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ビジネス書編集者がひねり出す図版・イラストの舞台裏

ビジネス書をつくるうえで外せない要素に「図版」「イラスト」という視覚要素があります。

なぜ、視覚要素が必要なのかというと、文字で読ませるよりも理解が早いからです。何事も百聞は一見にしかず。

実際、視覚要素を盛り込んでつくったほうが売れるケースが多いです。

最近ではホントに紙面を「見るだけで理解できる」というものがよく売れていたりします。代表的なのは永岡書店の「サクッとノート」シリーズ、宝島社の「見るだけノート」シリーズでしょうか。

▼永岡書店「サクッとノート」

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▼宝島社「見るだけノート」の図版

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日本文芸社の「眠れなくなるほど面白い」シリーズも最近目立ちますね。

▼日本文芸社「眠れなくなるほど面白い」シリーズ.

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こうしたビジネス書の世界におけるビジュアライゼーションはどんどん進んでおり、最近では「インフォグラフィック」なんて言葉も生まれてます。

Information(情報)+Graphic(視覚)=インフォグラフィック

ビジュアルにすることで伝わる速度が上がる

次のふたつの事例をみて、どちらが説得力あるでしょうか?

Aさん テキストだけで訴える
「私はラーメンが大好きで、私の肉体の組成はラーメンです」

Bさん 視覚情報で訴える

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まあ、これはビジュアル化といえるかどうか微妙ですが、単に素のテキストで伝えるよりも、伝わるスピードが速く、かつ強いと感じられるのではないでしょうか。

ラーメン好きであることが伝わりやすいのは、AさんよりもBさんのほうだと思うのですが、いかがでしょうか。

直線の文章をいったん立体化して整理する

文章というものは基本的に直線です。

今まさにこの文章もそうなのですが、文章は読む人の時間経過に沿って直線、一方向であることが必然です。ゆえに、直線を立体的に理解することが読者側に求められています。

これが結構むずかしい場合が多いです。

自分もずっと文章だけが続く本は「読者の負担」が重いなと感じます。これはもしかしたら「ビジネス書編集者の職業病」かもしれません。

たとえば、制作過程で自分でも図版をいっぱい考えたなぁと思い起こされるのは『最高の結果を出すKPIマネジメント』(中尾隆一郎・著)です。

◎まずは覚えておきたい3つの登場人物
 
 KPIについての全体像を図で説明しましょう。
 主要登場人物は次の3つ。

①KGI(Key Goal Indicator)=最終的な目標数値
②CSF(Critical Success Factor)=最重要プロセス
③KPI(Key Performance Indicator)=最重要プロセスの目標数値


 下の図の左右は時間軸を表しています。左端は「現在」あるいは、「期初」そして右側が「未来」あるいは「期末」を表しています。つまり、左側から右側に向かって時間が流れていきます。
 ちょうどゴールのマークがあるところが、「期末」のタイミングですね。会社によって半年後だとか1年後のことです。
 ゴールの横にKGIがあります。
 主要登場人物の1つめです。
 KGIはKey Goal Indicatorの略で、最終的に期末に到達したい最も重要な数値目標のことです。一般的には、企業全体であれば利益などの数値目標がそれにあたります。
 営業組織であれば売上目標数値などが、あるいは事業開発であればユーザ数などの目標数値などがKGIにあたります。
 KGIは期末終了時に到達したいゴールの数値のことです。わざわざゴールの話から始めているのは、しばしば関係者間でこのゴールの認識がずれていることがあるからです。

これを元に図版の原稿を作成します。

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で、図版職人さんが清書して書籍にも載せたのがこちらの図版。

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『最高の結果を出すKPIマネジメント』の場合は、ベタ塗りの黒一色+白抜き文字というパターンの図版を意図的に多めに入れました。なぜならば、その方が重厚感が出るからです。

