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なぜ、経営者は従業員に「出社」を求めるのか?(前編)

フォレスト出版編集部の寺崎です。

 突然ですが、質問です。

 ◎質問1
あなたは会社で働くのは「楽しい」ですか? 

◎質問2
あなたが会社のリーダーや経営者であれば、あなたの組織のメンバーは「楽しい」と思って働いていますか?

 これらの質問に対して、こんな風に思っていませんか?

 「会社で働くのは大変なことだ」
「『楽しい』なんて甘いこと言ってられない」

 でも、ちょっと待ってください。 

あなたにとっても、一緒に働く仲間にとっても、1日の大半を費やす職場の時間は「楽しい」ほうがよくないですか?

 「人は、自分がやることを自分で決めることができると幸せを感じる」

 これは心理学者カール・ロジャースの言葉です。

 逆に自分がやることをすべて人に決められると「幸せ」ではなくなります。

たとえば、2020年ごろから普及し始めたリモートワーク。

ところが、コロナが明けるとリアル出社を求める会社が増えました。 せっかくリモートワークのメリット、デメリット双方がわかってきたのにもかかわらず・・・です。

週の数日はリモートワークしたい社員。
とにかくリアル出社せよと言う経営陣。
 

上記、カール・ロジャースさんの言葉を借りれば・・・「リモートで仕事したいのに人に決められて出社している」という状態です。 これでは「楽しい」わけがありません。 働くメンバーの仕事が楽しくなければ、生産性向上も業績向上も期待できないでしょう。 

今日から、この「リモートワークとリアル出社をめぐる経営層と現場のズレ」について複数回にわたり、新刊『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』(中尾隆一郎・著)からひもといてみます。

***


働く場所の多様性は不可逆
――いつまた感染症がやってくるか?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生から3年余りが経ちました。政府は、新型コロナウイルスの感染症法上の分類を2023年5月8日から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げました。ようやく日本でも日常生活が戻ってきました。
 これに伴い、企業は従来のリモートワーク中心での仕事ではなく、出社を増やすように従業員に要望する割合が増えています。
 しかし、今後、またこのような感染症がやってくることはないのでしょうか?
 つまり、エッセンシャルワーカー(現場で出社して働く仕事)を除いて、再びオンラインで働くことが前提になる状況は来ないのでしょうか?
 これを類推するために、過去の世界的感染症の事例について確認してみることにします。 過去にも、世界中に広がった感染症のパンデミック(世界的な流行)事例が数多くあります。最も重大な事例の一部は以下の通りです。

天然痘( ~1980年)
 天然痘は、天然痘ウイルスを病原体とする感染症で、古代から繰り返し流行し、累計で3億人から5億人が死亡したと推定されます。そして人類史上最も多くの人を殺した感染症です。WHO(世界保健機関)は1980年に全世界的根絶を宣言しました。パンデミックに対しての人類初の勝利です。

スペイン風邪(1918‐1920年)
 スペイン風邪は、H1N1亜型ウイルスによって引き起こされた致命的なパンデミックで、世界中で約5億人が感染し、5000万人〜1億人以上が死亡したと推定されています。日本でも40万人前後が死亡したと推計されています。

HIV/AIDS(1981年‐ 現在)
 AIDS(後天性免疫不全症候群)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって引き起こされ、主に性行為、注射器の共有、および出産時の母子感染によって広がっている世界的なパンデミックです。推定8000万人以上が感染し、3000万人以上がHIV/AIDSに関連する病気で死亡しました。そして2 0 2 2年でも4000万人前後がHIV陽性の判定を受けています。

SARS(2002‐2003年)
 SARS(重症急性呼吸器症候群)は、コロナウイルス(つまりCOVID-19の近縁ウイルス)によって引き起こされる感染性の高い呼吸器疾患でした。中国で発生し、数週間で37の国々と地域に広がり、8000人以上が感染し、774人が死亡しました。

