第7回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」
第7回目をお届けします。

これまで、あなたが本の企画を立てる際に、
”編集者は企画書の何を見ているか”という視点で
いくつかのポイントを解説してきました。

おおまかにまとめると、以下のようになります。

編集者が企画書を見るポイント(あなたが企画を立てる際の要素)
・本のテーマ、ジャンルを明確にする
・3割の新しいオリジナリティを入れる(類書との差別化)
・本の内容が再現化できる(読者にもできるメソッド、スキル)
・強いメッセージ性がある(著者視点の主義・主張)
・あなただけの魅力的なプロフィール

これらのことをどう見つけて、どうつくるかは、
それぞれの回でお話ししました。

さあ、企画書で最後に書くのは「目次=構成」です。


◆目次は重要なのか、否か?

これはあくまで私の場合ですが、
目次はそれほど重要視していません。
なぜなら企画書が送られてくる際に、上記のポイントが明確なら、
まずはその方に会ってみようと思うからで、
いろいろとお話を伺っている時に目次は大きく変わってくるからです。

とはいえ、現時点でどんなことを綴っていくのか、
そのガイドラインとして目次がないと企画書らしくありません。
そして何より、目次に面白いことや、
ここは深く聞いてみたいということが書いてあれば、
お会いする時に取材したい部分となります。

一方で、完璧な目次が出来上がっていたら、
ぜひその内容に沿ってそのまま書いていただきたい、ということは言うまでもありません。

つまり、目次の構成は、完璧であれば編集者にとって著者は鏡であり、
そもそも構成を著者と一緒に考えていくのが、編集者の仕事であるということです。

ですから、目次をつくるという作業は、
すでに文章を書くに等しい領域であり、
それなりに知識を身につけないと、
魅力的な目次は生まれないと言っていいでしょう。

では、簡単に目次をつくる方法はないのでしょうか。


◆目次は簡単につくれる。文章の基本に立ち戻ろう

目次の基本的な考え方について、
文章を書く際に誰でも一度は学んだ基本を思い出してください。
おそらくあなたも小学生の時に、作文を書く方法として教わったものだと思います。

それは「序論・本論・結論」です。

「えっ!? それでいいの?」と思った方もいるでしょう。

たしかに文章を書く時の手法はたくさんあります。
たとえば「起承転結」や「序破急」などです。

構成を起承転結でまとめると、何だかカッコいい。
しかし、この手法は物語を語る際に使われる手法で、
実はあまりビジネス書には向きません。

たとえば、誰でも知っている「桃太郎」を例にとれば、こうなります。
起・・・主人公の桃太郎が誕生する
承・・・鬼退治に向かう道すがら犬、猿、キジを仲間に加える
転・・・それぞれが大活躍しての鬼退治
結・・・お宝を取り戻して村に平和が訪れる

これをもしビジネス書、たとえばセールスの本に変えてみると・・・
起・・・まったく売れないセールスパーソンがいる
承・・・さまざまな苦難を乗り越えながら、ある営業手法を発見する
転・・・実際の現場で使ってみたら大成功
結・・・ヒーローになり、会社にも自分自身にも平和が訪れる

と、こんな感じになるでしょうか。
もちろんダメだということはありません。
実際にビジネス書でもこうしたストーリ展開で読ませる本もあり、
それはそれで面白い作品もたくさんあります。

しかし、設定する舞台も主人公のキャラもつくり込みが必要ですし、
その苦難や解決法も読者を唸らせるような劇的な展開が必要です。

つまり、起承転結はもはや”エンターテイメント”であり、
メソッドやスキルなどを早く知りたいと思う、ビジネス書を読む読者にとっては必要十分な書き方とは言い難くなるのです。

前置きが長くなりましたが、
「序論・本論・結論」は、どんなまとめ方になるでしょうか。
先ほどのセールス本を例にとると、こんな感じです。

序論・・・なぜモノが売れないセールスパーソンが多いのか、何が原因なのか
本論・・・それを解決する方法がここにあります
結論・・・この方法をあなたはこう使えばうまくいきます

「序論・本論・結論」とは、じつにシンプルです。

序論では、現実的な問題やなぜその問題が生じているのかということを提起していきます。ここでは、「たしかに私も同じ問題や悩みを抱えている」「うまくいかないのはこういう理由だったのか」など、読者がそもそも抱えている問題や悩みなどを提示し、あぶり出す部分です。

