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D2C マットレス業界 5 社の競合攻撃 LP の UIUX 考察・なぜ日本ではこうした他社攻撃がおきないのか

初回 はホームページの UIUX 分析、第 2 回目 は業界の分析、第 3 回目 は Casper の創業物語について調べてきた D2C マットレス業界リサーチシリーズもいよいよ最終回。

今回は、D2C マットレス各社は、展開するランディングページにおいてどのように自社の優位性を主張しているのか?大量に見られる他社への攻撃の内容は?なぜ日本ではこうした他社攻撃がおきないのか?について考察し、シリーズの最終回としました。買ったマットレスの余談オチも。

01# ランディングページ研究をしたくなったきっかけ

半年前、実際にマットレスを探してて色々と検索をしていた頃。「Casper」と検索したにも関わらず、気づかずにその競合の「 Tuft & Needle 」(以下 T&N)の広告をクリック、LP に誘導されました。

その強烈な見出し画像が以下。

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T&N はその LP で競合をけちょんけちょんにけなしており、その様子がいかにもアメリカっぽくて面白かったのがこの記事(なんならこのシリーズ全般)を書きたくなった発端でした。

02# アグレッシブな LP を展開する 3 社について

Tuft & Needle・Nectar・Leesa の 3 社はアグレッシブな LP を展開

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さて、競合ブランド名に対して LP をきちんと作り、・SEO に力を入れているのは調査対象 5 社のうち 3 つ、Tuft & Needle (1)(2)・NectarLeesa の 3 社。以降、これらの LP の詳細を 03# から見ていきます。

ちなみに、Purple 社はこうした競合攻撃 LP を所有していないようです

Purple は各ブランドを比較したブログ記事は実際に公開しているものの、競合攻撃を行うような LP は持っていなさそう。ただ、そのブログ記事一覧のシリーズタイトルは以下の通り:

"Mattress Brands Who Think They Compete with the Purple Mattress"
「Purple とタメを張れると思っているマットレスブランドの一覧」

なかなかアグレッシブ。

Casper も LP は無し。王者の余裕なのか僕のリサーチ不足なのか。

Casper 社。他社を攻撃する LP は存在しないようです。Casper 社は「We are sleep company」と常日頃から標榜しており、それを体現するかのように、自社ブログでは純粋に睡眠の質をあげるための知恵袋記事にフォーカスしています。

03# 各ブランドが主張する「ウチを選ぶべき理由」

さて、各ブランドがこうした自社ブログやランディングページで自社製品の何を「ウリ」にしているのかを見てみました:

Purple:プロダクトそのもの
実際の LP(ブログ記事) はこちら

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Purple ブランドが独自に開発したマットレスに仕込まれる網目状のレイヤー : Purple Grid 。このテクノロジーが他のマットレスよりも「いかに寝心地が良く、通気性が良いか」をブログ記事で繰り返し強調。前々編 のホームページ分析の中でも、他社が自社製品のテクノロジーについて沈黙するなか、ほぼ唯一テクノロジーの紹介をしていたブランドだったので、これをいかに差別化の主軸においているかがわかります。

Tuft & Needle:値段
実際の LP はこちら

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T&N は、他ブランドよりも二回りほど製品の価格が抑えられているので、これを全面に押し出しています。また、初期の頃から Amazon での販売の割合が高かったからか(後には Amazon の PB 開発の提携もしている模様)Amazon 上でのレビューが圧倒的に多く、これを大々的にフィーチャー。

Nectar:トライアル・保証期間
実際の LP はこちら

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Nectar 社は、他ブランドよりはざっと見て一回り、すなわち $200~$300 ほど安価なため、値段を大きくフィーチャー。また、競合と比べて頭ひとつ抜けたトライアル期間(365日)および保証期間(永久保証)を設けているので、こちらも常に競合比較の際に出るようにしているようです。

Leesa:ソーシャルグッド

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Leesa 社は、10 個のマットレスが売れる度に、慈善団体に 1 つマットレスを寄付するというソーシャルグッドを最も強く押し出しつつ、BBB (アメリカ商事改善協会)でのレーティング、BCorporation(環境・社会責任に関した民間認証バッジを審査する非営利団体)のバッジ等についても言及。

Casper : 競合比較コンテンツは見当たらず。

Casper 社は競合比較コンテンツは無し。競合との競争にリソースを割くつもりが無いのか、僕のリサーチ力が悪いのか。不思議。

04# 各ブランド LP をワイヤーフレームに落とす

さて、さすがに SEO を最適化し、莫大な広告予算を投下するページなだけはあって、各社とも LP コンテンツは豊富。正直ホームページよりも気合が入っている気がします。左からリンク先は : Tuft & Needle / Nectar / Leesa  (Purple はブログ記事のみで、Casper はLP が無かったので除外)

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これをワイヤーフレームに落とし込むと、以下のようになりました:

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以下から、各社のコンテンツの特徴を比較。該当するコンテンツを赤・緑等でハイライトして比べていきましょう:

05# 競合との値段比較を全面に押し出す各社

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T&N : マットレスの値段が競合他社の  75-50% 程度の T&N は当然これを前面に押し出しています。ページ内で繰り返し「競合他社ではなく、T&N を購入して $500 節約しよう」というメッセージングを繰り返しています。
Nectar : ほとんどの場合は競合他社より $300 程度価格が安いので、前面に表示して主張しています。
Leesa : 価格が競合他社とあまり変わらないからか、値段比較コンテンツは表示せず。現金だな~。

なお、Purple ブランドはこうした値段比較に対して自社ブログ内で

"When you’re shopping for a new car do you compare a bare-bones budget car vs a premium model from a premium car maker?"
(意訳)新車を購入するときに、最低限の予算で買える車と高級ブランドがリリースしている高級モデルカーを(そもそも)比較検討するでしょうか?

