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コロナ禍でどこにも行けない方々へ。「SHIMADAS」というぶっ飛んだ本を紹介

編集部の稲川です。
新型コロナウイルスは収まりを見せません。東京・大阪・京都・兵庫の4都道府県に4月25日~5月11日まで出された緊急事態宣言。今日にも菅政権が現在の状況を協議するそうですが、大阪の吉村知事は、緊急事態宣言解除は難しいと言っていますし、このあとどうなるかわからない状況です。

今年のゴールデンウィークは、『外出派の「行き先」と自宅派の「過ごし方」に関するアンケート調査』(株式会社groove agent調べ)から見ると、1割くらいの人が旅行、2割強くらいの人が近場へ外出、残りの7割弱が自宅で外出自粛といった感じでしょうか。

そこで今回は、自宅で過ごす方たちに、旅行気分を味わえる少し変わった本をご紹介します。

◆こんな本があった! 日本全国1750の島々を紹介する「島ガイドブック」

日本には全国に1750もの島が存在します。その島々を余すことなく紹介した本、それが『日本の島ガイド SHIMADAS(シマダス)』です。

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さすがにすべての島を旅することはできませんから、私は時折、この本を眺めては旅の気分を味わいます。
学生の頃、シャチ(オルカ)の生態調査のボランティアで、カナダのバンクーバー島沖のハンソン島という無人島で過ごした経験から、ずっと島にあこがれている影響か、この本を見つけたときに有無を言わさず購入しました。
私の本は古い版で、最も新しいのは2019年。だいたい編集に6年以上の歳月がかかっているそうですから、編集者の苦労がうかがえます。

著者は、財団法人日本離島センター。この財団は、いわゆる島のすべてを取り仕切っていると言っていい。島の調査から広報宣伝(広報誌 季刊『しま』や『離島統計年鑑』などを発行しています)、イベント、研修、助成など、島に関するあらゆる活動をしています。
正直、こんな団体があるんだということに驚きですが、活動の中には「離島甲子園」(中学野球支援ですが)などもあって、野球好きの私は興味をそそられます(なんか、瀬戸内少年野球団みたいで)。

さて、そんなニッチな財団(島にお住まいの方にニッチは失礼ですが)が編集した大作が、この『SHIMADAS』なのです。
この本は、私の持っている第2版では、巻頭カラー口絵16ページと本文1328ページ。随所に島の地図が掲載され、すべての島が紹介されています。紹介は「基本データ」「みどころ」「島じまん」「くらし」「ひと」「島おこし」と6つの紹介欄があります(小島・無人島はメモ書き)。

今、パッと開いたページからそれぞれを見ていくと・・・。
瀬戸内海の島々の中の601ページに、山口県周南市沖にある「大津島」が出てきました。

大津島 (2)

概要を私の視点を入れて紹介すると、

【大津島】(第2版から)
●基本データ・・・所在地(山口県周南市)、面積4.73㎢、人口536人(▲104人)、年齢(小4%、大37%、老59%)、産業(農業3%、漁業31%、第二次産業12%、第三次産業54%)、来島者数、行政、交通と続きます。

●みどころ・・・回天記念館、人間魚雷「回天」発射訓練基地跡。あの人間魚雷回天の場所だったとは知りませんでした。大津島は日本の歴史の忘れてはいけない重要な島であることがわかります。

回天

●島じまん・・・「みやげ」の項目からデビラ、レンチョウの干物。聞いたことがないので調べてみると、デビラは「でびらかれい」、レンチョウは「アカシタビラメ」という魚で、主に干物として食されているそうです。

デビラ

                        テビラ

レンチョウ

                      レンチョウ

●くらし・・・「まつり/いいつたえ」という項目から、大津島に移り住んだ平家の落人を供養する踊り「平家踊り」や大阪築の石の運搬方法で悩んでいた時、三太郎が扇であおぐと、石が浮き上がって海岸の筏に積まれたという「三太郎伝説」など、島独自のものが紹介されています。

