オリンピック柔道混合団体で金メダルを獲ったフランスって? フランスのマンガ事情とおすすめ本
編集部の稲川です。
オリンピックでは、日本柔道がメダルを量産しましたね。
日本は、柔道15種目のうち、金が9、銀が2、銅が1と12種目でメダルを獲りました。オリンピック最多のメダルで、メダルを獲ることが必至とされている競技でのラッシュに、5年間も頑張ってきた選手のみなさんの努力は、私には想像できません(どの競技もですが)。
また、すべての試合を終え、9年間指導した井上監督の万感の表情が印象的でした。
シドニーオリンピックの金メダリスト瀧本誠氏は、コロナ禍でも万全の準備ができた日本と、十分な準備ができなかった外国勢は、真に公平な立場で畳の上に立てたかという疑問も呈していましたが、今回初めて採用された混合団体戦は新鮮だったと述べていました。
その混合団体戦で、日本を破ったフランス。
フランスは柔道が強い国として有名です。
そのフランス、混合団体戦の金メダルも含めて、金が2、銀が3、銅が3の8種目でメダルを獲得しています。
その中でも、テディ・リネール選手はフランスの英雄で、2012年のロンドンオリンピック、2016年のリオデジャネイロ、今回の混合団体と金メダルを獲り、世界選手権10度の優勝という未踏の記録を持っています。
実はフランス柔道が強いのは、戦前から日本と柔道の交流があり、その歴史は古いのです。5、6歳くらいからの習い事として柔道クラブが6000くらいあるというのだから驚き。フランス人の中には柔道が国技だと思っている人もいるそうで、競技人口も日本の3倍、60万人以上いるそうです。
◆最後の刺客にフランス人柔道家が登場する、あのマンガ
フランス柔道の解説が長くなりましたが、フランスと柔道なら、私にとっては浦沢直樹氏の『YAWARA!』でしょうか。
『ビッグコミックスピリッツ』で1986年から1993年まで7年間連載され、私は高校生から大学生までの期間、『YAWARA!』を読んでいた1人です。
この『YAWARA!』の中で、バルセロナオリンピック48キロ級の決勝で柔(ヤワラ)と闘う相手が、フランス人マルソーです。
物語の最後の最後で、柔道強国フランスが登場するのですが、対戦相手のマルソーは、柔の指導者であった祖父、滋悟郎が鍛え上げた秘密兵器。
手に汗握る試合展開に、思わず「フランス、強え~」となったのです。
浦沢氏は、スポーツ漫画の実験として『巨人の星』を意識したと言います。滋悟郎があえて柔に刺客を向けるシーンは、星飛雄馬の父、一徹が中日ドラゴンズの監督として育て上げたアームズトロング・オズマを連想させます。
話が逸れましたが、とにかく刺客としてフランス人柔道家が取り上げられたのは、マンガの中のバルセロナオリンピック。
ちなみに、実際のバルセロナオリンピックでは、『YAWARA!』のヒットを牽引した“ヤワラちゃん”こと田村亮子選手(現・谷亮子氏)が、フランスのセシル・ノバック選手に敗れて銀メダルでした(この年は、日本とフランスが金を2個ずつ獲得。何と言っても、今年3月に亡くなられた古賀稔彦選手の金メダルが強く印象に残っています)。
◆フランスで売れているマンガ本って?
マンガが登場したついでではないですが、フランスでは日本のマンガ大人気です。
アニメもよく観られており、ジブリ映画はダントツ(ほか、ポケットモンスターなども)。マンガ本はというと、2019年度の総売り上げランキングがありました。
https://www.journaldujapon.com/2020/01/21/bilan-manga-2019-ventes-au-japon-du-neuf/ より作成
フランス語のサイトですが、ほかにも単巻での売上げや現在の男女別のトップ10なども見ることができます(日本のマンガの表紙が掲載されているのでわかりますよ)。
そんなフランスの熱いマンガ市場ですが、コロナ禍においては巣ごもり需要もあって、まとめ買いで売上げが急増したそうです。
詳しくは、パリ在住のジャーナリストの守隨亨延(しゅずい・ゆきのぶ)氏が東洋経済オンラインに寄稿されていますので、興味のある方は覗いてみてください。
https://toyokeizai.net/articles/-/433878
◆フランスの本といえば、やはりあれしかない!? そして人気作家と言えば・・・
日本のマンガやアニメが人気のフランスですが、逆にフランスの本と言えば何でしょうか?
