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ヨーロッパだけじゃない!メキシコとアメリカサッカーの可能性

2024シーズンのアペルトゥーラが開幕したリーガMXは、4節を終え、中断期間を迎えた。

リーグ戦が再開するまでの1ヶ月間、メキシコのクラブは、戦いの場をアメリカに移し、MLSクラブとのカップ戦を戦った。
このカップ戦の規模は、リーガMXとMLS の活発な交流を象徴している大会の1つだ。

"si se puede juntar ese potencial es algo que no tiene que envidiar nada a la mejor liga del mundo." 「その(メキシコとアメリカの)ポテンシャルが結集されれば、世界最高峰のリーグのみを羨ましがるようなことはなくなるだろう。」
と、FIFA も注目するリーガMXとMLS の関係。

なぜ、FIFAがこのようなコメントをして注目しているのか。
その理由は、両リーグ主催の独自の大会にヒントがあった。


47クラブの戦い

冒頭で触れた両リーグの関係性を象徴する大会の名は、リーグスカップ。
メキシコからリーガMX1部に所属する18クラブ、MLSから29クラブ、計47クラブが参加し、1ヶ月の戦いを経て、チャンピオンを決める。

大会の形式は、
昨シーズンの各リーグチャンピオン(リーガMXは年間勝ち点トップのチーム)を除く、45クラブがそれぞれのリーグ順位等に応じて、15グループに振り分けられる。

グループ内で総当たり戦を行い、決勝トーナメントに進出チームを決める。(90分の決着がつかなければ、PK戦で決着)

その後、リーグチャンピオンが加わった34チームでトーナメントを行うというものだ。

トーナメントを勝ち抜いた上位3チームは、翌年のConcacafチャンピオンズカップへの出場権を得られるという大きなチャンスのある大会だ。

今大会は、ベスト16に進んだメキシコのクラブは6。(クラブ・アメリカ、クルス・アスル、マサトラン、ティグレス、トルーカ、プーマス)
ベスト8に勝ち上がったのは、クラブ・アメリカとマサトランのみと、MLSのクラブの強さが目立つものの、PK戦までもつれた試合も多く、激闘が繰り広げられた。

異なるスタイル

リーグスカップの戦いを見ると、メキシコサッカーとアメリカサッカーのスタイルの違いが顕著に見られた。
その異なるスタイルについて触れられた記事があったので、ここではその一部を引用してみようと思う。

この記事では、アトラスを率いるスペイン人指揮官ベニャト監督のMLSのクラブの印象についてのコメントを次のように取り上げた。

“Beñat San José ha entrenado en siete países en cuatro continentes.
no dudó en elogiar al Real Salt Lake después de que el club de Utah derrotara a su Atlas FC en la fase de grupos de Leagues Cup la semana pasada.”
「ベニャト・サン・ホセ氏は、4大陸7カ国で指揮を執った指導者である。そんな彼は先週、アトラスを率いて、リーグスカップグループステージ敗退後、対戦相手のレアル・ソルトレイクを躊躇うことなく称賛した。」

https://es.mlssoccer.com/noticias/entrenadores-de-la-liga-mx-luchan-contra-una-mls-muy-fisica-en-leagues-cup

以下、ベニャト監督のレアル・ソルトレイクに対する印象。

“Lo que puedo decir es que los equipos de la MLS están a un nivel top. Real Salt Lake es un equipo extraordinario. Son muy buenos técnicamente, físicamente, tácticamente.”
「私が思うに、MLSのクラブはトップレベルです。レアル・ソルトレイクは並外れたチームですし、技術、フィジカル、戦術と非常に優れています。」
"Hemos encontrado un juego más organizado, en el oponente hay menos distancias entre las líneas que quizás en México, donde es más de ida y vuelta, y eso también tiene su belleza."
「我々は、より組織的なゲームを展開しました。それに対し、相手はおそらくメキシコのクラブよりも、ライン間の距離を短くし、コンパクトであったため、一進一退の攻防を多く作り出しました。それも彼らの美しさ(魅力)だと思いました。」

