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シュートマトリクスから見る現代フットボール 〜考察編〜

前回、前々回とシュートマトリクスの作成を紹介しました。
では、ここからは実際に採れたデータを元に現代フットボールのシュートにおける傾向、そしてそこからわかることの考察を行ってみます。
こちらから前々回、前回の記事が見れます↓


※考察編では「Zone2L」とかZoneの名称を知っている想定で話を進めていくので、下図の図0を手元に準備してそれを見ながら記事を読んでもらえるとわかりやすいかと思います。

図0



EURO 2024

2024年夏に行われたEURO 2024のデータから見てみましょう。

図1

まずはゴールマトリクスの方から。今大会の全てのゴールの総計です。
最もゴール数が多かったZoneはZone3でした。ペナルティエリアかつその真ん中のゾーンであることから、侵入しやすくシュートが多くなること自体(=ゴールが多くなる)というのは確かですが、それが如実に現れていますね。

次点でZone6。ここは注目ポイントです。ここ最近のフットボールでは、守備を固くし奪ったらカウンターへという狙いのチームが増えています。今までのように敵陣からハイプレスをかけて奪取する・自陣に入らせないという守備の仕方から変化しているようです。これにより攻撃側は引いて守る守備を攻略しないといけないのです。ただ、固く守るブロックを完璧に崩すのは難しいという時には撃てるタイミングで撃つことも大事になるのです。ということで、ロングシュート・ミドルシュートが多くなったことが考えられます。それらのシュートはボックス外(ペナルティエリア外)から撃つことが多いので、それに伴ってZone6からのゴール(シュート)が多くなったと考えられます。

3番目に多かったのはZone1。ここはゴールに最も近いZoneでゴールが決まる確率がかなり高いZoneであります。今までのフットボールではここでのゴール数が少なくとも2番目に多かった、最も多かったということがほとんどでした。しかし、Zone6からの得点数の増加により今大会では3番目の多さになってしまいました。
ここで、Zone1,2L,2Rを一つのZoneとして考えるのであれば、合計ゴール数は25得点になります。2番目に多い数値になります。何が言いたいかというと、ミドルシュートなどのロングレンジからのシュートが多いという中でも、ゴール前(ゴールエリア)でのゴール数はまだまだ多いということがわかります。なので、トレンド・傾向が完全に今までより変化したとは考えにくいです。なので移行期とみて良いでしょう。というか、サッカーというスポーツの特性上、ゴールに近いエリアでの得点数の多さは普通だと思いますがね。

これらのことを踏まえると、守備側の守り方が変化している中で、ロングレンジからのシュート精度の高さが求められその精度が結果に直結するということが考えられそうです。なので、無闇にミドルシュートを放ったとしても精度が低ければゴールは入らずセーブされてしまいます。それでは守備側の思う壺でしょう。



図2

では、ここで過去のコンペティションと比較してみます。
図2は、2年前の2022年に行われたカタールワールドカップでのゴールマトリクスです。←今回の検証のために一から作ってみました笑

Zone3での得点は多くなっていて、それはどの時においても当たり前のことかもしれません。しかし、Zone6のゴール数を見てみると、なんと8なのです。EURO 2024の半数以下。試合数的にもEURO 2024の方が少ないので、決まる確率も高い。さらに、Zone1,2L,2Rのゴール数を合計するとワールドカップは37で、EURO 2024は25ということで試合数のばらつきはあるもののゴールエリアでの得点は減少しています。
ということは、やはりトレンドによってゴールが決まるエリアの変化が起こっているとわかります。実際に試合を見てみても、守備時の守り方とゴールの決まり方に変化がありますが、このマトリクスを見てみても変化があるとわかりますね。



図3

続いてシュートマトリクスの方です。シュートの方を見ます。
こちらも今大会(EURO 2024)でのシュートの総計です。

これを見てみても、Zone3,6がやはりシュート数が多くなっております。このZoneでのシュート試行数が多いがためにゴール数も多くなっています。シュート数とゴール数の比例関係がありそうです。
ですが、3番目にゴール数が多かったZone1のシュート数はシュート内では6番目に多いシュート数でした。プラスして、Zone2L,2Rについても7,9番目のシュート数ということでそこまで多い試行数があるわけでもないのです。よって、ゴール前まで崩し切ってシュートを放つということが難しくなっておりそのチャンスも少ないということがわかります。ただ、ゴール数は多い方ということは、それほどゴールがより決まりやすいエリアであることを再認識できそうです。このエリアでゴールが決まりやすいということで、そこに入らせないために守る側は固いブロックを敷くことになるのです。そして、攻撃側は崩すよりもミドル・ロングシュートを狙うという流れになるということです。

