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新しい産業の勃興に欠かせない「ロビイスト」という存在

フォレスト出版編集部の寺崎です。

ブロックチェーン界隈で話題の新刊『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』(落合渉悟・著)について、先日、発売後の反響について記事にまとめました。

『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』(以下『#僕メタ』)では「国家のDAO(自律分散型組織)化」がテーマなのですが、実はとんだ絵空事ではなく、政府与党から「NFTホワイトペーパー(案) Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略」というものが発表されています。そのなかで「DAO特区」という表現が登場します。

そして、なんと! 自民党本部青年局が記者会見で、自民党青年局がNFTを発行することを発表したそうです。

こうした動きに強く関わっているのが、『#僕メタ』で著者の落合さんと対談している樋田桂一さん(ブロックチェーン戦略政策研究所代表)です。

樋田桂一(ひだ・けいいち)
ブロックチェーン戦略政策研究所代表
大学在学中、東京めたりっく通信株式会社に入社。職業能力開発総合大学校 電気電子系 電子工学科を中退。2014年9月に発足した一般社団法人日本価値記録事業者協会(JADA)に事務局長として参画。16年4月に一般社団法人日本ブロックチェーン協会へ改組。18年10月まで事務局長として活動する。暗号資産(仮想通貨)に係る法整備、税制改正、会計基準などの策定に参画。国内での行政や事業団体等での講演多数。海外のカンファレンスへの登壇(台湾、韓国、ウクライナ)。22年1月株式会社ブロックチェーン戦略政策研究所を設立、一般社団法人日本ブロックチェーン協会アドバイザーに就任。22年2月一般社団法人DeFi協会アドバイザーに就任。

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』より

今日は本書の対談相手である3人の論客のトップバッターであるロビイスト・樋田さんと落合さんの対談「足元から参政せよ。DAOで取り戻す民主主義の本質」から、おいしいところを抜粋してお伝えしたいと思います。


法を「拡張」できるのは政治家だけ
政治家と歩むロビイストの奥義

落合(以下:O)今回、対談をお願いした樋田さん、内田さん、星さんの3人は、僕がこの国のDAOとAlgaの話をしたら、ものの1時間で完璧に概要を理解し、示唆をいただいた3人です。そんな人は地球上でたった3人。僕は英語も話しますから、英語圏をはじめとする海外の人にもTEDxなどを通じて2年ほどこのアイデアを発信してきましたが、こんなに理解の早い人たちは他にいなかった。間違いなく知の巨人である3人をお招きでき、大変光栄に思っています。
最初の対談のお相手の樋田さんは、“政治の師匠”として拝んでいる存在です。非常に優秀なロビイストとして、各方面で活躍されていますが、まずは簡単に自己紹介をお願いできますか。
樋田(以下:H)現在は株式会社ブロックチェーン戦略政策研究所の代表取締役をやっています。2014年7月から2018年10月末までは、日本ブロックチェーン協会の事務局長を務めていました。しばらくロビー活動は休んでいたんですが、業界の状況を見て、再開しなければいけないと思って、ブロックチェーンに特化したシンクタンクの会社を2022年1月に作ったところです。
というのは、日本のブロックチェーン産業って、2017年頃は世界一だったんです。それが2018年にコインチェックの事件が起きて、一気に規制が強化されて市場が萎んで停滞した。このままでは世界から取り残されると危機感を持ったわけです。
O つまり樋田さんは、日本の仮想通貨業界の父、といっても差し支えない人。今、世の中を華やかに彩っている仮想通貨交換業の社長さんたちは、樋田さんに恩義を返すべきだと僕は思っています(笑)。
で、今日はブロックチェーンの持つ通貨的な性質ではなく、人類史における根本的な価値について話したいのですが、それは、一言で言えば、人間のコンセンサスがうまく取れるところです。町内会でも、学校のPTAでも、マンション理事会でも、リーダーを決めなくても、「こうした用途にこれだけの予算を使いたいけど、どう思いますか?」という意思決定が取れるアプリを作れてしまうのがブロックチェーンのすごさです。そのひとつがすでに実装が始まっているAlgaで、理論的にはこれは自治体にも国にも使えます。ですが、理論と現実の間には大きな乖離がある。新しい技術で世の中を変えられるはずなのに、法律や規制が邪魔をしてうまくいかないと思っている若者はたくさんいるわけで、そこを突破するために必要なのが「政治」の力だと思うんです。そこで、長年ロビイストとして、理想と現実のバランスを取りながら物事を前に進めてこられた樋田さんの知見や経験を伺えたら、と。

