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伊勢物語「芥川」 解説
高校1年生向け
言語文化
1. どんな話なのか
身分の違う「男」と「女」がかけおちするが、鬼に食べられてしまう話。
2. 本文の「核」
・「男」が高貴な「女」を連れてかけおちする。
・「女」が鬼に食べられてしまう。
・愛する「女」を失った男は、後悔と悲しみの和歌を詠む。
3. あらすじ
*「現代語訳(口語訳)」ではありません。
昔々、あるところに男がいた。男はある女のことがずっと好きで、求婚(プロポーズ)し続けていた。しかし、女は男よりずっと身分が高かったため、二人は結婚することができなかった。しかたがないので、男は女を盗み出し、駆け落ち(家族からOKをもらわずに本人たちだけで勝手に結婚すること)するのだった。
夜、芥川という川の近くを逃げていると、女は、草にキラキラと光るものがあることに気がついた。お金持ちの家に育ち、夜出歩いた経験のなかった女には、それが何かわからない。女が「あの草の上で光っているのは何かしら?宝石かしら?」と聞いてみたが、男は答えない。男は追手から逃げることで頭がいっぱいになっているのだ。
目的地まではまだまだ遠い。夜遅くなってきたうえ、雨や雷が激しくなってきた。男は、このまま進むのは難しいと判断し、一晩どこかで休むことにした。ふと、荒れ果てた小屋があることに気がついた。粗末な小屋だが、仕方ない。女を小屋に押し込み、自分はいつ追手がきても迎え打てるよう、武器をもって小屋の入り口に座り込んだ。しかし、男は知らなかった。その小屋の奥には、人食い鬼がいることを……
男が夜明けを待っている間、小屋の奥では女が鬼に襲われていた。女は「きゃあ」と悲鳴をあげたが、雷の音がうるさくて男には届かない。鬼は女を食べてしまった。
夜が明けた。小屋をなかを覗くと、女がいない。男は愛する女を失ってしまったことにようやく気づき、悲しむが、もはやどうすることもできなかった。
悲しみにくれる男は和歌を詠む。
あの子が草の露を見て「あの光るものは真珠かしら?」と聞いてきたとき、ちゃんと「あれは露だよ」と答えてあげればよかった。愛する彼女は死んでしまった。二度と会えない。こんなことになるのなら、ぼくが彼女の代わりに鬼に喰われてしまえばよかったんだ……
4. テストに出そうな重要箇所
① え〜打ち消し
「え〜打ち消し」は「陳述の副詞」(「呼応の副詞」)である。
「陳述の副詞」とは
セットで登場し、「特別な現代語訳」をするフレーズ
である。
芥川では、「え〜打ち消し」は次のような形で登場し、「〜できない」と訳す。
・え得まじかりけるを(手に入れることができなかった女を)
・え聞かざりけり(聞くことができなかった)
陳述の副詞は、勉強していないと絶対に訳せない。そのため、超頻出である(「芥川」で「え得まじかりけるを」を訳させないテストは見たことないです)。
② 「草の上に置きたりける露を、『かれは何ぞ。』となむ男に問ひける。」から、女がどのような立場であると読み取れるか。
女は「高貴な立場」(身分が高い)と読み取れる。本文中に「女は高貴だ」とは書いていないが、「夜露を見たことがなく、宝石と勘違いする」という描写から、「身分の高い女性であり、見たことがなかったのではないか」「おそらく両思いだったにも関わらず、男との結婚を許してもらえなかったのは身分差があったせいではないか」と考えることができる。
なお、「なむ〜ける」は係り結びの関係にある(「なむ」が文中にある影響で文章の最後が連体形になっている)。
③ 「あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて」とあるが、男がこのようにしたのはなぜか。
行き先が遠く、夜も更けてきたうえ、雨や雷が激しくなってきたから。
身分が高く、最愛の女性を荒れ果てた小屋に入れることは通常あり得ない。
・目的地まで遠い
・夜遅くなってきた
・雨が激しい
