前の付いた紙が多く、編集者もすべての紙の名前を覚えているわけではありません。さすがにここは専門の領域です。

本のわずかな質感によって、たとえば、上記の「ミスターB」に近い「ミセスB」という紙もあります。
ちなみに、『1分彼女の法則』のオビ「キャピタルラップ」は、なんとなくプラスチックのような質感の紙で、中のイラストがいい具合に映える感じです(質感をお伝えできないのが残念ですが)。

とにかく、装丁家がどんな紙を指定してデザインを考えるのか。実は、編集者にとっても色校は楽しみなのです。

もちろん紙の値段もありますから、そこは装丁家との話し合いが出てきます(値段については、装丁家もそこそこわかっているので無茶に高い紙は指定しません)。

色校は、実際に本になるまで著者が見ることはほとんどないのですが、喜ぶ姿を想像しながら最終校正をしています。

ちなみに、紙の名前の横にある「四六判/135kg」というのは、「紙の取り都合(四六判)/紙の重さ・厚さ(斤量)」です。

簡単に説明すると、紙の取り都合とは、紙にはサイズ(全判)があり(四六判、菊判、B本判、A本判、ハトロン判など)、たとえば、カバーサイズを全判からつくる際、余り(ロス)の少ないようにすること。
一番ロスの少ない判を選ぶことを、取り都合が良いなどと言います。

紙の重さは、カバー135 kg。これは紙を1000枚重ねたときの重さで、1枚の紙の重さは135 kg÷1000枚=135gです。100g/m2も斤量の単位です。

以上、ビジネス書でも見られるのですが、昨今のデザインは紙にも気を使っています。
読者が本を手に取る第一歩として、タイトルとデザインを見て、その本の質感をよしとしていただければ、著者も編集者もこのうえない幸せを感じます。

さて、本を手に取る第一歩なのですが、トータルデザインも去ることながら、「タイトル」が読者の目に飛び込んでくるのか。
ここは編集者が決断しなければならない重要な要素です。
次回は、このタイトルについて考えてみたいと思います。

それではまた来週。

本日のまとめ
・現在では、本の装丁(紙質もこだわった)がビジネス書においても重要な要素になっている
・編集者は作品にふさわしい装丁家(カバーデザイナー)を考え、デザイン(仕事)を依頼する
・編集者は作品の内容やほかの本と並んだときのイメージを装丁家と打ち合せながらデザインしてもらう
・本文とは別進行で行われるカバーや表紙などは付物と呼ばれる
・付物はそれぞれ別の紙の場合が多く、それぞれの紙で印刷され色校を行う
・紙はさまざまな種類と変わった名前があり、「紙の取り都合(四六判)/紙の重さ・厚さ(斤量)」がある。

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