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デジタルヘルスの未来をよむ4つのポイント

Twitterで実況していたように、年始に開かれたces(技術見本市)に参加してまいりました。

なぜ食品企業なのに?と思われたかもしれませんし、親戚からも同じこと言われたのですが、これは本当に行ってよかったという一言につきます。
自分の普段携わっている領域(フードテックやデジタルヘルス)はもちろん、モビリティやディスプレイなど別の分野の最先端技術から大いに学ぶことがありました。

ということで私自身の頭の整理を兼ねて、そこで得られた知見から今後のトレンドを予測し、今後勝ちうる戦略を考えてみました。

今回はデジタルヘルスの話をしますが、新しいことを始めるための観察→考察→抽象化→具体案、というプロセスも言語化していますので、デジタルヘルス以外でも新規事業、研究テーマ、新商品開発など様々な目的で役立つ内容になっているはずです!

結論


今後のトレンドは「いつのまにか生体情報が測定されており」「そのデータが誰かと繋がっていて」「自分のQOLを最大化してくれる」「実感がある」という4つのポイントを兼ね備えると強いと感じました。

それをベースに新しい事業を考えると良いかもしれません。

CESとは

ハイテク技術見本市「CES 2023」が1月5~8日、米国ラスベガスで開催された(注1)。CESはテクノロジーを切り口に、仮想現実・拡張現実、食品・アグテック、スマートホーム、デジタルヘルス、ロボティクス、自動車技術・先進モビリティーなど、多数の分野に分かれ、主催者の発表によると、世界中から3,200社以上の企業が出展した。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/01/492e7e7586177c65.html

ということで世界最大規模のテック系の展示会ですが、その中でも細かくカテゴライズされており、例えばモビリティ分野においてはモーターショー並みの規模を誇ったり、フードテックなんてカテゴリも存在しています。

その中でも今回はデジタルヘルス分野に着目してみます。

デジタルヘルスの巨人

そんなcesの中でもデジタルヘルスは400社を超える出展があり、近年のトレンドであることは疑いようがありません。

正直なところ規模も精度もピンからキリまであるのですが、特に多かったものは
・睡眠中のベッド周りから
・トイレ(尿、便)から
・スマホの基本機能(カメラ、マイク)から
何かを測るというもの。
ヘルスと一言で言ってもいろんな健康があるわけですから、いろんな分野にまたがることは当然でしょう。

しかし、これらに共通点はないのか?特に優れている展示にはなにがあるのか?

そう考えた時に、ベンチマークとしておくべきはデジタルヘルスの中でも最も大きな規模を誇っていたAbbott社です。

Abbottから学ぶ

ブースというよりもはや建造物(筆者撮影)

糖尿病関連で知らない人はいないこの会社、まずはAbbottから学べることを考えてみます。

知らない方のために説明すると、Abbott社からはフリースタイルリブレという製品(医療機器)が販売されており、これは採血(痛い)をせずに血糖値(厳密にはグルコース値)を連続的にモニタリングし、それを専用デバイスやアプリで読み込み、自身での血糖コントロールや医師への共有に役立てるというもの。

これのすごいところは、一度装着すると2週間つけっぱなしで良くて、これまで大変だった指先穿刺のペインを大きく解消していることですね。さらに、体感と大きく紐付くこと(ドカ食いしたらやばいくらい上がるとか)や医師と連携できることも素晴らしいです。
使ったことある人ならこの体験の凄さはきっとわかるはず。

糖尿病の方へのペインの解消という意味では非常に強いフリースタイルリブレ。
しかし、これが次のステージに進むには足りていないことがあります。それは、糖尿病という大きなペイン以外には刺さっておらず、その価値よりもリブレをつけるという負荷(金銭的肉体的)の方が大きいということ。

ここでAbbottはどう考えているでしょうか?

抽象化して考える(価値/負荷)

Abbottはスポーツヘルスの観点で新たな価値を求めたりリブレ3やリブレリンクという形で小型化・簡素化することでイノベーションを推し進めています。

今回のCESで初めてリブレ3を見たのですが、その小ささと薄さには正直驚きました。


また、今回はAbbott社はスポーツヘルスに関するカンファレンスも開いており、この分野に注力することが予想されます。

つまり、体の健康をモニタリングする技術は大きく分けて二つの方策しかありません。

それは負荷を下げるか価値を上げるかです。

Abbottは前者の考えで小型化や簡素化を進め、後者の考えでスポーツに着目することで糖尿病以外の付加価値をつけているといえるでしょう。

さて、抽象化できたところで、各社の取り組みをもう一度考えてみる。

トレンドを俯瞰する

1.負荷を下げる-センシング-

ここ5年から10年程度でウェアラブルという概念は今後も続くでしょうが、「負荷を下げる」と言い換えることもできるでしょう。しかし、充電したりわざわざ身につけるという負荷があるのも事実。

さらに負荷を下げることに奔走するため、タッチポイントとしてのベッド、トイレ、洗面所の鏡という日常動線の中でもセンシングを始めたとも言えます。

気づかないうちにいつの間にかデータが取られている。まるでディストピアのようですが、ウェアラブルの次の姿はこれかもしれません。

ちなみに、インプラント(体への埋め込み)という選択肢もあるかもしれませんが、侵襲性も高いためメディカルならともかくヘルスケアでは難しいかもしれません。

2.負荷を下げる-繋がり-

こうして簡単にデータを取ることが可能になったとして、次にこのデータを解析・解釈する必要があります。
データを解釈することのコストは想像以上に大きくそれの意味を理解することが難しければ、人々に使われることはなくなるでしょう。

