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かつての里山に暮らす動植物 その1                 ~キノコの仲間~

 さて、前回は、放置された”かつての里山”はいま、動植物の豊かな環境になりつつあることを書いた。そしてここからはそんな豊かになった動植物の姿を紹介してみたいと思う。ぶっちゃけ、いままで自分が撮りためた写真を公開したいだけなのかもしれないが、わたしが面白いとか、美しいとか感じた動植物の姿をみなさんにも見ていただけたらなあという思いである。遠い異国や山の上に行かなくとも、身近なところに美しさや魅かれるものは転がっているものだ。
 では、予想外かもしれないが、今回はキノコ類をご紹介しよう。キノコの仲間は草木の花のような美しさはないが、とにかく森のなかでの存在感はピカイチだ。色や形もユニークで、植物でも動物でもない不思議な存在に魅かれてしまう。

アカイカタケ

 これをコナラ林の下で見つけたときには驚いた。まるでエイリアンである。珍菌といっていいだろう。ハエが集まっているのは真ん中のドロドロとしたものから糞臭のような匂いがするため。ハエが実際に食べるかどうかはわからないが、とにかくハエを引き寄せ、体に付着することでドロドロとしたものはハエの行先に運ばれていく。そう、このドロドロとしたものは植物にとってのタネ、キノコでいうところの胞子なのだ。飛び立ったハエが次に降り立ったところでこの胞子がなにかにうまく付着すれば、そこでまたアカイカタケは子孫を残すことができるのだろう。

スッポンタケ

 こちらはスッポンタケ。名前の由来はカメのスッポンの頭部に形が似ているからか。これを見つけたときも思わず、「やったっ」と心のなかでつぶやいていた。アカイカタケほどではないにしろ、なかなか見ることのないタイプのキノコ(いわゆる”レアもの”?)だからだ。このスッポンタケもまた、頭部のドロドロとした胞子がとても臭く、これにハエなどが集まってくる。ただ、この胞子をきれいに水で洗い流し、柄の部分も合わせて調理するとたいへん美味だとされている。じつはわたしもこのスッポンタケを持ち帰り、胞子を洗い流してスープにしたところ、いままでに味わったことのないおいしいものができた。「見た目と裏腹」とはまさにこのことだ。大きなエノキの木の下で見つけた。エノキという木は山の地下水がしみ出すような湿っぽい場所に生えるから、スッポンタケもそうした環境を好むのかもしれない。

キツネノエフデ

 キノコっぽくないキノコが続いたのでもう一つおまけ。
 これもまた、頭部の赤いところにハエなどの仲間をおびき寄せ、胞子を付着させて広がっていくのだろう。ネーミングがなかなか憎い。

シロオニタケ

 ここからはいわゆるキノコっぽいキノコ。

アシナガイグチ
テングツルタケ
マントカラカサタケ?
シロホウライタケ

 繊細なものたち。

名前はわからず
スジオチバタケ
アシボソノボリリュウタケ

 また、ちょっと変わったやつら。

テングノメシガイ
ハナホウキタケ
クチベニタケ

 キノコの仲間はこのように色も形もユニークで、見ていて飽きない。こどもたちを連れて森歩きをすると、関心を示すのがドングリなどの木の実やこのキノコたちだ。きっとこどもたちもその不思議な存在感に魅かれるのだろう。

 キノコという名称はおそらく”木の子”からきており、実際、木の下の地面や枯れ木から生えていることが多いので、その姿も合わせ、そう呼ばれるようになったのは想像に難くない。ただ、キノコの本体、というか普段の姿はどうかというと、わたしたちの目にはほとんどふれない地面の中や枯れ木の中で、白い糸のような姿で広がっている。それがある刺激(雨や気温の低下)によってキノコという形に変形し、地上や枯れ木のなかから現れて胞子を拡散させるのだ。したがって、わたしたちが目にするいわゆるキノコは、植物にとっての”花”のようなものといっていいだろう。そして、キノコの姿になっていないほとんどの期間は、糸のような姿で地面の枯葉や枯れ木を分解している(栄養を摂取している)ということになる。

 かつての里山に限らず、森や草原では常に植物や動物たちが枯れたり死んだりしている。そうしてできた”遺体”はいつのまにかわたしたちの目の前から消え、土になっているのだが、その作業(分解)をしてくれているのがこのキノコたちだ(正確にはキノコだけではなく、ミミズなどの小動物もだが)。こうしたキノコは枯れた木を分解するもの、落ち葉を分解するもの、虫などの動物を分解するもの、そして、ある木と結びつき、その木の根から栄養を摂取しつつキノコからも木に必要な栄養を提供しているものなど、その生き方はさまざまなようだ。したがって、キノコの暮らす森が多様であればあるほど、そこには多様なキノコたちが暮らしている、といえるかもしれない。

ムラサキホコリ

 さて、最後はムラサキホコリ。これも最初はキノコの仲間だろうと思ったが、調べてみるとキノコではなく、”粘菌”だった。粘菌はいま、”変形菌”と呼ばれており、かの大博物学者、南方熊楠が研究対象にした生物である。キノコとは違って動き(移動し)ながら栄養を摂取するので、似ていてもまったく別の生物だとされている。
 ただ、動くといっても、長時間、観察してみると移動したのが分かるぐらいの動きで、移動しているときはアメーバのような姿をしており、子孫を残すために胞子を拡散させたいときには上の写真のような姿になるのだという。なので、動物でもあり、菌でもあるという、不思議な生物だとされている。
 かつての里山にはこうしたキノコや粘菌の仲間たちが暮らしてる。

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