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第20回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

ビジネス書を書くというテーマでお話しをしているのに、今回も小説の話から入ります。

私はシリーズ小説や同じ作家の作品をよく読みますが、気に入ると、やはり続きが読みたくなりますし、同じ作家の次の作品も気になります。

かつては時代小説シリーズで上田秀人さんの作品にはまりました。ほかにシリーズでは、「みおつくし料理帖シリーズ」の高田郁さん、「鯖猫長屋ふしぎ草紙シリーズ」の田牧大和さんなど。
近年の小説では、「階段島シリーズ」の河野裕さん、「ビブリア古書堂シリーズ」の三上延さんなど、ベストセラーにもなっている作品もあるので、読んでいる方もいるかもしれませんね。

また、小説にかぎらずマンガについては、読み進めたら止まらないという経験は誰しもあるでしょう(マンガはコミックアプリが登場して以来、大人買いをしてしまうので怖いですね。最近、私がはまっているのは『青のオーケストラ』です)。

と、前置きが長くなりましたが、多くの読者はそれぞれに好きなシリーズや作品というものがあり、言い換えれば、その作家のファンであるということです。

ビジネス書においては、それぞれの悩みに即した場面で本を選択することが多いためか、作家でビジネス書を選ぶというよりも、その時々の問題解決のために本を買うという読者が多いはずです。

しかし、ビジネス書の著者であっても、読者をファン化していく方法があるのです。


◆次の作品が生まれるかは、読者のファン化にかかっている

私には「誰でも1冊は本を書ける」という信条があります。
人生という映画のなかで、本にならないものはない。人それぞれに喜びや悲しみを経験し、そこで描かれた気づきや教訓は、もしかすると多くの人の学びになるかもしれません。

しかし、1回は本という形として誕生するかもしれませんが、たいてい1回かぎりです。
なぜなら、読者に提供する“引き出し”を多くの人は持っていないからです。

たとえば、コンサルタントが書く本が次々と出版される理由は、彼らはクライアントから多くの事例が集まり、その手法や問題解決法がどんどん更新され、新しい情報を提供できるためです。

これなどは自然に引き出しが生まれてくる例として、わかりやすいものです。
いわば、ちょっとしたシリーズと言っていいかもしれません。

すでに多くの引き出しを持つ戦略的な著者は、「このテーマは、この出版社で、あのテーマは、あの出版社で」と、出版社に合ったテーマを分けて書く方もいます。

ここまで戦略的にならなくてもいいですが、せっかくビジネス書を書こうと思うなら、次の作品を見据えて読者をファン化しておく必要があります。

次の作品ということでなくても、たとえば、出版後に行う講演会やセミナーなどに読者が足を運びたい、この著者に会ってみたいと思ってもらわなければ、本を出版した喜びも半減してしまうでしょう。

そこで、文章術としての読者をファン化させる、ちょっとした方法をお伝えします。それが「売れる本を書くための12か条」その12、

「おわりにの書き方 こんまりの法則」です。

まず、なぜ“おわりに(「あとがき」とも言います)”が大事なのか。
それは読者が最後に読むページだからです(たまに最初に読まれる方もいますが)。

読者が最後に読むということは、この“おわりに”を読み終えたとき、どんな感情で読了したのかが重要になってきます。

とにかく、読者は読了したという満足感があります。
この満足感を得てもらうために、書き手はさまざまな工夫を凝らして読了までこぎつけるのです(理解しやすい構成、思わず引き込まれてしまう文章や描写、図版や写真の挿入、キャラクターの創出、改行や行空きといった加読力……等々)。

読者の終盤の満足感や高揚感のなかで、最後に“おわりに”を読むとしたら、ここが読者をファン化させるチャンスです。

そこで私が発見したのが「こんまりの法則」です。

「こんまりの法則」とは、あの100万部を突破した超ベストセラー、近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)の“おわりに”から気づいたことです(現在は、改訂版が河出書房新社から発売されていますが、“おわりに”は変わっています)。

