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食品大手でイノベーティブな商品はどのように生まれるか?〜リプトン開発の事例を交えて

こんにちは、らびです。
今回はビジネスのお話。本記事は2018年に受けたビジネススクールの講座を元に作成しておりますので、少し古い内容になります。

さて、昨今はIT企業や製造業関わらず様々なイノベーションが起きています。特に、現在は「フードテック」関連のイノベーションビジネスが盛んで、食×テクノロジーのコンビネーションを駆使した革新的な事業が盛んに行われています。

上記にある、IT・バイオテクノロジー界隈出身の方は既存の概念にとらわれず、革新的なビジネスモデルや商品開発を行っており、ただただ驚嘆しております・・・

さて、今回のメインテーマは「大手食品メーカーは、どうやってイノベーションを起こしてきたの?」という内容に注目してお送りしたいと思います。あくまで過去の事例になりますが、イノベーションを起こすための「ビジネス・ランドスケープ」の作成方法やリプトンの商品開発の事例なども紹介しながら説明致しますので、ぜひ最後まで見ていただければ嬉しいです。

● イノベーションて何??

イノベーションって、日本語ではよく「技術革新」みたいに訳されますが、具体的に何の事?って思われる方もいると思います。
そこで、最もシンプルな定義の一例を下記にご紹介致します。

イノベーションとは・・・
新しいアイデアを商業化する事
 → 起業、事業の創出:トップライン型
 → 効率化、既存技術の改善:ボトムライン型

なぜイノベーションが必要か?これもシンプルに一言で言うと

世界は変容し続けるから

になります。

いくら市場シェアが高い大手企業だからといって、既存ビジネスをただやっているだけではあっという間に世間から置いていかれて、社会から必要とされなくなってしまいます。社会の変化に合わせて、私たち食品メーカーも「イノベーション」を起こさないと、淘汰されてしまいます。

● 大手食品メーカーにとってトップライン型イノベーションはハイリスクである

世界で開発される新商品の70%は3年以内に商品棚から消え去ります(日本の場合はもっと早いスパンで、サバイバル率も低いと思います・・・)。

上記理由から、大手食品メーカーがまったく新しい観点から新規事業・新規コンセプトで商品開発をする事は非常にリスクが高いです。

また、調査会社のニールセンによれば、グローバル食品メーカーのR&D(研究開発)予算の25%は、無駄な事(過去に行った研究・検証・調査など)に使われている、と明かされており、大手食品メーカーにて新規イノベーションが起こりにくい要因のひとつと考えられます(資金が潤沢故の、贅沢な悩みです・・・笑)

さらに、大手がこれまでに無い新商品を上市するとなると、相当な準備が必要です。今では世界的に認知されている「ネスプレッソ」ですら、起案から施策実行までに10年あまりを費やしており、世界一の食品メーカーであるネスレですら、イノベーティブな商品投入は非常に慎重に行います。

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また、コカコーラがエナジードリンク市場に参入したことは記憶に新しいと思います。この商品、誤解を恐れずにあえて言いますが、基本的にコーラ+機能性素材という「安パイ」の設計なんですね。

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コカ・コーラレベルになると、全く新しいエナジードリンクを開発するリスクを取らなくても、ブランド力+αで、かなり売れます。

現場開発者の方は「斬新で新しく、画期的な事に挑戦したい!」と思っている方、たくさんいると思います。が、その為には管理職・経営層を納得させるだけの「具体的な根拠と膨大な量のデータ」が必要となってくるのです・・・

これは商品開発部だけでは難しいので、マーケター、社内インフルエンサーなど様々な人の力を借りる事が必須になります。


● ビジネス展望の作成(Business Landscaping)

冒頭でも述べた通り、リスクが高いからといってイノベーションを怠っていては大企業も衰退していきます。そこで、各社「少しでもリスクを低減」しながら新事業や新商品開発を行います。その際に重要なのが、プランニングの段階で「ビジネス・ランドスケープ」をしっかりと作成する事。ランドスケープって・・・ちょっと抽象的でわからないですよね・・・

具体的に何を行うかの前に、新しいビジネスや新商品開発を取り組む前にリーダーが頭に入れる事を整理致します。

イノベーションを起こすためのビジネス戦略を練る前に、肝に銘じる事

1. R&D予算の25%が無駄な事に使われているという事実。
2. 担当者や会社が総力を尽くして調査したとしても、すべてを知る事はできない。
3. 誰が助けてくれるか?を考える(オープンイノベーション思考)
4. 誰が一番素早く達成してくれるか?を考える。
 (誰=担当者、サプライヤー、コンサルなど含む:先行者利益獲得の為)
5. 誰/何が自社製品を差別化してくれるか?
6. 誰/何が守ってくれるか?(特許などの知的財産)