フランス文学作家には有名な方がたくさんいます。
今ならアルベール・カミュの『ペスト』でしょうか。
ほかにも、サマセット・モーム『月と六ペンス』、アレクサンドル・デュマ『モンテクリスト伯』『三銃士』、ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』、ギュスターヴ・フローベール『ボヴァリー夫人』、フランソワーズ・サガン『悲しみよこんにちは』、そして、マルセル・プルースト『失われた時を求めて』など、ほかにも名前とタイトルで思いつく作家がたくさんいると思います。
そして、世界中で愛され、おそらく1億冊以上は売れている本が、サン=テグジュベリの『星の王子さま』ではないでしょうか。
内容は多くの方がご存じだと思いますので省きますが、私は3年くらい前に集英社文庫の池澤夏樹氏の新訳を買って、何十年かぶりに読み返しました。
この本、さまざまな方が翻訳をされていて、またさまざまな解釈があります。子どもが大人になるための成長を描いたという説、逆に大人が子どもに帰ろうという説、幸せとは何かを描いたという説、単なるファンタジーだという説等々。
また、一説にはサン=テグジュベリが、第二次世界大戦で苦しむ人々に勇気を与えたいとして書かれたものだというのがあります。
もしこの説に従うならば、今世界中が苦しみの中にあって、王子さまの名言の数々がそれぞれの人にグッと染み入るかもしれませんね。
私もそんな思いで、今一度読み返してみようと思います。
最後に、たまたまフランス人作家に出会ったというほうが正しいのかもしれませんが、日本でもベストセラーになったピエール・ルメートルを紹介します。
とにかく衝撃を受けた作品が、日本でも大ベストセラーになった、有名な『その女アレックス』です。
2015年の本屋大賞受賞作品で、「このミス」ほか、各誌上でほぼベストワンを叩き出した作品です。
ルメートル自身も世界のミステリ各賞を総なめ。これまでのミステリの想像を超えた作品として、彼の名は一躍有名になりました。
ある日、アレックスは誘拐され監禁される。それも檻の中に・・・。
犯人は彼女が死んでいく姿を見ようと監禁し、彼女は衰弱していく。
アレックスが見た景色とともにその場所は描写されていくなか、彼女は決死の覚悟で脱出を図る。その後、犯人はというと・・・。
そう、脱出劇は単なる序章にすぎなかったのだ。
読まれていない方もいると思いますので、もうこれ以上は語れません。
文庫のオビが折れて中に入った部分(オビ表3と言う部分)に、こう書いてありました。
読み終えた方へ―
101ページ以降の展開は、まだ読んでいないひとに、けっして話さないでください。
450ページのうちの101ページ以降を話しちゃいけないなんて・・・。
まったく解説の入れられないのに、おすすめ本とはいかに?とは思いますが、こんなジリジリした感覚がお伝えできればと・・・。
ちなみにこの作品、事件を解決する刑事として、パリ警視庁犯罪捜査部のカミーユ警部が登場します。
実は『その女アレックス』は、カミーユ警部3部作シリーズの第2作目の作品です(しかし、先に発売されたのは『その女アレックス』)。
「アレックス」では、心に深い悲しみを背負った刑事として登場するのですが(それゆえに、この物語のラストも衝撃的です)、その理由が明かされるのが、シリーズ第1作目『悲しみのイレーヌ』です。
残虐な手口で殺された2人の女性。カミーユ警部と部下たちは捜査に乗り出す。そして、またもや残虐すぎるほどの殺人事件が・・・。
カミーユ警部は、やがて犯行と犠牲者の共通性に気づくが、犯人の標的はカミーユ警部が思いもよらない方向へと向かい、警部をどん底に突き落としていく。
これまた、あまり言えない内容に、おすすめできていないのですが、犯人の殺人の手口はあまりにも強烈で、その手の話に弱い方はミステリとして楽しめないかもしれません。要注意。
それでも、『その女アレックス』を読んで、第1部『悲しみのイレーヌ』を読まないのはもったいない。
エピソードゼロとして読むだけではない、物語としても目が離せなくなる1冊です。
とにかく、2021年にもルメートル作品が日本でも続々刊行されており、まだまだ注目の売れっ子作家のようです。
久しぶりに、氏の世界観を味わおうと思います。
面白いフランス作家の本がありましたら、ぜひ教えてくださいね。
大学のとき、イヤミが「やっぱ、おフランスざんす」(「おそ松くん」より)と言っていたという理由だけで第2外国語を安易に選択して、さんざん後悔したフランス語ですが、やっぱ、本は別ものですね(^-^;