近藤さんに許可を取っておりませんので、“あとがき”の全文をお見せすることはできませんが、実にシンプルに書かれています。
たった2ページで、文字数もおよそ700字。

しかし、この“あとがき”を読むと、彼女のファンになってしまうのです(その後の活躍は言うまでもありませんし、2作目以降もベストセラーになっています)。

まず、冒頭の1行でいきなり引き込まれます。

「先日、片づけをしすぎて病院に搬送されました。」

“あとがき”の冒頭がいきなりの告白です。

その後、お客様の家で片づけをしていたら体が動かなくなって病院に運ばれ、カルテに「片づけしすぎで」と書かれた経緯が綴られています。
そして、病院に担ぎ込まれたにもかかわらず、それが“幸せ”と言うのです。

最後に、片づけの素晴らしさや感動を日々の暮らしのなかでも得られる、そんな魔法の体験をたくさんの方に知ってほしいと締めています(そのあとは簡単な謝辞)。

この2ページを読み終えた読者は、おそらく著者に会ってもっと片づけの話を聞いてみたいと思わずにはいられないはずです。

この文章を読んだとき、私はある法則に気づきました。

・ちょっとした失敗談を書く
・失敗しても自分の仕事に情熱を注ぐ
・この情熱を読者に伝えたい

つまり、「片づけのメソッドを解説したけれども、そんな私も失敗はたくさんありますよ」という、読者と同じ位置に自分を置くことで、より近い存在にしていることです。

また、「こんな失敗しても、私は片づけを愛してやまない。だからこの幸せを多くの人に知ってほしい」と情熱を傾けることで、読者も「この人の言っていることは間違いない。もっと知りたい」と、彼女の情熱に乗っかっていくのです。

たった14行の“あとがき”です。
しかし、この短い文章には読者をファン化させる要素がギュッと詰まっているのです。

私は、これまでさまざまな“おわりに”を読んできました。
実際にはほかにも、ちょっとした要素もあるのですが、今回はこの「こんまりの法則」を覚えていただければと思います。


◆出版社は著者のステージを上げていくことが仕事である

「売れる文章を書くための12か条」も、これが最後になりました。
最後は“おわりに”の書き方で締めましたが、12か条は、あくまでもビジネス書を書くための“はじめに”(始まり)です。

第1回目の連載で、「著者にとっても編集者にとっても人は財産」ということを書きました。

もし、あなたが著者としてビジネス書の世界に足を踏み入れたら、編集者とは長い付き合いになります。
言い換えれば、編集者はさらに売れる著者として、2作目も3作目も書いていただきたいと思っています。

そして、著者にはその過程でどんどん自身のステージを上げていってほしいのです。

編集者は売れる本を世に出すことが使命ですが、それは多くの読者に読んでもらい、1人でも多くの方に著者の作品から救われてほしいという願いがあります。
いっぽう、著者にはもっと活躍していただき、著者の幸せをおすそ分けしてもらう。それがもう1つの編集者としての幸せです。

そのためには、多くのファンを持っていただき、ファンの方たちのさらなる幸せに、編集者として携わる。

これって、ビジネス書の編集者(私)の9割を占める頭のなかです。

あなたもぜひ、この世界に挑戦していただければうれしいです。

さて、「売れる本を書くための12か条」については終わりましたが、この連載、もう少し続きます。
ビジネス書を書くなら、知っていて損はないということを綴ってまいります。お付き合いのほど。

本日のまとめ
・シリーズものやマンガを読みたくなるのは理由がある
・2作目以降を書くためには読者のファン化が必要
・読者をファン化させるために“おわりに”は重要
・ファン化させる「おわりにの書き方 こんまりの法則」
・“おわりに”にちょっとした失敗談と、失敗を超える情熱を伝える
・編集者には「著者のステージを上げる」という思いがある

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