もう1例見てみましょう。

◎定期的に見る指標にCSFがないダメダメな事例

 よくあるダメなケース最後の4つめは、下の図に示すように定期的に見ている指標の中にCSF候補がない場合です。
 例えば、売上、利益、顧客数、平均顧客売上など、定期的にさまざまな数値を見ているケースなどで起こります。
 これらの指標の中からKPIを選択するわけです。
 そしてこの数値をモニタリングします。
 当たり前ですが、間違った指標や数値を見ながらマネジメントしていては、事業運営がうまくいくわけがありません。いわば、スピードメーターが間違った自動車で運転しているようなものです。
 時速60㎞で走っていけば、時間内に目的地に到着する場合、速度計を見ているつもりが、別の数値を見ていたとしたらどうなるでしょう。時間通りに目的地に到着するわけがありません。
 あるいは、スピードメーターではなく、ほかのメーターを見ていたとしたらどうでしょう。間違ってスピードオーバーして、交通違反で捕まってしまいます。
 間違った指標を見ながらマネジメントをしているのですから、「なんちゃってKPI」数値が悪化した場合に、ステップ6として、対策を検討しようとしても、現場から「指標がおかしいんじゃないの?」とか、「目標が高すぎるんじゃないのか?」という声が聞こえてくるのも当然です。
 KPIを設計したスタッフも一生懸命に数値作成をしたのですが、自己流なので自信がありません。なかなか論理的に反論できません。結果、現場からも運用スタッフからも同様の声が聞こえてきます。

「KPIは運用が大変なのに使えない!」
 
 そして、KPI運用はしりすぼみになっていきます。
 でも、本当は自分たちのやり方が間違っていただけなのです。
 では、どのようにすれば正しいKPIマネジメントができるでしょうか?

ここも文章だけだと、エモーションがわからないというか、直截的にイメージされるものが弱いと感じたので、こんな図版の原稿をつくりました。

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で、これを元に作られたのが下の図版です。

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右下のプンプンしている男性がいるだけで「ダメダメなKPI」が一瞬で伝わってきますよね?

いずれも、ビジネス書の図版には、直線の一方向である文章を立体的に描くことで読者の理解を助ける狙いがあります。結果的に『最高の結果を出すKPIマネジメント』はけっこう多めの図版が入った本になりました。

本の世界観を伝える役割を担うイラスト

こうした「説明的な図版」は「文章をそのまま図にする」という手法でOKなのですが、けっこう難しいのが「イラスト」です。

イラストは図版と違って、いわゆる作家さん、イラストレーターさんに依頼します。イラストは「文章のビジュアライズ」という意味合いもあるのですが、もっといえば「その本(著者)の世界観を伝える」という役割を担っています。

わかりやすい事例として梯谷幸司『なぜかうまくいく人のすごい無意識』を見てみましょう。

まずは文章がこちらです。

成功者は「あたりまえ」が凡人と違う

 日本経済新聞社が出しているマーケティング専門誌による2015年のアンケートがあります。
 ちょうどこの年は、安保法案が可決するかしないかと騒がれました。消費税は、10パーセントに引き上げと言われていたのが、景気を見て判断し、8パーセントに据え置きました。また東芝不正会計問題やドイツのフォルクスワーゲン社の排ガス不正データなど、大企業の不祥事も多数報道された年でもありました。
 そのアンケートは次のようなシンプルなものでした。
 低所得者層、中所得者層、高所得者層それぞれに「今、何に興味関心がありますか?」と聞いたのです。
 低所得者層に関心があることは、消費税問題と年金問題。身近なお金のことに関心がありました。中所得者層になると、消費税問題、年金問題に加えて、安保法案や、大企業の不祥事、政府の問題が上位3位を占めました。自分の正しさを証明するために、その対比として「悪者」「戦う相手」が欲しいわけです。

◎高所得者層は「自分の正しさ」を証明することに関心がない
 面白かったのが高所得者層の回答結果です。
 政治や大企業の不祥事に興味のある人は2%くらいしかいませんでした。彼らの興味関心があったのが、「1位 健康づくり」「2位 旅行」「3位 孫と遊ぶこと」というきわめて個人的なことでした。
 それを見たとき、私は「なるほどな」と思いました。
 時代の常識とは、圧倒的多数の人たちの意見です。中所得者層は圧倒的に多数派です。つまり常識というのは中所得者層が使う考え方であって、そこに留まり続けることは中所得者層どまりなのだということ。
 圧倒的多数の層は自分の正しさを証明するため、誰かを悪者にしたがります。
 まだまだ世の中には「こうあるべき」で動いている人が少なくありません。テレビも週刊誌も、叩いてもつぶれない材料を引っ張り出して叩きまくる。そのほうが視聴率が取れて雑誌も売れるからなのでしょう。
 世間とマスコミが一緒になって煽っています。
 この「正しいか正しくないかにこだわる」というのは脳のフィルターのひとつです。そして、自分が正しいことを証明するためには悪者が必要です。身近な人を叩くと争いになりますから、政府や大企業の不祥事やスポーツ界のパワハラ問題などを取り上げて、「悪者」を責めるのです。
 高所得者層は「こうあるべき」というメタ無意識はほとんど使いません。そもそも正しさを証明する必要がないとわかっています。誰かと戦う必要はなく、誰かを悪者にする必要もない。自分のやりたいことをやるだけです。
 どの基準で物事を見るか、というのはメタ無意識の領域です。世の中の大多数と同じメタ無意識で世の中を見るのか、それとも効果的な結果の出るメタ無意識で世の中を見るのかで、自ずと違う結果が出てくるのです。