この前提をしっかり考えておく事によって、プランニングの際の無駄が減り、スムーズに事が進みやすくなります

さて、肝心のランドスケープですが、プランニングの際は下記のような図を作成いたします。こちらは「パン」を例にしております。

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左が上流、右が下流になるようになっております。
左半分は自社内の情報で、原料、製造プロセス、製品特徴などを記載して情報を整理します。

対して、右半分は外部の情報(顧客)になり、流通チャネル、包装方法、ウォンツ、トレンドなど、社外の情報を整理します。

右上には該当年度の関連特許も記載します。関連特許の調査は新商品開発において必須です(開発者本人がやる事もありますし、IP・知財部門にお願いする場合もあります)。

細かい施策は省略しますが、このランドスケープを用いて、課題の発見、イノベーション創出のヒントなどを洗い出していきます。

大事なのは一つの視点から発想するのではく、複数の視点から組み合わせてアイデアを見つけ出す事。そのために、ランドスケープは非常に有用なツールとして働きます。

● Liptonのイノベーション〜紅茶でも日本茶でもないお茶、ゴリョク

最後に、実際に開発された商品を交えた説明でこの記事を終えたいと思います。

※ 念のため、私はユニリーバ社とは全くの関係がございません。本記事は、あくまで公開されている情報をベースに構成しています。

2007年に販売されたユニリーバ社のリプトン・ゴリョクは「紅茶でも日本茶でも無い新しいお茶」というコンセプトで開発されました。

簡単に商品を説明致しますと、ゴリョクはアッサミカという紅茶向きの茶葉を緑茶製法に基づく独自の製造プロセスを経て、従来の緑茶には無い風味と鮮やかなグリーンの水色を実現。さらに、アロマキャプチャー製法という摘みたてのフレッシュな香りを保持する手法も使用されている、革新的な商品となっております。さらにさらに!リプトンで現在主流の「ピラミッド型ティーバッグ」を採用したのもこのゴリョクからなんです。

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写真:日本で販売されたゴリョクのパッケージ

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写真:ピラミッド型ティーバッグ(茶葉がジャンピングしやすい)

ゴリョクの製品特性を知っていただいたところで、この製品が開発されるまでのプロセスについて簡単に説明致します。

この製品の販売・開発施策において重要な点は下記の2点。

・画期的な製造方法よりも、製品そのものの魅力をアピールする事
・技術関連は特許で徹底的に固める(他社特許の買収も辞さない)

になります。

当然ですが大企業は技術力が高い場合が多く、よく「新製法!!」みたいなアピールをする製品が多いですが、当時のユニリーバ社は「私たちはプロセスではなく、プロダクトを売っているんだ」という事を宣言。アロマキャプチャー製法、ピラミッド型ティーバッグなど画期的な製法で作られているにも関わらず、あえてプロダクトアイデア(カラダとココロのグッドバランスを!というコピー)を全面に広告するという戦略を取りました。

消費者目線で見たら「いや、そりゃそうでしょ」と思うかも知れませんが、技術ある大手企業だと「うちの製品、こんな凄い技術で作られているんです!」という事をメインにアピールしている企業も散見されます(もちろん、「技術力」はある程度購買動機にはなるかとは思います)。

続いて特許を中心とした販売戦略。
製品上市までの細かいプロセスはさすがに公開できないのですが・・・

少なくとも同製品の開発プロセスにおいて重視された点は

・必要に応じて他社の特許を獲得する事も視野に入れる
・関連分野の特許は一通り押さえる
・製品発売前から、他製品への技術展開や応用展開案を具体的に考える
・製品発売前から、競合他社がどう出るか予測する

となります。。

以上、これまでの過程を見れば、イノベーティブな商品を市場に導入するまでに、いかに大企業がリスクを低減する事に労力を割いているかを理解していただいたと思います。

大企業が新商品でイノベーションを起こすとなると、商品開発者だけではなく、役員、戦略企画部、営業部、マーケティング部、知財部、法務部、経理部など様々な部署の代表者が関わり、少しでも失敗のリスクを減らそうと努力します。

これって決して「カッコ悪い事」ではなく、抱えてる社員数、資産が桁違いですから、リスク回避・低減こそが会社や社員を守るために必要不可欠なだけなのです。

守りをしながらイノベーションを起こす・・・なかなか難しい事だとは思いますが、ベンチャーだけでなく、ぜひ既存の大手企業の底力も見せて欲しいと感じております!



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