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栄養と機能性の違いを説明できますか?

私は食品企業で食品成分の機能性に関する研究をメインに行なっている訳ですが、一般の人に説明するときにいつも困ること。

「機能性って何?栄養とは違うの?」

栄養学は一応学んできているのである程度はわかってるけど、栄養の研究者とは名乗れないんだよなぁというモヤモヤをいつも抱えております。

トクホや機能性表示食品という制度もあるので、機能性研究の説明は割としやすくなってきたものの、栄養との違いが認知されているのか正直不安。

そしてその不安の最たるは、最近Twitterを見ていると栄養と機能性を混同して適当な発信をしている事例が散見されることにへの違和感。

ということで、成り立ちの歴史も踏まえて今回は栄養と機能性の違いを整理してみましょう!

食品の機能性は三種類

食品の三つの機能

食品には栄養、嗜好(美味しさ)、機能性(生体調節)の三つの機能があると教科書的にも定義されることが多いです。

栄養と嗜好はわかりやすいですよね。

では三次機能とは何か?機能性という機能って日本語が明らかに変ですが、一体どこから生まれてきたのでしょう?

三次機能は日本発祥

各論は後述するとして、この区分ができたのはそもそも1980−90年代と言われていています。

1983−85年に当時の文部省科学研究「食品機能の系統的解析と展開」ということで東大の藤巻正生先生を中心に研究が進められ、その後「食品の生体調節機能の解析」として京大の千葉英雄先生、「機能性食品の解析と分子設計」として東大の荒井先生に引き継がれました。

それらの成果は1993年にNature誌から「Japan explores the boundary between food and medicine」というタイトルで日本の機能性食品の紹介がなされ、世界で初めて食の機能性という概念が紹介される事例となりました。
この時に”functional food (機能性食品)”という単語が初めて使われたそうです。

そう、実は機能性は日本発祥の考え方!
医食同源的な考えが元々あったことも大きいのかもしれません。

一次機能としての栄養

では、違いを明確にするためにも一次機能の栄養とは何か、もう少し見ていきます。

一次機能の定義

食品の一次機能(栄養)とは、生命維持のために不可欠なエネルギー源や生体構成成分の補給に必要な食品成分(栄養素)としての機能です。

ポイントとしては、生きる上で必ず必要であること、つまりこれらが欠乏したときに生命維持が困難になる(=欠乏症がある)と言う特徴があります。

栄養成分

いわゆる「栄養素」と言われるものがこれ当たります。

三大栄養素として、糖質、脂質、タンパク質がありますし、その他ビタミン類、ミネラル(ナトリウムなどの多量ミネラルと鉄などの微量ミネラル)、食物繊維など。食事摂取基準に載ってるやつですね。(最近は三大栄養素とあまり言わないかもしれませんが)。
ややこしいのが、これらは化合物名ではなく化学的特性による総称であるということ。糖質という分類の中に、ぶどう糖や砂糖などの化合物が紐づきます。

ちなみに上記の定義に当てはまるものを考えるともう一つ忘れてはならないのが「水」です。どの程度摂取すれば良いかとい定義づけとして、水は飲料だけでなく食事由来のものも多く、特に白米を主食とする日本人は欧米とその比率が異なるなど、摂取基準の明確化はなかなか難しいようです。

栄養にまつわる研究

(専門じゃないので、間違ってたらごめんなさい)

栄養学と一口にいってもいろんな分野があって、例えば大きな学会で言えば、「臨床栄養学会」や「栄養改善学会」、「国際栄養学会議(IUNSーICN)」などがありますね。さまざまな人(病者やいろんなライフステージの人ごと)に対してきめ細やかにソリューションを提供・実践していくため、各領域において高い専門性が求められています。

日本人は比較的食が満ち足りている上にバランスも良いので、一般人は普段強く意識することはなく、病者や高齢者、子供など特定の人向けのイメージが強いです。一方世界を見渡すと栄養失調の課題や過度の肥満への課題など様々で、有名どころでいえば砂糖税が課される国もありますね。

また疫学研究として「栄養疫学」という分野も最近よく耳にするようになりました。食事摂取基準などガイドラインのベースになっているのもそのような考えかと思います。

三次機能としての機能性

それでは続いて三次機能。こちらも定義から見ていきましょう!