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』より

樋田さんが「日本のブロックチェーン、どげんかせんといかん」と立ち上がったきっかけが「コインチェック事件」とのことです。

コインチェック事件とは、2018年1月26日、大手仮想通貨取引所「コ
インチェック」から仮想通貨のNEMがハッキングされて、日本円にして約580億円が不正に流出した事件です。

H 本題から離れるかもしれませんが、まずは私のロビー活動をかいつまんでお話しするのがいいかもしれませんね。2014年3月7日に衆議院第一議員会館に行ったことが始まりです。2014年2月に、マウントゴックスというビットコインの取引所がハッキングを受けて破綻しました。それを機に、政府が仮想通貨取引を禁止するかもしれないという記事が出たので、個人的に、政治家の先生のWebサイト経由で問い合わせをしたんです。
当時は業界団体も何もなかったから、直接自民党の担当していた先生へ問い合わせました。そうしたらすぐに電話がかかってきて、明日、議員会館に来られますか、と。
O 投資家たちが大きな損害を被った事件だったんですよね。
H そうですね。日本だと1000人規模だけど、世界中だと約13万人という被害者が出て、影響が大きかった。だけど、ビットコインには可能性があったので止めちゃまずいと思ったんです。仮想通貨や、それを支えるブロックチェーン技術が、インターネットの次に来る価値のインターネットになることがわかっていたので。
O 2014年の時点で見えていたんですね。
H 完全に見えていました。もともと私はエンジニアなので、政治に興味はあったものの、専任でやっていたわけではないんですよ。でも、これは動かなきゃならないと思い動きました。ホームページから問い合わせたのは福田峰之先生で、当時は自民党にIT戦略特命委員会というのがあって、福田先生が事務局長、委員長が平井卓也前デジタル担当大臣。その2人が担当されていらっしゃったのが非常に良かった。そこからロビー活動を始め、自民党で話し合われたんですが、当時は監督省庁も決まってなかったんです。経済産業省か金融庁かという話になったときに、どっちの省の官僚も拒否していたんだけど、政治判断で金融庁になって今に至ると。

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』より

コインチェックのハッキングの国内事例の前に、「マウントゴックス事件」というのが世界的には大ニュースとなりました。

2014年当時、世界最大級の仮想通貨交換業者であったマウントゴックス社のサーバーから巨額のビットコインと顧客の預かり金が消失した事件で、被害総額は470億円相当のビットコインと現金28億円と言われています。

そこで「ビットコインが規制されるかもしれない」という情報を耳にして即座に動いたのが樋田さんというわけです。

でも、なんとなく私たちが連想する「ロビイスト」「ロビー活動」とはイメージが違いますよね。

O ロビー活動というと、政治にうまく働きかけて、自分が通したい法律を通す、みたいなイメージを持ってる人も多いと思うんです。現実には、みんなの利益を考えて動かれるわけですよね。
H はい。その「みんな」が指すのは主にステークホルダーで、業界全体として産業を育成していくという視点が大事になってきます。仮想通貨の交換業って本当に小さなところから始まりました。それを大きくするためには、公正なルールが必要になってくる。具体的には法律、税制、会計などの新たな整備が必要なのですが、それを作ることができるのは政治家だけなんです。
要するに、政治家とは、「法を超える」人たち。対して官僚は、法の中でいかにものごとを進めるかを考える人たち。
O わかります。政治家は法を拡張していく存在というか。
H そうですね。例えばベンチャーの起業家って、法の枠組みのいちばん外側のギリギリのところ、あるいは1ミリはみ出すかどうかの線を狙って新規ビジネスを立ち上げたりするはずです。はみ出すとアウトと言われる可能性が日本では高い。アウトにならないように、OKの線を拡張していくのが政策なので、政治家や官庁、関係団体やステークホルダーに説明をして、法の枠組みを広げてもらうためのロビー活動を行ってきました。
当時は、今もそうかもしれませんが、ビットコインって、詐欺まがいのものだと思われていたんですよ。ある経営者に「おはじきみたいなもんでしょ」と言われたこともあります。その中で一生懸命説明するところから始めて、応援してくれる人を少しずつ増やしていった。2016年に、資金決済法に追加される形で、法律が成立するんです(2017年4月、改正資金決済法等の施行)。
O 法の拡張って、つまり、すでにあるコンテクストに合わせていく作業なんですね。
H はい。アメリカだと、議員さんの名前の付いた新しい法律が作られたりするんだけど、日本では、慣習として、今ある法律の中に追加したり、今ある法律を修正していきます。
と、ここまで長々と話してきましたが、要するに、新しい業界ができて、成長して、業界内の会社に人が雇用され、給料が支払われて、会社と雇用者たちが納税することによって国が動き、大きくなっていく。この一連の流れを作ることができるのが政治と、プラスして、私たちのようなロビー活動をしている人たちだということです。