そして本論で、そうした問題や悩みを解決する具体的な方法を述べていきます。読者もここで「なるほど、こんな方法があるのか」「これは自分でも使えかな」など、本の売りである需要な部分を吸収していきます。

最後に結論で、「あなたもこの方法を使えます、たとえば・・・」と示すことで、読者は自分にも使えるようにカスタマイズしていきます。

この「序論・本論・結論」を基本に構成(目次)の骨組みを完成させ、
そこにさまざまな要素を肉付けしていくのです。


◆基本を応用させた、ビジネス書ならではの目次のつくり方

さてここで、少し疑問に思った方もいるでしょう。

「『序論・本論・結論』でまとめると、3章分にしかならないじゃないか」と。

たしかにその通りです。
本の目次になったら、あまりにも大雑把ですよね。
そこで1つ、とても参考になる手法があります。

有名なのでご存じの方もいると思いますが、
カリスママーケターであり、コンサルタントの神田昌典氏が提唱した
「PASONAの法則」です。

この法則は、もともとダイレクトレスポンスマーケティングに有効で、
セールスレターやDM(ダイレクトメール)の文章に使われた手法ですが、
ビジネス書の構成にも応用できるのです。

【PASONAの法則】
P(Problem 問題)
問題や悩みを明確化する(読者に喚起を促す)
A(Agitation 煽動)
問題や悩みをあおり立てる(なぜなのかをさらに明確にすることで、読者は共感する)
SO(Solution 解決策)
問題や悩みの解決策を示す(読者は具体的な方法を理解する)
N(Narrow down 絞り込み)
顧客や期間を限定する(読者は問題や悩みをカスタマイズする)
A(Action 行動)
行動や実践を呼びかける(読者は自分もやってみようと考える)

この法則を先ほどの「序論・本論・結論」に当てはめるとこうなります。

序論→「P(Problem)」と「A(Agitation)」
本論→「SO(Solution)」と「N(Narrow down)」
結論→「A(Action)」

これで5章までが出来上がります。
先ほどのセールス本をさらに「PASONAの法則」で展開してみます。

【序論】
P・・・なぜモノが売れないセールスパーソンは多い
A・・・あなたがモノを売れないさまざまな理由
【本論】
So・・・解決する方法がこれです!
N・・・たとえば、こんなふうに使うことができます!
【結論】
A・・・仕事で実際に活用するためにあなたができる第一歩(コツや習慣、ヒントなど)

以上、目次の章立てが出来上がります。
そして、各章で書くべき項目(見出し)を載せていけば、
全体の目次がつくれるのです。


◆実際の目次はどうなっているのか?

目次や見出しは、本を手に取った読者が、実際に読んでみようかと最初に目にするところです。
ですから、目次を読んでもらって、
いかに内容が読みたくなるか魅力的なキャッチが必要です。

しかしここは、編集者の腕の見せどころでもあります。

私がまだペーペーの編集者だった頃、
上司から編集アシスタント的に学んでいた時に、
「目次は最後の最後まで粘って考えろ」と教えられました。

その上司は、それこそ校了寸前まで目次に赤字を入れていました(その時は翻訳書の編集でしたので余計に粘っていました)。
ですから、ここは編集での著者との作業になってくるのですが、
構成という観点から、実際の目次を見てみましょう。

