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第24回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

先週の10月2日(金)、女優の石原さとみさんが一般男性の方との結婚を発表しましたね。
結婚を決めた理由として、新聞にこう書かれていました。

『健康や食、ライフスタイルの価値感も似ており、親孝行や家族への考え方も同じ。初めて男性の家族と会った際に「私もこの家族と家族になりたい」と涙が出るほど温かい気持ちになったという。』
(『デイリースポーツ』2020年10月2日付より)

とっても素敵ですね。

さて、いきなり石原さとみさんの話題を書いたのには、理由があります。

それは彼女が主演し、2016年10月から放映されたドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』を思い出したからです。

原作は2014年に発売された『校閲ガール』(宮木あや子著、KADOKAWA)。

校閲ガール

私は2016年に発売された文庫本を読んだのですが、業界ものだっただけに迷わず手に取りました。

校正者としてのいろはも書かれており、読者の方も知られざる校正のお仕事を知っていただけたのでは思います。

この校正者という仕事、われわれ編集者にとっても本当に偉大な仕事だと感じています。
そして、著者にとっても大助かりな影の立役者と言っていい存在なのです。

あなたがビジネス書を書く際にも、必ず校正者が関わってきます。
前回の連載のなかでも、脱稿から本になるまでの流れのなかで“校正者”という言葉が登場しましたが、今回はその校正者について触れてみたいと思います。


◆編集者でも著者でも気づかない達人技の仕事

編集者は著者との原稿のやり取りをする際に、それとは別に“校正者”の方々と一緒に仕事をします。

“校正”とは、簡単に言ってしまえば「誤字・脱字」を見つけて文章を訂正することです。
そして、『校閲ガール』のタイトルにもある“校閲”とは、原稿を読んで、内容が事実と異なっていないか確認して正しく直すことです。

校正と校閲は厳密には違うのですが、その両方を校正者が担うので、ビジネス書を扱っている私は、おおまかに“校正”と言っております。

校正者は、編集者(著者)にとってはなくてはならない存在です。

著者と編集者は、とにかく内容をブラッシュアップさせるために努力するのがメインなことと、何度も原稿に目を通しているため、誤字や脱字、表現が少しおかしい文章などをスルーしていまいがちです。

ですから、文章の達人の目が必要なのです。

私が長年お付き合いしているベテラン校正者にNさんという方がいます。
彼には念校の最終校閲をお願いしているのですが、誤字・脱字をほぼ完ぺきに拾っていただき、文章全体の内容に齟齬がないかも見ていただいています。

彼はビジネス書にかぎらず、文芸や歴史などありとあらゆる分野の校正をしていて、ふだん編集者がするリライト作業(文章に手を入れる作業)までされています。

Nさんにはいろいろな校正にまつまる話を聞くのですが、「そんなことってあるの!?」と思うこともあります。

たとえば、ミステリー小説の校正で死んだはずの人が、後半で再び登場するなど、あり得ないことが起こったりするそうです。
ミステリーというよりホラーですね。

また、時刻表を使ったミステリーなどの校正では、どう考えてもつじつまが合わない(この場合、時刻に無理がある)事態が起こるそうです。
もしこのまま出版されたら、肝である部分が台なし。というより、本を書店から回収しなければならなくなる事態すら考えられるレベルです。

どこかで読んだのですが、北野武さんが校正者を絶賛されていました。
校正者は、読者にとってよくわからない文章やあきらかにおかしい表現の文章、前後関係がバラバラになっている文章、同じことを繰り返し述べている文章など、さまざまな疑問点をゲラに鉛筆で指摘してくれるのですが、それが何よりありがたかったと。

まさに、校正者は著者や編集者を助けてくれる「守護神」のような存在なのです。


◆原稿に終わりなし。どこで区切りをつけるかが最後の決断

あなたがビジネス書を書く際に、実際に校正者に見ていただくゲラは2、3回です。
つまり、別々の2、3人の校正者が、あなたのゲラをチェックします。
校正者が見るゲラは、初校、再校、念校の3回が多く、たまに念校ゲラで誤字・脱字が多く、直したほうがいい文章が多いなど、校了ゲラにならない場合があります。
この際は、念校が三校となり、再度念校ゲラを出して最終的な校正をかけます。

念校ゲラが校了ゲラにならないのは、編集者にとっても致命的な進行ミス。
期日までに校了できなければ、本の発売も延期になります。

ここは反省の意味を込めて書いたのですが、今、私が編集しているゲラがこうなりました。

それはさておき(実際は、さておけないのですが)、『校閲ガール』で主人公・河野悦子氏のメモにこう記されています。

悦子の研修メモ その2
【初校】ゲラの第一弾。これを校閲する。
【再校】初校の校閲を反映したゲラ。これも校閲する。ここで終わらない場合は三校~と増えていく。
【念校】念のためもういっちょ出しとく。念のためなので赤とか鉛筆とか入れるのはイケてない。
【著者校】著者が行った校正。その校正ゲラ。
【校了】直しや確認がぜんぶ済んで、あとは印刷所におまかせ! 出版社の手を離れること。
【校了日】編集者がおうちに帰れない日。
(『校閲ガール』より)

先ほどの私の場合、「【念校】念のためもういっちょ出しとく。念のためなので赤とか鉛筆とか入れるのはイケてない。」という通り、編集としてイケてないので、「ここで終わらない場合は三校~と増えていく」のケースになったわけです。
悦子さん、手厳しい。

ちなみに、誤字・脱字や文字の統一(たとえば、「活かす」「生かす」なのか、「ぜひ」「是非」なのかなど、本全体における統一)などは、著者が細かく見る必要はありません。
著者はあくまで、「文章を書き換えたい」という部分を校正すればOK(著者校)。
後ろには、校正者というプロがいますから、そこは校正者と編集者(責任をもって修正)に任せればいいでしょう。

では、3回校正を入れれば完ぺきなのか。
実際は、そうもいかないのが文章の恐ろしいところ。

文章は何度でも校正すればブラッシュアップされていくものですし、何人もの校正者に見てもらえば、間違いも確率的に減っていきます。

しかし、どこかで区切りをつけないかぎり、本が発売できません。
校了するか、校了しないかは最終的には編集者の判断になりますが、著者もまた著者校正をどこまでするかは区切りをつけないとならないのです。

著者も編集者も校正者も納得した形で校了する。
これがベストな仕事。
あなたが文章を書く際には、周りにはたくさんの応援者がいます。

ですから、あなたがベストと思う形で、思いっ切り文章を磨き上げてほしいと思っています。

本日のまとめ
・あなたが本を書く際は、必ず校正者が仕事に関わる(2、3人)
・校正とは「誤字・脱字」を見つけて文章を訂正すること。校閲とは原稿を読んで、内容が事実と異なっていないか確認して正しく直すこと
・校正者は著者や編集者を助けてくれる「守護神」のような存在
・著者は誤字・脱字など細かく見る必要はない。「文章を書き換えたい」という部分を校正すればOK
・文章は何度でも校正すればブラッシュアップされていくが、どこかで区切りをつける決断が必要

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