マンガでわかるインデックス投資入門
先日、アップルの時価総額が3兆ドル(約346兆円)を突破して話題となっていました。
上場企業の時価総額が3兆ドルに達するのは、アップルが世界初だそうです。なんと、イギリスのGDPよりも高く、日本の東証1部上場企業の合計額の半分近くに相当する金額とのこと。
iPhoneもiPadも、もはや全世界の人の生活インフラですから、アップルの株価がうなぎのぼりなのは、体感としてもよくわかります。
2000年代以降、GAFAをはじめとする米国資本の盛況ぶりもすごいことになってます。米国株投資で資産を築く人が続々と現れ、ビジネス書業界でもヒット作が目立つようになりました。「米国株投資」でAmazonを検索すると、ずらずらーっと出てきます。
そんな背景もあって、国内では「つみたてNISA」の口座数、買付額がぐんぐん伸びているそうです。
それでもやっぱり・・・
「投資なんて結局ギャンブルと同じ。リーマンショックみたいな大暴落がきたら、投資した分が全部マイナスじゃん。怖くて手を出せないよ」
・・・こう思う方がいるかもしれません。
おそらく想像するに、たとえば、定年退職した自分の親が、証券会社にクソな金融商品を掴まされて、退職金失って損したなんていう情景をリアルに知っている世代は「投資は怖い」と感じるでしょう(まさに自分の同級生の親がコレでした)。
そもそも、日本人は「貯蓄」が美徳なところがあります。
でも、投資はギャンブルではありません。
毎月コツコツと銀行に貯金する感覚とほとんど同じ感じで、毎月定額を積み立てて投資する「インデックス投資」の場合、ギャンブル性はほとんどありません。感覚的には貯金と同じです。
そのことをマンガを交えて解説したのが『マンガ お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ・著)です。この本はロングセラーで13万部を突破した『お金は寝かせて増やしなさい』のマンガ版です。
元本は文章だけで270ぺージを超えるバイブル的な書物なのですが、マンガ版は章ごとにマンガを交えて240ページ。コンパクトにインデックス投資に入門できます。
資本主義経済そのものに賭け金を積む投資
ともあれ、論より証拠。
著者の水瀬さんは、地味なインデックス投資を20年間続けて、なんと1億円の資産を築いています。
「投資はギャンブル」ではないことを自ら証明しています。
まず、「リーマンショックみたいな大暴落がきたら、投資した分が全部マイナスじゃん」という指摘に対しては、この質問を投げかけたいです。
「株式市場が誕生した200年前に投資した1ドルは現在いくらになっているでしょうか?」
いかがでしょうか?
いくらだと思いますか?
正解は「70万倍」です。
たとえば、200年前に1000円を投資していたら7億円の資産になっているわけです。
これは『マンガお金は寝かせて増やしなさい』の159ページに掲載している経済学者のジェレミー・シーゲルさんが分析したグラフですが、1802年に1ドルだった株式の価値は70万倍になっているのに、一方の現金は価値が下がってしまっています。
この間に2回の世界大戦、ブラックマンデー、リーマンショック、コロナショックといったデカい株価下げ要因の事件があったのものの、100年単位の長いスパンで見たら、右肩上がりというのが資本主義経済の実体です。
直近のグラフも見てみましょう。
これは「米国株式インデックスS&P500」の2005年から現在まで、約16年間のチャートです(『マンガお金は寝かせて増やしなさい』193ページより)。
短期的にみるとすごい落ち込みも見られ、直近だと2020年に激下がりしていますが、全体からすると右肩上がりです。
これってどういうことなんでしょうか?
世の中にマイナス成長を目指す企業はありません。自分の勤務先の会社も、毎年毎年バカのひとつ覚えのように前年同期比でプラスの売上・利益を目指してもがいています。
これは、バカなのではなく、企業が利益の拡大再生産を宿命づけられている存在である証拠といえましょう。あなたの勤務先はどうでしょうか。毎年、マイナスの事業計画を立て続けていますか。いいえ、基本的にはプラスの事業計画を立てて、株主や銀行に説明しているはずです。
万が一、自分の勤めている会社が、毎年、前年同期比でマイナスの事業計画を立て続け、利益拡大を目指さない。また求められもしない。もしそんな時代が来たら、資本主義経済の拡大再生産は終焉するかもしれません。しかし、そうでないのであれば、長期的には株式投資の未来は明るいのではないかと思います。
世界中の株や債券に国際分散投資するインデックス投資は、そんな資本主義経済の成長に投資することと同じです。
バイ&ホールドでも儲かると考えられる理由はここにあるのです。
『マンガお金は寝かせて増やしなさい』166ページより
つまり、こうした「資本主義経済による株価上昇」に賭け金を積むのがインデックス投資といえます。でも、それにしても70万倍はすごいですよね。
どういうカラクリなのでしょうか?