一読して興味深い内容ですよね。

「これは面白い!」と思うと、ついつい編集者魂が発動して、なんとか視覚情報に置き換えて読者に一発で伝えたいと思ってしまいます。

そこで、こんなイラスト図案をイラストレーターの芦野公平さんに投げました。

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ひどいですよね(笑)

こんな意味不明な図案で描けるのか?・・・と思いましたが、さすがプロフェッショナルの作家さんは違います。

見てください。これがイラストレーターさんからの回答です。

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この解釈力、すごくないですか?

文章の意味もしっかり汲んだうえで、ポップな世界観で描かれています。正直、感動しました。これこそが「本の世界観を規定するイラスト」の役割なんだなー!と実感しました。

もう一例、イラストのケースを見てみましょう。

潜在意識との約束は守る

 仕事が立て込んでくると、休めない状況になりがちです。適度に心身を休める必要があるにもかかわらず、「いまは休んでいる場合じゃない」「やるしかない」と無理に自分を駆り立ててしまいます。
 そんなときは、「いまは重要なときだから協力して。一段落したらしっかり休むから」と、潜在意識と相談することが大事です。
 その約束を守らないと、本当にひどいことになります。
 たとえば突然ぎっくり腰になって休まざるを得ない…‥‥といったような状況になるのです。潜在意識は協力を頼めば動いてくれますが、約束を破ると、「休むと言ったのに忘れたのかな。だったらわかりやすいメッセージを出さないと。動けないようにしてあげます」と、強制的に休ませるのです。
 潜在意識との約束は守らないと危険なのです。

◎潜在意識はすべてをそのまんま受け取る
 まだ身体に出るくらいだったらいいでしょう。
 約束を破り続けると、意識の指示系統がめちゃくちゃになってしまいます。
 たとえばお父さんが小さな子供に、「今度のテストで満点とったら、お前が行きたかったテーマパークに連れて行ってやるぞ」と約束し、子供は頑張って満点をとりました。
 しかしお父さんは「ごめん、忙しくなっちゃって」と、連れて行けませんでした。
 また、「テストで満点とったら、お前が欲しがってたゲームを買ってやるぞ」と約束して、子供は頑張って満点をとりました。でもお父さんは「ごめん、小遣いがなくなっちゃって」と買い与えませんでした。
 次に「今度満点とったら……」と言うと、子供は「どうせまた嘘だ。満点をとると逆に望みが叶わない」と学習し始めるのです。
 すると、「やると言ったことは、やらないようにサポートすればいいんですね」と解釈してしまうのです。だから目標を立てても、「やると言ったことはやっちゃいけない」とブレーキをかけ、肝心なときに言うことを聞いてくれなくなります。
 潜在意識との小さな約束は守り続けること。
 やると決めたことをちゃんとやっていれば、「それをサポートしなくちゃいけない」と潜在意識は応えます。それが積み重なって潜在意識は強い協力者になるのです。

ここもイラストで伝えたいところです。

そこで、こんな原案をつくりました。

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すると、どうでしょうか。こんな風に返ってきました!

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「ムイシキ君」という8コマのマンガに仕上げてくれたのです。これにはビックリしましたねー。

ほかにも・・・こんな図案が。

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こんな風になったり↓

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芦野公平さんの独特なイラストの世界観もあいまって、おかげさまで『すごい無意識』はスマッシュヒットになりました。

以上、図版とイラストの舞台裏でした。

まとめると、図版やイラストは――
◎本の内容を立体化して読者の理解を促す
◎読者を「わかった気」にさせる
◎本や著者の世界観を伝える

――ということになるかと思います。

視覚情報で「読者の頭の中を整理する」という感じですね。

ちょっと長くなりました。では、また。

(フォレスト出版編集部・寺崎翼)


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