三次機能の定義

食品の三次機能とは、生体調節の働き(生体防御、疾病予防、保健機能など)により健康の維持増進を行う機能と一般的に呼ばれます。

うーん、ちょっとわかりにくい。しかも、疾病予防の機能は一次機能も持ち合わせているような。

例えば、「血圧上昇を抑える」とか「お腹の調子を整える」とか、この辺りの話で、つまりトクホや機能性表示食品は全てここに当たります。

機能性成分

多種多様の成分が知られており、メジャーなもので言えば以下のようなものがあります。
☑︎アミノ酸(睡眠など)、ペプチド(血圧低下など)
☑︎機能糖(血糖値上昇抑制など)
☑︎不飽和脂肪酸(DHAなど、中性脂肪低下)
☑︎ポリフェノール類(抗酸化など)
☑︎乳酸菌、ビフィズス菌(整腸)

多くは成分の分類として(例えば糖質や脂質レベル)ではなく、化合物群(パラチノース、DHA/EPAなど)として説明されます。乳酸菌なんて成分というか生物なんですが、その場合も乳酸菌ラクトバチルス◯◯属◯◯株のように特定しています。

食品の機能性成分については、Twitterで「#食の機能性」のハッシュダグで30個以上解説しているので、ぜひ!

機能性にまつわる研究

食品機能学という検索するといろんな大学の研究室が出てくるので、既に一般的な概念になっていると思われます。栄養系の学会でも実質機能性研究の報告も混ざっており、例えば栄栄養と冠する学会でも機能性研究の報告もとても多いです。

学術的にはおそらく薬理学が最も近い・・・というかそのままかもしれません。広い意味では、食品成分を増やしたり濃縮したり分析するという意味で、分析化学や発酵学などいろんなジャンルの知識が必要です。

栄養と機能性の共通点と相違点

ここから本題、私なりにこの二つの共通点と相違点を整理してみました。

共通するポイント

1.食を通じて人々の健康に寄与
健やかに生きていく上で、いずれの機能も人々に貢献しています。栄養素は当然ながら、機能性も生活習慣病予防に役立つものも知られていますし、日々の体調に関わるものであればなおさら実感しやすいものもあるでしょう。
機能性に関しては大規模な疫学がなされているものは多くはなく、エビデンスの質に疑念のあるものも多いので全面的に賛同は難しいのですが、一定の効果は得られていると思われます。

2.摂食という行為の動機付け
要するに「鶏肉は高タンパク質低脂質、トマトにはリコピンが豊富、ヨーグルトには乳酸菌、だからこれを食べよう」というように、食品を選ぶという行動における動機付けの一つとしては共通している(というかあまり区別されていない)と感じています。
これらを選んだからといって、即効果が期待できるわけでもなければ、自分にとっては意味がないかもしれません。でもこういった意識は確実に摂食行動に影響しているからこそ、そういうビジネスが良くも悪くも成り立つわけです。
ちなみに、二次機能である嗜好も同様で、一・三次連合軍vs二次機能という天秤が脳内で戦っているかもしれませんね。これ美味しいから買いたいけど、食べすぎると太っちゃうよなぁ・・・っていうあれです。

3.成分の有無だけで語ることができない
両者でニュアンスは微妙に違うのですが、その成分の有無だけで語ることは不可能ですし、摂れば摂るほど健康に良いわけではない、という事実は共通しています。
栄養については、バランスが重要であることが前提ですし、また欠乏しないことが健康に大切であることとたくさん摂るのが健康に良いということの意味合いが違うことへの理解が重要。例えばビタミンCが欠乏すると肌の健康維持に影響しますが、それはビタミンCを摂れば摂るほど肌が健康になるという意味ではないので要注意。
機能性について、特定の対象者に特定の期間だけ特定量摂取した時の機能に関するエビデンスがあるだけで、摂取量が想定より増えた時にどうなるかはわかりません。なんなら特定成分が濃縮されていることが多いので、健康被害が出ることすらあります。

