実験用試薬を飲食してはいけない4つの理由
理系の皆さんはこんな話を聞いたことないだろうか
「実験用試薬のスクロース(砂糖)が余ったから紅茶に入れてたわ」
「ビーカーでコーヒー飲むよね」
他にも塩化ナトリウムとかオリーブオイルとかビタミンCとか食べれそうだし、食費やサプリメント代が浮きそうって思っちゃうし、なんかマッドサイエンティスト感出したくなるお年頃だよね。
でも、こういうのを見るたびに思うのです。
それやめとけと。
食品系の実験に従事しているからこそ、なおさらそう思うのです。
確かに直ちに問題のあるレベルではないけど、SNSで悪気なしにこういう発言を見るたびに心のどこからかもやっとボールが現れます。
よくある誤解として見かけるのが、試薬は純度が高いので安全性が高いというコメント。
それ自体は間違っていませんが、この主張には落とし穴があり、高純度=安全という単純化は危険です。
ということで、何が問題なのか4つにまとめてみたので、特に現役の学生の方には是非読んでいただきたい!
製法は大丈夫?
最も大きな違いは、試薬と食品(及び食品添加物)ではその物質を製造するために使って良い装置や試薬が異なっています。
食品製造時において、特定成分を原料から抽出したり精製する工程を含むことがありますが、そんな加工に使えるものは厳密に決められています。
例えば、実験ではいろんな溶媒を使って抽出するかもしれませんが、食品に用いることができるものは食品添加物として規定されているものしか使えません。精製に関しても、活性炭などちゃんと使えるものの基準があります(食品添加物のうち製造用剤と呼ばれます)。
さらに言えば、工場では一つのラインで一つの製品しか作らないわけではありません。製品ごとにラインが別だと製品の数だけ設備が必要になりますからね。
つまり、製造中にコンタミ(別の成分、例えばひとつ前に使ってた製品が混入)する危険性があります。
そんなわけないと思うじゃないですが、そんなこと起こしたくないですよ、もちろん、でも起きない保証はどこにもないし(実際に起きたのを聞いたことあります)。
その試薬はどんな製造工程を経て作られたか本当にわかって飲んでますか?食品として禁じられている(すなわち体に害のある可能性のあるもの)の残留がないと果たして言い切れるでしょうか?
規格は大丈夫?
では、仮に製法が大丈夫だったとしましょう。しかし、製法はあくまで過程です。結果大丈夫であると言う証明、つまり製品規格は問題ないのでしょうか?
食品には規格というものがあり、工場などでちゃんとしたものができているのかチェックリストのような基準があります。
もちろん味や形のようにおいしさに係る基準もありますが、それだけでなく安全性に関わる基準も存在しています。
たとえば、ヒ素や重金属(鉛、カドミウムなど)は問題ないレベルか、残留農薬は問題ないレベルか、微生物汚染はないか、などなど。
もちろん試薬にだって規格はあります。例えば砂糖だとこんなのがありました。でもそれは安全のための規格ではなく、実験をうまく遂行させるための規格です。
人のための規格がない以上、安全であるとは言い切れないのです。
保管は大丈夫?
さて、試薬が手元に届いたとします。食品添加物グレードと書いてるから大丈夫そうに思えます。
試薬なので皆さん大切に扱いますよね、決められた通りの保管をしていたら問題ないでしょう。
でもね、あなたがちゃんと保管してても、その試薬を共用している仲間もちゃんとしてると言い切れますか?
蓋を開けっぱなしで放置したり、まさか試薬を一度薬包紙に出したけど勿体無いから元に戻したとか、そんなことしてない・・・と信じたいけど正直わかりません。
純度が高いものは安全という言葉をそのまま返すと、純度がわからなくなったものは安全とは言い切れないのです。
器具は大丈夫?
もう一つ、使う器具にも注意が必要です。
例えば一番危険なのが、何をすくったのかよく分からない薬さじがきちんと洗われてなくて、よく分からない何かが混入する事例。
そもそも実験する人間としてどうかと思いますが、可能性が否定できない時点で安全神話は崩れるのです。
ビーカーでコーヒー飲もうとする人も同じ理由でダメ。ちなみに使い捨てならいいんじゃないかとファルコンチューブとかに入れると匂いがつくのでそもそもやめときましょう。
じゃあどうしたらいいの?
わかったわかった。そこまでいうなら気をつけるけど、でもどうしても私は試薬を口にしたいんだ。
そんなことは確かにあります。
塩酸と水酸化ナトリウムを混ぜたら塩っぱいとか、有機合成で甘味料作ったりとか、実験として官能評価したいことはどうしてもあります。
そんな時に気をつける事項を私なりに考えてみました
1.できるだけ食品添加物グレードを使う
2.食品専用の器具を確保しラボでルール化
3.口に含んだ後に吐きだす(飲み込まない)
4.飲み込んでしまったらSDS記載の方法で対処
これで大丈夫なはずです。多分。
多分、考えすぎだとか細かすぎだとか思われた方もいるでしょう。正直ここまで気をつけなくてもなんとかなるかもしれません。
でも、そのくらい食品企業では安全衛生は基本のキなのです。
少なくともこれくらい分かった上で行動しましょう。
これを読んだみんなは、くれぐれも理系あるある的なノリで、武勇伝語らないようにね。
食品の研究者からのお願いでした。
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