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悪名高きラ・リーガのサラリーキャップ、は本当に悪?

欧州サッカーはいよいよストーブリーグ(冬の移籍市場)入りですね。推しのチーム状況を踏まえながら、XXXが来てほしい、いや移籍金が高すぎるからYYYだ、などとうわさ話に話を咲かせ、X(旧twitter)上では"Here we go"がつく情報を必死に追うのが楽しみな時期でもあります。

もっとも、欧州ではスペインのラ・リーガを推している私としては、全くもって期待高まりません。むしろ抜かれないでくれ!と寝ても覚めても祈る日々です。そんなこと言っている内に、リーガ屈指のドリブラーであるグラナダのブライアン・サラゴサをバイエルンに持ってかれてしまいました(2023年12月6日公式より発表)。

このようにラ・リーガは買うより売る側に回りつつあります。買い手としての存在感は低下し、今年の夏の選手獲得金額はプレミア、サウジ、リーグアン、セリエA、ブンデスに抜かれて第6位。5大リーグではぶっちぎりのビリになりました。

なんでこんなことになったのか?その理由として挙げられることが多いのが、サラリーキャップ制です。ファイナンシャルフェアプレー自体はどのリーグでも存在するのですが、サラリーキャップを厳格に決めているのはラ・リーガ独特と言えるでしょう。

そこで今回はサラリーキャップ制の紹介と、それがクラブの動きにどう繋がっているのかご紹介します。構成は、①サラリーキャップ制度の強みと弱み②強みは破綻しない、弱みは伸びない、➂リーグの大半は強制的に低予算編成、④ビッグ3比較:圧倒的な金欠バルサはあるのか、となっています。では早速話をHere we go。


サラリーキャップ制度の強みと弱み

ラ・リーガは、サラリーキャップを導入しており、登録選手だけでなく、監督、アシスタントコーチからフィジカルコーチに至るまでトップチームの人件費総額に対して上限を定めています。

算出式自体は至ってシンプルで、売上から、スポーツ以外の支出、借金返済額を引いたものをサラリーキャップとしています。ファイナンスの世界だとFCF(フリーキャッシュフロー)の概念に近く、要は”何があっても現金が手元に残る”ことを目的にしていると考えられます。

La liga news letter "How LaLiga's Economic Control and Squad Cost Limit works" 2021.9.27

このシステム下、ラ・リーガのチームは売上が伸びないと借金は増やせない仕組みとなっています。借金が常に身の丈に合うため、売上が減少したとしてもすぐに破綻するリスクは大幅に低下します。

強み:破綻しない、弱み:伸びない

このシステムが効力を発揮したのが2020年のコロナです。19/20シーズンはプレミア(総額-10億ユーロ)、セリエA+B(総額-7.6億ユーロ)が大幅な赤字を計上する中、売上対比で費用が抑えられていたため、少額ながらも純利益を確保しました。

La liga news letter "How LaLiga's Economic Control and Squad Cost Limit works" 2021.9.27

この仕組みは破綻クラブを作らないという点では抜群に優れているのですが、一方で成長力に欠けるという難点を抱えています。特にコロナのようにショックに見舞われ売上が落ちると、サラリーキャップを守るために借金返済を優先し、魅力の高い選手の獲得は2の次になります。その結果、リーガ全体の魅力が下がると、また売上が落ちます。売上が落ちると、借金返済に追われます。移籍市場で獲得できる選手の金額が更に下がります。このように、まるで前前前前前世から続くような縮小均衡のループにはまるのです。

今のラ・リーガは縮小こそ避けられていますが、完全に”伸び悩み”のフェースに入っています。コロナ禍以降は売上が大きく増えないので、必然的にラ・リーガのサラリーキャップはコロナ禍前の水準でウロウロしている訳です。スペイン語という世界で英語に次いでしゃべる人数が多い言語を共有しいながら、ラ・リーガ全体で見た売上の苦戦はまた別の記事で分析したいと思います。