あとでドッカーンと効いてくる「複利」の力
株式が長期的には右肩上がりなのはよいとして、それにしても、前出のグラフで株式が200年で70万倍になったのは途方もない増え方です。このようにとんでもなく大きな増え方になるのには、もうひとつ、株式が「複利」の力を持っているからです。
お金の増え方の計算には単利と複利の2つがあります。
単利=利息を元金に組み入れずに計算する方式
複利=一定期間ごとに支払われる利息を元金に組み入れて計算する方式
仮に、毎年5%増える金融商品があったとしましょう。
【単利の場合】
投資元金 100万円
1年後 100万円+(100万円×5%)=105万円
2年後 105万円+(100万円×5%)=110万円
3年後 110万円+(100万円×5%)=115万円
10年後 145万円+(100万円×5%)=150万円
100年後 595万円+(100万円×5%)=600万円
【複利の場合】
投資元金 100万円
1年後 100万円×105%=105万円
2年後 105万円×105%=110万円
3年後 110万円×105%=116万円
10年後 155万円×105%=163万円
100年後 1億2524万円×105%=1億3150万円(!)
複利の場合、単利とくらべて少しずつリターンが大きくなっていることがわかると思います。1~3年だと小さな差ですが、時間が経つにしたがって元金は「雪だるま式」に大きくなっていき、10年、100年という長期間が経つと、途方もなく大きくなるのです。
200年も経てば、それこそ数十万倍になります。
かつて、アインシュタイン博士は複利の概念こそ「人類最大の数学的発明だ」と言いました。この概念は知っておいた方がよいと思います。
ただし、私たち人間には寿命というものがあり、投資ができる期間は、せいぜい数十年くらいしかありません。
しかも、複利はプラス方向だけではなく、マイナス方向にも効いてきます。
株式市場は上がったり下がったりしながらゆっくりと増えていくので、個人が机上の計算通りに数十万倍に増やすことはできないでしょう。
しかし、「人類最大の数学的発明」である複利の概念に沿った形で、なるべく長期間投資することによって、複利の力を働かせやすくすることはできます。長期的な株式投資は、目先の小さな損益にはあまり意味はなく、長い運用期間の後半にこそ、複利の力が効いてくるのだと覚えておくとよいでしょう。
『マンガお金は寝かせて増やしなさい』163~165ページより
アインシュタインが複利の概念を「人類最大の数学的発明だ」と言っていた事実は知りませんでしたが、とにかく「時間」が雪だるま式に効いてくるというわけです。
ちなみに、この『マンガお金は寝かせて増やしなさい』の元となる『お金は寝かせて増やしなさい』の企画を社内で通すときに、社長&専務が入る最後の経営会議の席で「長期投資ってことは・・・おれたち(60代の社長&専務い)には関係ない話なんだよな?」と言われました。
そのときは返答に詰まり、「あ、えっと、それはですね・・・」とグダグダでしたが、いま思えば、回答は明確です。
「人生100年時代のいま、長期投資を始めるのに”いまさら”はありません。人生において”今日”がいちばん若い日です。”いまこの瞬間”に始めればいいと思います」
こう、答えるでしょう。
実際、私自身が本書を担当してからインデックス投資を始めたのが40代半ばですから、おそらく目に見える成果が出るのは60代ごろでしょう。
ちなみに、ごく普通のサラリーマンにもできる「ドルコスト平均法によるインデックス投資」については、勝間和代さんが10年以上前から推奨されていて、直近の著書『勝間式金持ちになる読書法』でこんな記載がありました。
お金を稼ぐための方法については、私は以下のような本を書いて、読者の皆さんにそのヒントをお教えしてきました。
『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』
『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』
どちらも、10年以上前に出版された本なのですが、ありがたいことに、この2冊の本をちゃんと読んで実践した人からは、「本当に資産が増えた」「収入が上がった」というような声を頂戴しています。
(中略)
『お金は銀行に預けるな』でお伝えしたとおりに積み立てのポートフォリオを組んで、10年間で1.5~2倍くらいに資産をアップすることができた、という嬉しい声を多数頂いています。
(中略)
私は、人生というのはたったひとつの情報を知っているか知らないかで大きく変わるものではないかと思っています。
私は自著『お金は銀行に預けるな』でインデックス投資を月々定額で行うだけで、老後のお金の心配が全くなくなるということをお伝えしました。20~30代のうちに、このことを知っているか知らないかで、人生は本当に変わってしまいます。
数日前、この『勝間式金持ちになる読書法』を読んで、「そういえば、勝間さんって、ずいぶん以前からドルコスト平均法のインデックス投資を推奨していたいよなぁ……」と思いました。と、同時に「俺はなんでその時点でやらなかったんだ!」と後悔した次第です。
なぜならば、長期投資のリターンを得るのには、長い時間がかかるからです。
「資本主義経済の果実」を受け取るには時間がかかる
よし、それならさっさとインデックスファンドに投資して、資本主義経済の成長とやらを取り込んで、サクッと大儲けさせてもらおうか!