ベニャト監督が指摘するように、MLSのクラブの試合運びは、特徴的であった。

トーナメントに入り、ベスト8を懸けた試合では、同一リーグのクラブ対決を除く4試合のうち、3試合はメキシコのクラブが支配率を上回った。シュート数に関しては、4試合全てでメキシコのクラブが上回るなど、データ上の印象は、リーガMXの方が良かった。

一方で、MLSのクラブは、攻守の切り替えが速いスタイルが目立った。

メキシコのクラブの支配率が高かったことに関しては、MLSのクラブが、相手にボールを持たせ、自分たちの持ち味を発揮する絶妙なタイミングを狙っていたという見方ができるだろう。

メキシコのクラブは、このMLSクラブのスタイルに、攻めあぐねる時間が続き、試合を優位に進められないこと多かった。

戦い方の違いに苦しんだメキシコのクラブであるが、この異なるスタイルのぶつかり合いが、リーグスカップの面白さであるのかもしれない。

注目度が高まるMLS

MLSの注目度が年々高まっているのは、言うまでもないだろう。
メッシなど世界的なスター選手も多く所属し、リーグやクラブの市場価値も大きくなっている。
アメリカを同じ北中米地域として最大のライバルと位置付けているメキシコにとって、MLSの動きは非常に脅威だ。

一方、メキシコのリーガMXは、長い歴史の中で、メキシコ人選手はもちろんのこと、中南米の有力な選手も多く在籍してきた。それもあり、過去15年のConcacafチャンピオンズリーグでは、14回がメキシコのクラブが優勝を果たすなど、北中米カリブ海の中でも群を抜いたリーグである。

その中で、MLSの急成長に触れないわけにはいかない。
近年は、MLSでプレーを選択したメキシコ人選手もいるなど、これまでの形が変わりつつある。

Más que nada por el estilo de vida y economicó. se sienten más tranquilos, más libres en ese tema, la seguridad de ese país.
「何よりもライフスタイルと経済のため。国の安全面やその問題について、より落ち着いており、自由に感じている。」

https://amp.mediotiempo.com/futbol/mls/por-que-jugadores-mexicanos-eligen-la-mls-y-no-liga-mx

と現地メディアも、選手がMLSでのプレーを選択する理由を分析する。
このような要因は、YouTube PIVOT チャンネル「アメリカはサッカーも世界一になれるのか?」でBlue United の中村武彦氏も触れていた。

この特徴がMLSの魅力となり、リーグ全体のレベルアップに繋がっているのは間違いないだろう。

今回のリーグスカップでは、リーガMXのクラブが、MLSのクラブに苦しめられた大会となった。
これは北中米カリブ海地域での、リーガMXの”独走”が終わりを迎えたとも言えるだろう。

これまで以上に、MLSと高いレベルで競い合うことがリーガMXに求められている。
MLSなくして、メキシコサッカーの成長はないのかもしれない。

サッカー界にもたらす新たな動き

リーガMXとMLSは、ライバルでありながらも、交流の機会を多く持っている。

今回のリーグスカップの前には、両リーグ選抜によるオールスター戦も行われた。
リーグスカップもそれぞれのリーグ戦を1か月という長い期間中断し、行われている珍しい形式だ。

このような交流は、日本を始めとするアジアやヨーロッパでは見られないだろう。(過去に日韓のオールスター戦はあったが、今回のようなカップ戦は行われていない。)

ティグレスのエースストライカーで元フランス代表のジニャックは、この両リーグの関係性を自国のサッカーと比較し、このように言及した。

"No creo que en Europa el Marsella hubiera aceptado parar un mes el torneo local para ir a otro país a competir uno internacional, pero es parte del crecimiento de dos ligas, de una rivalidad. Estados Unidos es show y está padre"
「ヨーロッパでは、マルセイユが他国での国際大会に出場するために、1ヶ月間自国のリーグを中断することは考えられないです。しかし、リーグスカップは、両リーグの成長、ライバル関係を表している。アメリカはショーであり、とてもクールだと思います。」

https://amp.milenio.com/deportes/futbol-internacional/andre-pierre-gignac-se-une-a-las-criticas-contra-la-leagues-cup