次に、図3の下半分はゴール決定率を表しています。ゴール数/シュート数 でZone毎に計算し数値を出しています。
これを見てみても、やはりZone1は最高のゴール決定率で、Zone1,2L,2Rを合わせたゴールエリアがトップ3のゴール決定率でした。ここでもゴール前での決定率が高いことを理解できます。
逆に、Zone3,6はゴール数は多いがシュート数も多いということで決定率は低くなってしまうようです。


図4

ワールドカップでのシュートマトリクスとも比較してみましょう。
シュートZoneと決定率は全体的にはそこまで違いはないようです。しかし、Zone6でのシュート試行数は、EURO 2024が425本に対し、ワールドカップが418本ということがわかります。ここで、おさえておきたいのはEURO 2024の方がシュート試行数が145本少ないこと。となれば、Zone6でのシュート試行数は増加していることがよくわかります。←確認!

また、決定率においてもワールドカップではゴールエリアでの数値が高いことが確認できるので、これは普遍であることがわかります。しかし、その数値がEURO 2024では減少したのでゴールエリアでの難化も考えられそうです。そこには、ゴールエリアに迫るまでの労力や時間がかかっているようなことも考えられそうです。ここをもっと調査して突き詰めたいところですね。



図5
GS第3節まで
図6
決勝トーナメントのみ

続いてはシュートマップの方を見ていきます。今回はゴールの決まった位置をプロットする形だけにします。=ゴールマップ。
図5はグループステージまでで、図6は決勝トーナメントのみのゴールマップになります。

ゴールのポストからペナ角まで引かれている線には意味があり、この2線を辺とし底辺をペナルティエリアの最も手前の線とする台形がゴール前に浮かび上がると思います。この台形のゾーンが”ビエルサゾーン”と呼ばれる、ゴールが決まると言われているゾーンです。

これらを踏まえてみてみると、やはりビエルサゾーン外からの得点は希少であることがわかり、ゴールの多くはビエルサゾーン内であることがわかります。これは確認的なもので、ビエルサゾーンの有用性・説得力を表すものになっています。ただ、前述の通り、ビエルサゾーン外であるZone6からの得点は多いように感じますね。そこが今のサッカーにおける変化です。

ところで、ビエルサゾーンの斜めの辺をZoneを絡めて見てみると、Zone4L,4Rを半分に切り裂いていることがわかります。このことから、Zone4からの得点は決まるか決まらないかはビエルサゾーンに入っているかどうかにかかってきます。なので、Zone4L,4Rはシュート試行数が多い割には、ゴール数が少なかったのです。しかし、Zone 2L,2Rにおいてはエリアを線に破られていますが、よりゴールに近いエリアなので(ゴールへの距離が近いことでシュート難易度が易化するため)ゴール数が多くなっています。
また、Zone 5L,5Rに関してはビエルサゾーン外のエリアなので、ゴール数は少なくなります。他のZone7,8も同様ではあるのですが、Zone4,5に関してはペナルティエリア内であるにも関わらずゴール数が少ないという事象に触れておきたかったので紹介しました。


Copa America 2024

さあ、次はCopa Americaです。こちらもデータを採ったので見てみましょう。

図7

まずはゴールマトリクスの方から。
母数に差は大きくありますが、ゴールのエリア比率自体はそこまで変わらないように思えます。しかし、Copa Americaの方ではZone1,2,3での得点割合が多くなっているようです。というわけで、ペナルティエリア外からの得点割合もEUROに比べれば若干低くなっています。しかしながら、2022年のカタールワールドカップではZone6からの得点が8で、Copa Americaは7ということで数値的には同程度です。Copa Americaの方が試合数も得点数も少ないので割合的にペナルティエリア外からの得点数が増加していることが考えられます。EURO同様に現代的な傾向が見られます。

Zone3(=ペナルティエリア内かつ中央)での得点割合が過半数を超しているということを考えると、どちらかというとワールドカップよりの結果になっているとも思えます。しかし、母数が少ないこともあるのでもう少し試合があれば結果は変わっていたかもしれません。


図8

続いてシュートマトリクス。
こちらは傾向的にはEUROとはほとんど差異はありません。あるとすればZone7からのシュート試行数が3番目に多いということ。ロングシュートが多かったようですね。そういうところに世界のフットボールとは違う味のある、南米らしさ(北中米も含まれますが)を感じます。

シュート決定率に関しても、傾向的には差異はなく、ゴールエリアはしっかり決定率が高くペナルティエリア外は決定率低めとわかります。


図9
GS第3節まで
図10
決勝トーナメントのみ

最後にゴールマップです。こちらもビエルサゾーンを作成してみました。
やはり、ビエルサゾーン外からの得点が少なく、ほとんどのゴールがビエルサゾーン内での得点でした。ここでもビエルサゾーンの説得性がはっきりとわかりますね。このゾーンはサッカーにおいて、どの大会においても当てはまるようなものであると認識できそうです。


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