例えば体重や体脂肪率、血糖値など既に良い悪いがある程度わかっているものは良いですが、睡眠時間であったり食事の栄養素であったり解釈が必要なものは理解を簡素化する必要があります(スコアとかね)

つまり理解するためのコスト(負荷)を下げる必要がある訳ですが、最近はその解析を行うAIが盛んな訳です。

例えば、食事の写真を解析して、足りない栄養素を可視化したりスコアにしたりというのは既にあると思います。

ただ、AIが解析してくれる以上に最強の方法が今回の展示ではたくさんありました。

それは、人と繋がることです。

取ったデータが誰かと繋がって、その人が解析をして答えを教えてくれる。遠隔医療がこの最たる例ですが、有識者とつながるパターンもあれば、横のつながり(ユーザ同士)というのもあるでしょう。
これには人間が見てくれているという安心感や見られているという義務感・連帯感などもあると思われます。

AIによる解析がメインの今ではありますが、誰かと簡単に繋がれることの価値も大きくなってくることが想定されます。デジタルだからこその人。

3.価値を上げる-ユーザ中心-

デジタルヘルスというくらいなので、健康に興味があったり体に不調を抱えている人が使うのは当然でしょう。
社会問題にもなっているのは肥満、認知症、フレイルなどですが、多様性の世の中ですし、ここがホットスポット!と断言できるものは正直ないです。

あえていうなら、ヘルスケア分野ということもあってマイナスを0にするものより0をプラスにする、つまりWell-beingやQOL向上というものがキーワドとしてはあり得るかもしれません。

何に着目すべきか?何がユーザに受け入れられるのか?

これはデザイン思考の出番ですので、ペルソナやカスタマージャーニーの設定、ペイン(苦しみ)とゲイン(喜び)の整理、ビジネスモデルキャンバスやバリュープロポジションキャンバスの可視化などなど、既にいろんなフレームワークがあるのでそれを基準に各社各人が決めていくものと思います。

サボり気味ですが、デザイン思考についてこちらに概略を書いています↓

4.価値を上げる-実感できる-

最後にポイントになるのが、健康という長期スパンで変化することの多いものをどのようにして実感しやすくするかということ。

例えば食事で言えば、カフェインと覚醒のようにすぐ体感できるものもあれば、体重のように中期的なもの、認知機能のようにもはや関係しているのか体感のないものなど様々な位相のものがあります。

人が行動を続けるには必ず正のフィードバックが必要であり、そのためには実感できるということも大きなポイントでしょう。

例えば、ゲミフィケーションで実感を擬似的に上げる方法もありますし、その方法はある程度限られているようにも思います。

4つをまとめると

結論にも書きましたが、これらをまとめるとこうなります。

今後のトレンドは「いつのまにか生体情報が測定されており」「そのデータが誰かと繋がっていて」「自分のQOLを最大化してくれる」「実感がある」という4つのポイントを兼ね備えるデジタルヘルスが今後事業として成功していくものであろうと考えられました。

言い換えると「データの取得を容易にして」「誰かが解釈してくれて」「それが自分の健康に繋がるという」「実感を与える」という感じでしょうか。

新規事業を考えるためのフレームワーク

では最後に今回のCESで得られた内容から新たなものを生み出すためのフレームワークを考えてみたいと思います。

これまでにでた4つのキーワードそれぞれに関して、何を考えなければならないかまとめてみました。


ーに続くものに一例を挙げていますが、あくまで一例です。

1.センシング
1-1.(Where)どこで取得するか
 ーベッド
 ートイレ
 ースマホ
1-2.(How)どのようにして取得するか
 ー赤外線センサー
 ー画像
1-3.(How often)どの頻度で
 ー継続的
 ー毎日
 ー毎週
 ー毎月

2.繋がり
2-1.(Who)誰と
 ー医師
 ー友人
 ー見知らぬ人
 ーA I
2-2.(How)どのように
 ーチャットで
 ーデータの送受信

3.ユーザ中心
3-1.(Who)誰の課題か
 ー年齢
 ー性別
 ー健康課題(肥満、認知症など)
3-2.(What)何の課題か
 ー睡眠
 ー肥満
 ースポーツ
3-3.(When、Where)オケージョン
 ー朝起きた時
 ー食事中
 ー寝る前
3-4.(How)解決手段、アセット
 ー食事
 ー運動
 ー睡眠
 ー薬

4.実感
4-1.(How)どうやって
 ーゲーミフィケーション
 ー実際の数値
 ー見た目
4-2.(How often)
 ー毎日
 ー毎月
 ー健康診断毎

これらの組み合わせを考えるとある意味可能性は無限大あるといえるでしょう。
まさかそんな組み合わせなんてある訳ないよな・・・というところから新しい発想は生まれるわけで、この発散方法は大切です。

どう整理するかは以前話したダブルダイヤモンドが役に立つはずなので、ぜひこれを使って考えてみてください!

ということで、最近のトレンドを考察して,次のデジタルヘルス生み出すための工夫を整理してみました。

デジタルヘルスに限らず新規事業に携わる人や研究テーマを考える人など、こう言ったスキーム(観察→抽象化→具体的な発散)は割と汎用性が高いので、ぜひお試しください!


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