とこれまでヨーロッパではなかった形の大会について、ポジティブな見解を示している。

また、同記事では、東京オリンピックでブラジル代表を金メダルに導き、現在はクラブ・アメリカで指揮を執っているジャルディン・アンドレ監督のコメントも紹介。

リーグスカップの開催について、

“En el América no tuvimos mucho tiempo de vacaciones y no tuvimos pretemporada, por lo que a nosotros en el América nos hace bien el parón porque vamos a recuperar jugadores, muchos de los cuales vienen de vacaciones o son nuevos fichajes. ”
「クラブ・アメリカは休暇期間が少なく、プレシーズンもなかったですが、このリーグスカップの期間を利用して、新加入選手なども含め回復させることができます。このリーグ中断期間はアメリカにとってはプラスだと思っています。」

とコメントした。
加えて、オールスターでリーガMXチームの指揮も執ったアンドレ監督は、オールスター戦についてもポジティブな意見を語った。

"Es un evento importante, que debemos valorar mucho y mañana pinta para ser un gran partido porque no es fácil reunir tantos grandes jugadores en un partido.”
「このイベントは重要であり、我々はこれを大切にしなければいけないと思います。これほど多くのスター選手を1試合に集めるのは簡単なことではないと思うし、明日は素晴らしい試合になるでしょう。」

元フランス代表、元ブラジル代表監督。
北中米以外のサッカーも知る2人の意見は、興味深いものがあるだろう。

これまでになかった形式の大会やイベントが、両国のリーグ、サッカー界に交流の機会を生み出し、良い形で定着しつつあるのだ。

日本も無関係じゃない!?

メキシコとアメリカを中心とする北中米のサッカー界の動きは、これだけではない。

先日、ある情報がネットニュースになった。
それは、「2025年北中米ゴールドカップの出場枠が拡大か 招待国に日本の名前も」という記事。

記事によると、この情報は、アルゼンチンの一部メディアが報じているものだという。
代表戦ということもあり、現実的には、実現が厳しいとの声もあるが、仮にゴールドカップ参加国拡大が実現すれば、日本もこれまで以上に、北中米サッカーとの関わりが増えることになるかもしれない。

また、今回紹介したリーガMXとMLSの関係性。

これは、Jリーグとサウジアラビアのリーグとの関係性と重なる部分があるとの見方もできる。

サウジアラビアは近年、サッカー界で注目されている国の1つだ。
クリスティアーノ・ロナウドなど、スター選手も多く在籍し、その注目度と経済面での規模は、MLSと類似する部分も少なくはないだろう。

一方で、Jリーグは30年の間で、独自のサッカー文化を築いてきた。
その独自のサッカー文化を持ち、世界のトップを走り続けるヨーロッパリーグを追う立場は、リーガMXにも当てはまる。

そんな中、Jリーグとサウジアラビアリーグは、5月に戦略的パートナーシップ協定を結んだ。
両国の交流を深めるため、イベントや親善試合の実施などが内容になっているという。

地理的には、メキシコとアメリカのように近くはないが、アジアのサッカー界を牽引する日本とサウジアラビアの関係が、発展する可能性は大いにあるだろう。
リーグスカップやオールスターを通じた、メキシコとアメリカの両リーグの交流がより注目され、完全に定着すれば、それぞれに類似する部分が多い日本とサウジアラビアにとって、良きモデルになることもあり得る。

そういった点でも、新たなリーグ間交流を生み出したメキシコ・アメリカのサッカーは、日本サッカーにとっても注目すべき、楽しみな存在なのだ。

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