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』より

なるほどー。新しい技術が生まれ、それを基盤にした新しい産業が立ち上がる。そして、それを我々の活動に根差すためには、こうしたロビイストの方々による活躍が重要になってくるわけですね。

居酒屋で岸田さん、安倍さんのことを談義するけど、市町村の予算を知ってますか?

O アメリカだと、スタートアップが技術で突き抜けて、法律を含め既存の枠組みを壊していく手法が目立つから我々も真似したくなるんですけど、日本だとやっぱり違うんですよね。関係各所と丁寧にコミュニケーションをとって、合意を得た上で産業を作っていくのが日本のやり方。
H それもあります。やっぱり相談する案件を持っていく先が重要になります。ベンチャーの人って法律に困ると、省庁に相談に行きがちなんです。著作権法だったら文化庁とか。だけどそれは失敗の元。法を超える存在としての政治家へ相談しに行かなきゃいけないんです。政治家の先生に紹介してもらって省庁に行くと、いきなり幹部レベルが出てくる。話が早くて、私たちの場合は2年という短期間で法律ができたんです。
O とても腑に落ちました。権利闘争とか社会運動みたいな動きではなくて、ピンポイントで政治家の先生のところに行くと。
H もちろん市民運動とかデモとか、そういう運動が有効な場合もあるんですよ。そして私が自民党をもともと好きという話でも全然ないんです。2014年の仮想通貨をどうするかというときは、権力を持っているところにお願いするのが一番早かった。きわめて現実的な判断です。
その後2022年に入って、自民党デジタル社会推進本部の下のNFT政策検討プロジェクトチームの座長を務めてこられた平将明先生に働きかけてきて、この5月に、岸田内閣の成長戦略にWeb3政策が入ることになっている(2022年4月現在)。これは本当にすごいことです。
O 僕は、そういうリアリスト・樋田さんを非常に信用しているんです。
H ブロックチェーン業界って、潰されてもおかしくなかったんです。政治の力が発せられたことで、10年弱、ここまでやってこられた。もちろん、この先どうなるかわかりませんが、それは私の頭の中に強くあります。
O いろんな産業の裏には、樋田さんのような努力が存在していると。
H なかなかお会いすることはありませんが、いらっしゃると思います。
だから私が言いたいのは、ベンチャー企業で法律や制度に困っていることがあったら、政治家に相談したらいい。国会議員を知らない人もいると思うんです。そういう人は、まずは自分の住んでいる県会議員さんとか市会議員さんに話をして、会社でこういうことがあって困ってると相談すれば、的確な人を紹介してくれるはずです。
私の場合はたまたま国会議員の先生のHPに問い合わせて電話をいただいたけれども、私は、自分の住む地域や出身地の議員さんを知っています。政治って何事も、国を云々論ずる前に、自分の足元を見ることが大事だと常々思っているんです。

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』より

「ベンチャーの人って法律に困ると、省庁に相談に行きがちなんです。著作権法だったら文化庁とか。だけどそれは失敗の元。法を超える存在としての政治家へ相談しに行かなきゃいけないんです」

この指摘には目からうろこでした。この事実だけでも、参考になる起業家の方がいらっしゃるのではないでしょうか。

少し長くなりましたので、今日はこのへんで。

▼『#僕メタ』の詳しい内容はこちら


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