●ひと・・・末兼敏夫(水産生物学者)。ここも島の人たちの誇りですよね。

●島おこし・・・「イベント」という項目から「ポテト健康マラソン」がありました。毎年12月上旬の日曜日に開催。参加者には、島特産のサツマイモ汁をふるまうそうです。

以上、大津島の情報が3ページにわたって紹介されています。
なんか、大津島に旅に行った気分になる、これが『SIMADAS』の魅力です。

◆小説にとって島はうってつけの舞台

島にはそれぞれの魅力があります。
とくに小説では、島が舞台になるのは何と言ってもミステリです。

有名なのは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』でしょう。
知っている方がほとんどだと思いますので内容は省略しますが、ミステリにおいて、島などのいわゆる密室下は、殺人事件での謎解きミステリの定番です。
ちなみに、この密室空間をミステリ用語では「クローズドサークル」と言って、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下で起こる事件を扱った作品を指します。
「陸の孤島もの(島)」「吹雪の山荘もの(僻地)」「客船・列車もの」「街全体もの」などが代表的なクローズドサークルの舞台です。

日本で「島もの」で思い浮かぶのは、金田一耕助シリーズの1つ、横溝正史の『悪霊島』ではないでしょうか。
この小説に登場する島は架空の島、刑部(かるべ)島ですが、舞台は岡山県の瀬戸内の島。岡山県新見市大佐小坂部には実際に刑部駅があります。横溝氏は「小坂部・刑部」から、島の名をつけたのではないでしょうか。
実際のモデルになった島もあるようですが、次から次へと殺人が起こる島ですとは、島民はとてもじゃないですが言えませんよね。

ということで、ミステリでは架空の島ということになり、かの『SHIMADAS』も登場すべくもありません。
そこで、別の小説から活用法を紹介しましょう。

◆『SHIMADAS』のこんな利用法。小説から、いざロケ地へ

有名な小説からひもとくに、いい作品がありました。
この島に旅に出てみましょう。

2012年の本屋大賞ノミネート作品にして、同年の読書メーターおすすめランキング1位に輝いた『くちびるに歌を』(中田永一著、小学館文庫)です。

くちびるに歌を

2015年に新垣結衣さんが主演で映画化もされました。私も映画も観ましたが、長崎五島列島にある福江島が舞台で、その風光明媚な映像にとても癒されました。
舞台はその福江島。ピアニストだった臨時教員の女性が、生まれ故郷の中学校の合唱部顧問として生徒たちと心を通わせていくストーリーです。

少人数の五島高等学校の合唱部。真剣に合唱を志す仲村ナズナは、それまで合唱部の顧問だった松山先生が産休のため、その間、臨時教師が来ることを知る。その臨時教師は元ピアニストの美人教師、柏木という先生だった。
ナズナは本気でNHK全国学校音楽コンクールを目指すために部員勧誘を始めるのだが、赴任してきた美人教師に男子が入部。もともとやる気のない男子生徒との葛藤の日々が続く。
そんななか、Nコン予選の課題曲『手紙~拝啓十五の君へ~』(アンジェラ・アキ)にちなみ、柏木先生は、部員の生徒たちに「十五年後の自分に手紙を書く宿題を与える。
生徒たちは、手紙を書く自分と真剣に向き合ううちに、等身大の秘密が綴られていく・・・。

とてもさわやかで、少し甘酸っぱい青春小説ですが、心あたたかくなる素晴らしい作品です。

さて、この小説をさらに楽しく読むために『SHIMADAS』の登場です。
福江島を調べてみると、人口は約2万7000人、老人は22%と案外少なく、飛行機でもフェリーでも行ける大きな島です。
みどころは、五島カトリックの総本山、堂崎天主堂ほか、水之浦教会、楠原教会などキリシタンたちの生活がうかがえます。

堂崎天主堂

                  堂崎天主堂。五島市観光協会HPより

映画にも登場する、五島藩主の跡地に建造された五島高等学校周辺に点在する石垣も見てみたいところです。
祭りでは、盆供養の念仏踊りとして、国指定重要無形民俗文化財の「チャンココ」は押さえておきたいところ。
また、千葉県出身の私としては、測量に伊能忠敬が訪れているなどの情報もうれしい。さらに、ここ福江島は遣唐使が最後の寄港地として大海原へ旅立つ地とも紹介されています。何とも歴史ロマンを感じさせる島です。

福江島は、五島列島の中でも大きな島のために5地区に分けてページが割かれています。この島だけで16~17ページ。おそらくこのページだけ持って島を旅すれば、ガイドブックでちらっと紹介されている本よりも数倍お得です。

ですので、私の紹介もほんの少しにすぎません。
『SHIMADAS』おそるべし。

人生でなかなか行くことのない「島」。
そんな島々に思いを馳せながら、このゴールデンウィークを乗り越えています。

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