ご参考までに現時点で公開されているラ・リーガの売上の公式データを紹介します。大分更新が遅いのですが、見ての通り2年前の時点では18-19シーズンにも届いていません。

la liga financial report 2021/22

リーグの大半は強制的に低予算編成

では、実際に開幕前の各チームのサラリーキャップを見てみましょう。レアルマドリー(Rマドリー)という巨人を除けば、ビッククラブが1~2億ユーロという相場なっています。

ラ・リーガの統計によれば、各クラブは平均で選手・監督のサラリーを含む営業費用に売上の75%を費やしています。移籍市場は残り25%で何とかやりくりしないといけないわけです。これは厳しい!という話になります。
正直、今の欧州サッカーにおいて予算が1億ユーロを下回っている時点で厳しいと言わざるを得ず、べティス以下の13チームはこの状況に陥っています。特に5000万を下回るチームは一層厳しく、ヘタフェ(4,000万ユーロ)という超絶低予算チームが残留に向けて、フィジカルを1000%前面に押し出したプロレスサッカーを展開しなければいけない理由がよく分かります。

ビッグ3比較:圧倒的な金欠バルサ

さて、全チーム紹介していると、1万文字を優に超える超大作になってラ・リーガをあまり知らない方を置いてけぼりにする記事になるので、ここではビッグ3に焦点をしぼって分析しましょう。boardroomやsalarysportのような各クラブのサラリー情報を集めたサイトから、ビッグ3のサラリー枠使用状況を推計しました。

*開幕時点であるため、開幕後の契約更新や売買契約などは含んでいません

圧倒的に金が足りてないのがバルサです。開幕時点でギリギリchopで全員を登録するのが精いっぱい。これを見ると、ブスケッツやアルバなど給与が高額のベテラーノを切り捨て、トリンカオやアブデなど、え?せっかく芽が出てきたのに?という若手も売却した理由がわかります。

逆に圧倒的な余裕を確保しているのがレアルマドリー(Rマドリー)です。銀河系軍団を作って大赤字を計上してしまったのは、はるか昔。若手路線に切り替えてからは、毎年のように安定した利益を確保しています。
ただ、4億ユーロという余力は近年で見ても枠を余らせ過ぎています。個人的な観測ですが、ビッグネーム獲得に向けてぺレス会長がわざと枠をあまらせているのではないでしょうか。だとすれば、エムベパに冬の移籍市場で決断を迫っているという報道は、意外に憶測ではなく真実かもしれません。

Annual Report of Real Madrid 2021/22

Rマドリーほどではないにせよ、枠に余裕があるのがアトレティコ・マドリード(Aマドリー)です。もっとも、スカッドは完成の領域にあるので、余剰人員の整理を行い、来期以降に向けた貯蓄を優先すると読んでいます。実際、レスターから加入して出番があまりないCBのソウチェクは、母国トルコのフェネルバチェが接触しているとの報道も出ています。また、SBのハビ・ガランもべティスが興味を持っていると報じられるなど、放出の報道が先行していますね。

あとがき~20年前に見た光景~

結局、ラ・リーガ自体の売上が伸びない以上、収入を増やす方法は①CLなど欧州で勝ち抜く、か、②移籍金がかからない若手を育てる、しかありません。ということになるかと思います。ラ・リーガが移籍市場に投じれるお金が少ない中、3大リーグの看板を維持できたのは、一重に圧倒的な育成能力があったからです。

一番の好例は、20年に一回はクライシスに陥るバルセロナですね。1990年代からのクライシスは(CL出場権すら逃した)、シャビ、プジョール、イニエスタ、V・バルデスなど自前の若手選手がトップ定着することで欧州の地位を築き上げて来ました。20年後の2020年にこりずに、またクライシスに陥り、今日のガビ、ヤマル、F・ロペス、バルデなどの自前の若手選手がトップ定着して何とか破綻せずに今日に至っています。

ラ・リーガはその仕組み上、派手な補強で目を引くことはありませんが、素晴らしい若手の登場とその成長を見守ることができるのが醍醐味(だいごみ)のリーグなのです。是非、成長のリーグとしてラ・リーガをよろしく!では本日も良いサッカー生活を!

#ラ・リーガ



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