そう考える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながら、資本主義経済の成長という果実を享受するのには、長い時間が必要なのです。
まず、ひとつの企業にあてはめて考えてみても、資本家が資本を企業に投下して、企業が生産設備(あるいはサービス提供の仕組み)をつくり、そこに労働者を招き入れて教育して、生産ができるようになるまでには、相応の時間が必要になります。
また、その製品・サービスが世の中に受け入れられるようになるためには、営業やプロモーションをしなくてはいけないでしょう。企業が成長するためには、やはり相応の時間が必要で、サクッと短期で成果が出るようなものではありません。
世の中の企業はみな成長したいと考えているはずですが、生産する製品・サービスが必ず売れるとは限りません。なかには大失敗して淘汰されてしまう企業もあるでしょう。それらの失敗に学び、別の新しい企業が出てきて……ということを繰り返しながら、経済はゆっくりと成長していくため、やはり相応の時間が必要なのです。
さらに、株式市場では、個々の企業に対して市場参加者たちが株式を売買することによって、日々値付けが行われていますが、短期では、市場参加者の思惑が複雑に交錯し、株価はフラフラと上がったり下がったり、結果的に見ると、さしたる意味もなくほぼランダムに動き回っています。
プロが銘柄選定と投資タイミングを図って売買しても、70~80%は市場平均にすら勝てないという現実が、短期的な株価予測がいかに難しいかを雄弁に物語っています。ましてや、「資本主義経済の拡大再生産」のパワーは、短期ではうまく取り出すことができません。
しかし、長期となると話は別です。
長期なら「平均回帰性」という力の後押しを受けることができます。そうすれば、「資本主義経済の拡大再生産」のパワーを取り出せる可能性が高まります。
「平均回帰性」なんて言葉は、あまりなじみがないかもしれません。「平均回帰性」とは、短期的にはランダムに発生しているように見える事象であっても、長期的には平均値に収束していく性質のことです。統計学では「大数の法則」と呼ばれています。
簡単な例を出します。すごろくなどに使うサイコロです。サイコロを振ると、1から6までの数字がランダムに出ます。ある目が出る発生確率は6分の1ですね。
1回振って6が出たとします。2回目も、連続して6が出たとします。なんと3回目も6が出たとします。まあ、3連続で6が出る程度ならすごろくでも「おおツイてるなあ」程度であり得ることでしょう。
しかし、サイコロを振る回数を10回、100回、1000回、1万回、10万回と増やしていくとどうなるでしょうか。
10万回サイコロを振ったら、6が出る回数は1万6666回(100,000 ÷6= 16666.666666…)に近い回数になります。
回数を増やせば増やすほど、6が出る回数は、だんだんと理論的な発生確率である6分の1に収束していきます。
保険会社などは、この「平均回帰性」「大数の法則」を活用して、事業を行っています。契約者個人にとってはめったに起こらない事故であっても、契約者を何万人、何十万人と大量に集めれば、「大数の法則」にしたがって事故の発生確率を全体として予測できることから、保険会社が損をしないような保険料を計算して、保険商品として販売しています。
投資において、「資本主義経済の拡大再生産」のパワーというとらえどころのないものであっても、長期で投資し続ければ、平均回帰性の力が働いて、あるべき平均値(期待リターン)に収束していき、投資のプラスリターンとして取り出せるというわけです。
世の中にはいろいろな現象や法則がありますが、世界最大のインデックスファンド運用会社である米国バンガード社は、「投資の世界で最も一貫性のある現象が、平均回帰性である」と主張しています。
このように、過去の株価の圧倒的な右肩上がりは、資本主義経済の拡大再生産によるものであり、そのエンジンが人々の「豊かになりたい」という尽きることのない欲望であることが、今後も拡大再生産が続いていく根拠であり、インデックス投資のよりどころであると私は考えています。
そして、その資本主義経済の拡大再生産のパワーを取り出すには「平均回帰性」「大数の法則」の力が必要で、そのためには短期ではなく長期で、できるだけ長く市場にとどまり続けることが必要であるということが、相場の騰落に惑わされず、バイ&ホールドを継続しなくてはならない理由だと考えています。
インデックス投資のよりどころは、経済学の話であり、統計学の話でもあります。本書で取り扱っているのは、ほんのさわりの部分だけです。今後も、機会をとらえて深掘りして勉強していくことをおすすめします。より深く腹に落ちてくるでしょう。
著者の水瀬さんが、20年間におよぶ積み立てによるインデックス投資で資産1億円を築かれたキモも、ひたすらバイ&ホールドする「長期投資」にあるというわけです。
『マンガ お金は寝かせて増やしなさい』には、その具体的かつ実践的なやり方が詳しく解説されています。おすすめします。
(フォレスト出版編集部・寺崎翼)
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