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【本づくりの舞台裏】カバーが最終着地するまで

フォレスト出版の寺崎です。

読者の関心を惹いて、手に取らせて、書籍のメッセージを瞬時に伝えるために「カバーデザイン」が大事であることは、本連載で何度かお伝えしてきました。

今日はカバーデザインが、最初のラフからどんな変遷を経て読者のみなさんに届けられるのか、ロングセラー定番書お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ・著)を事例にお話ししてみようと思います。

カバーデザインのコンセプトを固める

『お金は寝かせて増やしなさい』の著者・水瀬ケンイチさんは、インデックス投資の老舗ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」著者として、すでに山崎元さんとの共著で『ほったらかし投資術――インデックス運用実践ガイド』(朝日新聞社出版)という新書がベストセラーになっていました。

『ほったらかし投資』の内容はとても素晴らしく、インデックス投資初心者にはめちゃくちゃ参考になる。ただ、どうしても新書ゆえに「読み物」の印象が強く、運用を進めるうえで迷ったときに開く……といったバイブル感が「新書」という性格上、出しにくい。

そこで「インデックス投資のバイブル的単行本が成立すれば売れるかも?」と考えました。

カン・チュンドさんの。『忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術』(明日香出版社)がロングセラー化していたのも見逃せません(この本もおススメです)。

さっそくデザインを依頼するtobufuneさんに打ち合わせに伺います。

余談ですが、編集者がデザイナーさんのところに打ち合わせに行く目的は、ビジネスとしての「打ち合わせ」目的以上に、担当する書籍に対する思い入れや意気込みをプレゼンする場でもある。これは想像に過ぎませんが、日々膨大な案件を抱えるデザイナーさんにも担当作品の「濃淡」があるはず。ならば「濃い」ほうに入れてほしいと思うのです。

本題に戻りましょう。

デザイナーさんには、企画の発端が自分の娘の将来を考えた私の個人的な事情もあることを伝えつつ(デザイナーさんにも近い年ごろの娘さんがいます)、一発逆転的なノリの投資本ではなく、長期投資を前提にしたインデックス投資のバイブル的なロングセラーを狙いたいことを伝えました。

最初のラフ案があがってくる

打ち合わせした日からちょうど10日後。
カバーラフ案がメールに届きました。

お世話になっております。
とりいそぎ表1案をお送りします。
一度ご確認ください。

A~D案まで全部で4案ありました。


添付ファイルのPDFを開く瞬間、いつもドキドキします。
さて、どんな感じでしょうか?

A案

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B案

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C案

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D案

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うーん、どれもいい感じです!

こんな風にどれもイケてる場合は、けっこう選ぶのに悩みますが、意識していったん距離を置いて次のことを(なるべく理屈を外して)想像します。

「書店で見かけたときにどれを手に取りたくなるか?」
「Amazonの書影アイコンになったときにどれをポチりたくなるか?」

営業部ともさんざん議論して「B案」でいくことに決まりました。選択基準としては、上記ポイントに加えて、「書店の棚で埋もれない」ことが営業部が重視するポイント。ただ、こればかりは刊行時の他社競合書がどんな表紙かによって違ってくるので、なんとも予測できません。

著者さんの「ダメ出し」を喰らう

以前勤めていた出版社で先輩にこう教わりました。

「タイトルと表紙カバーは基本的に『返品リスクを背負う出版社』が決めるべきこと。だから担当編集者がその責任を負う。もちろん著者さんの意見も尊重する。そこを調整するのが編集者の仕事だよ」

カバーラフがあがってきて、次にドキドキなのが、著者さんに確認してもらう場面です。「ここで大反対にあったらどうしよう」と思うワケです(過去揉めたケースは多々あり)。

水瀬さま

デザイナーさんが早めにUPしてくださいました。
いかがでしょうか。

5案ありますが、個人的には断然B案推しです。
帯の漫画は今回お願いする鐘崎さんの作品のアタリです。

ただ、全体に文字情報を盛り込みすぎたかな・・・汗
という感じもしますので、そこはもう少々検討します。

キャッチコピーの表現などで気になるところがあれば
変更いたしますので、ご指摘ください。
よろしくお願いいたします。

「どれがいいと思いますか?」と選択の余地ある形で連絡することもあれば、今回のように「断然B案推しです」と連絡するケースも。このときは自分の中である程度自信があったので、決め打ちで(ちょっとビビりながら)メールしました。

・・・さっそく返事が返ってきました!