豚インフルエンザ(2009‐2010年)
 豚インフルエンザは、H1N1ウイルスによって引き起こされた致命的なパンデミックで、2009〜2010年の1年間で28万4500人が死亡したと推定されています。豚インフルエンザは、1889年、1968年にもそれぞれ推定100万人、1957~58年には推定200万人が死亡しました。

エボラ出血熱(2014‐2016年)
 エボラ出血熱は、エボラウイルスによる致死性の高いウイルス性出血熱です。2014年から2016年にかけて西アフリカで流行し、2万8000人以上が感染、1万1000人が死亡しました。

COVID‐19(2019 年~2023年)
 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、新型コロナウイルス2(SARS‐CoV‐2)による感染症です。2019年12月に中国湖北省武漢市の原因不明の肺炎の集団発生から始まり、パンデミックになりました。世界で累計6億7000万人以上が感染し、688万人以上が死亡しました。日本でも3330万人以上が感染し、7万4000人以上が死亡しました。

 パンデミックの頻度と規模は、多くの要因によって決まります。そのため、正確に予測することはできません。ただ、分かっていることをいくつかまとめておきます。
 まず、過去のパンデミックの一覧を見ると、2000年を過ぎてすでに4回のパンデミックがあることが目を引きます。つまり発生頻度が多くなっているのです。
 次に、この頻度や影響が高まる要因について考えてみます。
 まず新たな病原体の出現です。森林を開発することにより、そこにしかいなかった新しいウイルスや細菌が出現する可能性があります。さらに、気候変動や環境汚染やさらなる自然の開発などが原因で、新しい病原体が出現する可能性が高まります。
 そして新しい感染症に対しては、人の免疫システムが存在しないため、感染症が拡大する可能性があります。
 また、人口の密度や移動性が高まっている現代社会においては、感染症が広がるスピードが速く、感染の拡大が予測されます。
 一方で、発生したとしても抑えられる可能性もあります。それは現代の医療技術の進歩によって、将来の感染症に対する対処法が改善される可能性です。
 例えば、新型コロナウイルスのワクチンのように、新しい感染症に対するワクチンが開発されることが期待されます。
 また、デジタル技術や人工知能の発展によって、感染症の早期発見や診断が可能になる可能性もあります。

パンデミックはいつ再来してもおかしくない

 総合的に考えると、将来の感染症の頻度と規模は、多くの要因によって決まります。
 しかし、人口の密度や移動性が高まっている現代社会においては、これまで以上の感染症の拡大スピードが予測されます。そして、感染症の早期発見や診断に向けた技術の開発が期待されます。一方で、次のパンデミックに対する対処法の1つが、働き方、リモートワークのバージョンアップです。
「もう、しばらくパンデミックはない」と想定して、リアルでの仕事が永続的にできると考えるのはあまりに楽観的すぎないでしょうか。少なくともリモートワークを併用し、さらに活用、バージョンアップする方法を常日頃から考えるのは必須だと思うのです。つまり、働き方の多様性を高めることがポイントではないでしょうか。
 日本では、多様性を認めるのではなく、一律、つまり白黒をつけるのが好きな人が多い国民性であるとホフステードの6次元モデルで説明されています(このホフステードモデルについての詳細は後述します)。だから、働き方もリアルなのか、リモートワークなのか白黒つけたがるのです。
 しかし、今のままでは今後は、日本の企業が国際的な競争に勝っていくのは厳しくなっていくのではないでしょうか。

***

全世界的なパンデミックは、今回のコロナが人類としては初めての体験でした。ただ、中尾さんが指摘する通り、パンデミックの頻度は短くなり、グローバリゼーションとともに広がる範囲とスピードがどんどん拡大している状況です。

いつまた同じような事態が起こらないとも限りません。

となれば、それに備えるべきという議論は至極まっとうな話ではないかと思う次第です。

ところが、それでもなお、なぜ経営者は従業員にリアル出社を求めるのか?

(次回記事につづく)

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