・雷が激しい
この4要素から、仕方なく「押し入れた」のである。記述問題の場合、上の4つが部分点となる。本文では、「鬼ある所とも知らで」(鬼がいるところとも知らないで)が「雨や雷が激しくなった」描写よりも前にあり、やや読み取りづらいので注意。
④ 「あなや」とあるが、男が反応しなかったのはなぜか。
雷の音が激しく、女の悲鳴を聞くことができなかったから。
・なぜ(雷がうるさい)
・何に(女の悲鳴に)
・どうだった(聞くことができない)
が部分点。③と比べるとやや変化球気味だが、「本文を正しく訳し、解答としてまとめることができているか」を見る問題として出題される可能性がある。「え聞かざりけり」は「聞くことができなかった」と陳述の副詞を踏まえて訳そう。
⑤ 和歌に関する問題
何らかの形で必ず出題されるはずだ。「白玉か……」の和歌は注目すべき箇所がたくさんある。例えば以下だ。
A 「白玉」の意味
B 「人」とは誰を指すか
C 「露」の縁語は何か
D 「消えなましもの」の訳
E 和歌に込められた心情
A 「白玉」の意味
「真珠」である。辞書によっては「白玉」とそのまま訳しているものもあるが、物語前半の、女が夜露を宝石と勘違いする場面を踏まえると、「真珠」のほうが適切であると思う。授業でどのように解説されたかを思い出して答える。
B 「人」とは誰を指すか
「女」である。古文は省略が多いので、「誰が誰に何をした」を意識しながら読むこと。
C 「露」の縁語
そもそも「縁語」とは
和歌で関連の深い語を用いる表現技法
である。イメージしづらいと思うので、「似た性質をもった言葉をいくつか使って、読者に情景をイメージさせる和歌のテクニック」と考えておけばよい。援護を探す手順や規則もあるが、難解なので、頻出のものを暗記した方が早い。
この和歌では、「露」と「消え」(消ゆ)が縁語である。「露」を「かすかな衝撃で失われてしまうはかないもの」と捉えれば、自然と「消え」という言葉と結びつく。
D 「消えなましものを」の訳
「消えてしまえばよかったのになあ」と訳せる。細かい品詞分解は以下。
・「消え」
ヤ行下二段活用同士「消ゆ」の連用形
・「な」
強意の助動詞「ぬ」の未然形
・「まし」
実現不可能な願望の助動詞「まし」の終止形
・「ものを」
詠嘆の終助詞「ものを」
「ものを」まで踏まえ、「〜のになあ」までしっかり訳したい。
4要素すべてに迷う要素があり、難しい。おそらく「芥川」では最難関の箇所だろう。答えを導き出す手順は以下の画像の通り(「ものを」は暗記)。
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⑤ 出典・成立・モデル・ジャンル
・出典 伊勢物語
・成立 平安時代
・「男」のモデル 在原業平
・ジャンル 歌物語
すべて漢字で書けるようにしておく。作者は未詳。
⑥ まとめ
「高1古文における最初の難関」というイメージ。授業進度にもよるが、助動詞の学習がひと段落ついたころに読むケースが多く、用言の活用や助動詞の学習(接続、意味、識別)、頻出の古語といった基本的な事項が身についていない場合、思わぬ苦戦を強いられる。和歌も登場し、それまでの単元よりもやや長くてストーリー性が強い作品であるため、助動詞が分からない=ストーリーを正確に読めない=授業についていけないという図式が成り立ちやすい。
古文を読むための知識がだいたい出揃い、この単元あたりから「予習で訳してきたよね?」「本文をその場で品詞分解できるよね?」という風潮が強まる傾向にある。「助動詞を理解できてるけど、パッとでてこない」「ゆっくりならできるけど、テストでパニックになりそう」という人がほとんどであろう。自然と口をついて出てくるようになるくらい定着させよう。
* おまけ(現代語訳)と「芥川」のイメージ画像
赤枠内が現代語訳です。品詞分解は別記事に載せます。
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