ざっくりまとめると――

私は「A案」が良い
(理由)
(1) 懸案だった書籍タイトルの「増やしなさい」という上から命令調の押しの強さを緩和してくれるスマートなデザイン
(2) 「お金を寝かせて増やす」というやり方をいちばん端的に表しているデザイン
(3) コインが寝ているイラストが、本文の見出しアイコンと同じで統一感がある

Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

理由(1)に関しては、『お金は寝かせて増やしなさい』の命令口調について著者さんからNGが出され、なんとかご説明して強行突破したという経緯がありました。

もう1回出しますが。A案はこちらですね。

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A案もぜんぜん悪くないし、むしろステキなデザインです。自分もじつは最初はこの案に惹かれていたんですが、「キレイなだけに埋もれそう」という意見が多く、不安になります。

たしかに「キレイだけど埋もれる」は過去にも苦い経験があるんです。

「美しいだけじゃ、ダメなんだ」

それと、どうしてもこちらで推したい案に比べると、タイトルが弱く見えてしまうのも気になりました。

最後の最後は「論理」よりも「感覚」を重視したほうが、よい結果になることが多いように思います。

よし!ここは初志貫徹。

著者の水瀬さんをなんとか説得してご理解いただく方針を固めて、デザインのブラッシュアップを進めることにしました。

著者さんには「ビジネス書、とくに投資テーマの場合、タイトル文字は太く堂々としていた方が『説得力』があるようにみえて、読者の安心感、納得感につながる」と電話で説得した記憶があります(個人的にはいまもこの主張は変わりません)。

最終ブラッシュアップを進める

さっそく、デザイナーさんへ連絡します。

営業とも相談しましたが・・・
C案のタイトル文字組ベース+B案の帯でいきます。
帯にマンガを入れる案はぜひ採用したいです。 イラストは
A案の「ZZZ」のアイコンを使ってはどうでしょうか。
帯にも視覚要素があるから、うるさくなりますかね。
・・・ご判断はお任せします。

こうして次にあげていただいラフ案がこちら。

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おおぉ!いい感じです。力強い。

ただ、赤の印象が強すぎるのが気になったので・・・
◎信頼感を醸成するのを狙い「赤」の部分を「青」に変更
◎タイトル部分を全体に小さくキュッとさせる

→「命令口調の強さをやわらげたい」という著者さんの願いを反映させたつもりです・・汗

で、さっそく変更していただきました。

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おおおお~!いい感じじゃないか!

「これで、どうだ!」とばかりに著者さんにメールしたところ、すぐに返事をいただき、文言についての指摘をビシバシ受けました。

いずれも納得のゆく指摘で、誠に助かりました。

メールの文面からは、A案ではなくB案でいくことについて、なんとかご了承いただけたニュアンスを感じました(その節はゴリ押しして申し訳ありませんでした!)。

指摘を受けて変更したのが、こちら。

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どうでしょうか。かなりスッキリしてきましたよね。

最後の最後に本書収録のコミック部分(鐘崎裕太さん・作画)の完成データをはめ込んで完成です。

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B案のラフからこうした形でようやく着地しました。ふぅ。

おかげさまで本書は10万部を超えるロングセラーとなりましたが、「A案ベースのデザインにしていればもっと売れたかもしれない」というモヤモヤは、この本に限らず常にあります。

紙に刷って売る出版物という性格上、WEBマーケティングのようにABCテストができませんから、「たら・れば」は永遠に付きまとうワケですが、ここはエイヤッと舵を切ることが肝要と思う次第です。

後日談ですが・・・
「『~なさい』の命令調のタイトルはやめてほしいって話したとき、『デザインでそこは弱める形に調整しますから、大丈夫です』って言ってたじゃないですか。ひどいな~」
と著者の水瀬さんに言われました。

すいません!
当の本人はそんなことを言っていたのをすっかり忘れていました。

――というわけで、いかがだったでしょうか。
カバーデザインが着地していくプロセスをつぶさに公開してみました。

※残念ながらボツになったしまったラフ案の公開を許諾いただきましたtobufuneの小口さん、ありがとうございました!

『お金は寝かせて増やしなさい』特設サイトはこちら↓


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