いずれにせよ過ぎたるは及ばざるが如しというわけですね。

4.体の中でどうなるか、ある程度わかっている
その成分が健康に寄与するかは疫学的に(マクロに)エビデンスを取ることが大事ではありますが、それがなぜそのように効果を発揮するのか、生化学/分子生物学的に(ミクロに)そのメカニズムが大まかにはわかっています。
例えば栄養素として糖がどのように消化吸収代謝されるかなどは教科書にも載っていますし、機能性成分も例えばトクホや機能性表示食品はそのメカニズムも申請資料に載せる必要があります。
とはいえ、まだまだわからないことも多いので、研究が進められている分野でもありますね(例えば果糖の代謝などは最近論文で出てきたりしましたし)  

異なるポイント

1.生きていく上で必要か否か
栄養と機能性の明確な違いは、機能性成分はこれがなかったとしても直ちに命の危険性がなくて(=欠乏症がない)、あったとしても代替手法があります。
例えばコーヒーなどに含まれるカフェインには覚醒作用などさまざまな機能があることが知られていますが、別にカフェインの機能がなくても人間は生きていけます。

とはいえ、より良い生活(QOL)を高めていくために機能性成分が役立つことはあるので、人生に絶対必要ないと言い切るは難しいですけどね。コーヒがないと生きていけない人も多分いるでしょうし。

2.取り組む難易度
これは私の感想ですが、機能性の方が比較的容易に取り組める印象があります。

栄養は自分自身の食事摂取の状況をアセスメントした上で何が必要なのか判断しなけれなばらないですし、栄養のバランスを考えること自体が難しい。だからこそ栄養指導をする管理栄養士さんが必要ということなのでしょう。
さらに栄養は、生きていく上で不可欠→本能的に摂取したい→我慢が難しい→スイーツや〆のラーメンがやめられない、というイメージで割とコントロールが難しいという特徴もあります。

一方で機能性はシンプルで、「このペプチドは血圧に効く」というように成分(製品)と機能が一対一対応しているので、自分自身のことが大体わかっていれば判断が容易です。

この栄養と機能性の不均衡が何をもたらしているか具体的に案が得てみると、「スイーツ毎日食べ過ぎて太りそうだけど、コーヒーのポリフェノールのおかげで脂肪燃焼するから、気にしなくていいや」というように、極度な単純化が発生する危険性もあります。
栄養素にしても機能性成分にしてもそうなのですが、特定の成分だけで実際に効果があるのかというエビデンスには直結しない話なので、要注意です。

3.体への影響の大きさ
ここも私の主観ですが、体に対する影響は一次機能の方が大きいことが概して多い。前述のスイーツの件のように、体に悪い栄養の取り方に対して、機能性が免罪符になることはありません。
三次機能はあくまで一次機能が整った上での調節機能。だからこそ、トクホや機能性表示食品にかならず「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」という形で、一次機能としての栄養の重要性を説いているわけです。

最後に

というわけで、私なりに食品の一次機能(栄養)と三次機能(機能性、生体調節)の違いをまとめてみました。

だらだらとここまで書いた文章を簡潔にいうと
一次機能→生きていく上でこのバランスを取るのが必須な存在
三次機能→体を調節してサポートしてくれる存在

という感じでしょうか。

冒頭にも述べましたが、最近この二つを混同した発信をよく見かけます。例えば「甘いものがやめられない時にはカリウムを摂ろう」というようなものです(適当に今作りました)。これは栄養素(カリウム)と機能性(甘味嗜好性低下低下)とをごちゃ混ぜに論じていて、その上ミクロなメカニズムだけでマクロな有効性を語ろうとする論理の飛躍も同時に生じています。

これらの共通点と違うところをそれぞれ認識しつつ、共存しながら食と健康を考えていきたいものです。

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