ここでは「PASONAの法則」にのっとって、
神田昌典氏の『あなたの会社が90日で儲かる』(1999年発売)の目次を紹介します。

なぜあなたはこの本を手に取りましたか
第1章 なぜ悪徳業者が儲かり、正直者は失敗するのか
悪徳業者が栄える時代なのか?
「真面目」と「儲かる」の相関関係はない
「忙しい、でも儲からない」から、「暇だけど、儲かる」へ
正直者が失敗する理由①
「いつかはきっと・・・」は泥沼への第一歩
正直者が失敗する理由②
石器時代の数字で儲ける業者たち
安売りは、バカにやらせておけ
お客が感じる価値を高める方法
正直者が失敗する理由③
販売に関する根本的な誤解
できる営業マンは、しゃべらない
正直者が失敗する理由④
弱者は、不平等条約を結ばされる
正直者が失敗する理由⑤
売り手の感情と、買い手の感情その許しがたいズレ
お客の感情はメカニカルに動く
正直者は、こうすれば、ダントツになる
第2章 元エリートの告白―エリートは、こうしてあなたを罠にかける
エリートが、叩き上げ経営者をダメにする
一流コンサルタントの実力はお粗末
いいコンサルタント、悪いコンサルタント その簡単な見分け方
ビジネススクールは役に立たない MBAの真実と嘘
ビジネスとは、ここまで単純な話だった
能なし広告代理店 あなたは、このようにカモにされている
なぜ「儲からない広告」があふれるのか
広告のプロは、商品を売るプロではない
私自身が、失敗の連続だった
第3章 エモーショナル・マーケティングの魔法
奇跡は、こうして起こった
広告宣伝の反応を飛躍させる鍵とは?
この奇跡は、偶然か、それとも必然の結果なのか?
反応を上げるだけじゃ、意味はない
魔法を起こす三つのポイント
業種、そして時間を超えて応用できるのは、なぜか?
ワン・トゥ・ワン・マーケティングを超える?
インターネットが陥る、落とし穴とは?
第4章 お客が自動的に生み出されるシステム
お客を、あなたに引き寄せる設計図とは?
お客を導くための、設計図の三大ポイント
「そのうち客」が、あなたに与える三つのメリット
一本釣りか、それとも投網をして魚を取るのか?
こうすれば、お客を「いますぐ客」に育てることができる
「いますぐ客」だけを追う会社と、「そのうち客」を育てる三年後は?
こうすれば、「そのうち客」が集まる
どうすれば、お客に信頼されるアドバイザーになれるのか?
お客に手を挙げてもらった後は、どうすればいいのか?
エモーショナル・マーケティングの進め方 戦略立案から実行まで
感情を軸として、戦略を立てる
日常業務をやりながら、営業ができる仕組みづくり
お客を自動的に生み出す、究極の営業システム
第5章 あなたの会社を高収益企業に変える九〇日
あなたとの対話~いますぐできること
なぜ、あなたの業界にも、当てはまるのか?
事例研究1 法人営業で、新規販売店を開拓する場合
ご用聞きから、どうすれば抜け出すことができるのか?
新規開拓の突破口となった、ダイレクトメール
魔法が起きる三つのポイント
営業システムを改善すると、営業マンが活性化する
事例研究2 高額商品販売で、新規顧客を開拓する場合
営業マンとの距離を一気に縮めるチラシ
商品戦略の重要性
他社が手を出せないお客を、成約する仕組み
事例研究3 低価格商品の販売で、新規顧客を開拓する場合
通信販売が不可能と思われる商材で、通信販売を立ち上げる
サンプル請求は多い。しかし売れない挫折感
商品の売れる切り口を発見するツール ニーズ・ウォンツ分析法
味噌・醤油の売り上げを一〇倍にした、商品の切り口とは?
事例研究4 法人向けサービス業が、セミナーや勉強会へ集客する場合
自分で集客できなけりゃ、話にならない
非常識が、非常識な結果を出す
反応を誘発する二つのキーワード
なぜ、あなたは、この本を買ってしまったのか

この目次を見ると、かなり挑発的な見出しが並んでいることがわかります。
これは意図的にしていることであり、
著者のキャラクターをつくっていく作業になるのですが、
これはまた別の機会にお話しするとして、構成を眺めてみてください。

第1章では、真面目に仕事をしている正直者ばかりが失敗する現実(問題)を提示しています。
第2章では、会社のお金を奪っている輩の存在を明確にして、問題をさらにあぶり出して(煽動)いきます。
第3章で、この本の主題であるエモーショナル・マーケティングについて、お客の消費欲求を上げる手法(解決策)を開陳しています。
第4章では、お客のつくり方、営業の戦略やそれぞれのポイントを絞って(絞り込み)解説しています。
最後の5章では、新規顧客を獲得するために行動を促す事例を検証(行動)しています。

こうした流れが「序論・本論・結論」を応用した「PASONAの法則」です。

もちろん構成の考え方は、このほかにもさまざまあります。
あなたも、いろいろなビジネス書の目次に注目してみてください。

きっと魅力的な、読者が読みたくなるような目次がつくれますよ。

本日のまとめ
・企画書でも実際に本を書く時でも「目次」は必要であるが、そもそもつくるのは難しい
・簡単に目次をつくるための基本は「序論・本論・結論」
・「序論・本論・結論」で章立てにするための応用として「PASONAの法則」がある
・「PASONAの法則」とはProblem(問題)、Agitation(煽動)、Solution (解決策)、Narrow down(絞り込み)、Action(行動)
・さまざまなビジネス書の目次に注目してみる





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