と痛烈にやりかえしていました。

06# ユーザーとメディアからの評価を取り上げる

ユーザーレビューを赤、メディアレビューを緑でハイライト。

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どのブランドも、レビューの中身そのものよりも「どれだけの数をユーザーにレビューされているか」を強く表示しています(確かに、個人的にも長文レビューは 2-3 個読むと、もう次を読む気はありませんでした)

T&N社は Amazon 上でのレビューが圧倒的に多いため、「競合よりもレビュー数が多い事」をランディングページ上部から下部にかけて繰り返し繰り替えし主張しています。

どこのブランドもメディアからの評価記事を掲載し「○○ランキングでトップ入り」等を記載。ただ、各サイト取り上げる賞がバラバラなうえに、どの賞が信用できるかなんていち消費者からだとわからないんですよね…

面白かったのが、どのブランドも「自社サイト内でどれだけのユーザーレビューがあったか」を取り上げ、競合サイトの数字と比較をしていた事でした。うがった見方をすれば CRM にどれだけ力を入れているか、もしくは「レビューしてくれたら $50 クーポン発行」といったキャンペーン等で全然変わってきそうなので、個人的には「それには実際のところどこまで意味があるのかな?」と考え込んでしまいます。

07# テクノロジーについてホーム画面では説明せず、LP でことさら取り上げる理由は?

ホームページ編ではほとんど見られなかった「マットレスがどのようにできているか・どんな素材を使っているか」を LP では各社ともしっかりと説明しています。なぜでしょうか。

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たぶんだけど)なぜホームページではテクノロジーを説明しないのか

ホームページに着陸するユーザーはそもそも該当マットレスへの興味が既に高い状態です。そのため、セール情報や配送料無料・トライアル期間・品質保証等の情報を重要な場所に配置し、「購入への最後の一押し」に最適化している説。その過程のなかで「マットレスが何でできているか・どのようなテクノロジーか」のコンテンツは不要と判断されたのかも?

または、ユーザーに対して「購入時に検討した要素」をアンケートした結果、だいたいの場合製品のテクノロジーがそこまで判断材料の上位にランクインしなかった、とかが表示していない理由かもしれません。

たぶんだけど)逆に、LPではなぜそれを説明するべきか

本記事で紹介するような LP は、そもそもユーザーが「マットレスを比較すしたい」というマインドセットを持っている状態で着陸する場合が多い。各ブランドを既に調べあげており、繰り返しキーワードを入力して検索するようなユーザーは「いろいろうるさい(例:家電マニアのようなもの)」。

そうした(僕みたいな)ユーザーに求められているコンテンツのひとつとして、プロダクトそのもののクオリティ・製造過程を表示する必要があった、というものかなぁと想像。

08# 送料無料・トライアル期間・カスタマーサービスのクオリティなどをアピール

赤でハイライトした部分が大きく分けて「送料無料」「〇〇日間返品可能」「〇〇年品質保証」等のアピールコンテンツ。緑でハイライトした部分が、「いかに顧客サービスが優れているか」をアピールしているコンテンツ。

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Nectar は競合ブランドの平均の 100 日トライアル保証に対し、365 日の保証をうたっており、かつ、競合の平均 10 年品質保証に対し、永年保証をうたっています。どちらも、Nectar が競合に対しての差別化理由のコアにおいているようで、かなり上部にコンテンツを配置しています。

なお Purple は自身のブログで「Amazon から購入した場合 Nectar のトライアル期間は 180 日間になるから気をつけて!」「10年経ったら、返品は配送料自分持ちになるからね!」などの注意喚起をしています。

ただ、各社が「顧客サービスの良さ」をこの LP で唐突に持ち出した理由が正直いまいちわかりません。「返品可能」「品質保証」を実際に行使したユーザーに対して、どこまで会社が真摯に対応してくれるかを知りたいのは顧客としては(特にアメリカなら)当然のことですが、そうするとホーム画面にそのコンテンツがほとんど無かったことが不思議ではありました。

なんでだろ。

09# こういうコンテンツを日本では各社自社でどこまでやっているのだろうか > ゼロでした

さて、ざっくりとアメリカ D2C マットレスブランド LP における競合比較コンテンツ戦争を見てみましたが、正直これによるラーニングよりも、書きながら気になったのは「日本でこうした風景は見られるのだろうか?」というポイント。いくつか調査と考察をば。

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「無印良品 ニトリ マットレス」
「日産 ホンダ 車」
「サッポロ アサヒ ビール」
「iQOS ploomtech 電子タバコ」
「資生堂 ロレアル 化粧品」

とりあえず思いついたキーワードで検索してみましたが、お国柄の違いが面白い。アメリカであったような自社競合比較ページが全く存在しません。

ビールはちょっと例が悪かったかもしれませんが(嗜好性に大きく左右される)、車のような AOV が限りなく大きいもの、電子タバコのような健康に対する影響度が気になるもの、そしてマットレスはいわずもがなで、こうした競合比較といったアグレッシブなコンテンツが日本にあっても全然良いのに、と思ったのですが、なぜ存在しないのでしょうか。

10# なぜ競合攻撃コンテンツが存在しないのか・なんとなく思い当たる理由 3 つ

1. 法律的に厳しいから?景品表示法第 5 条があるにはある

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そもそも消費者庁による比較広告のレギュレーションがあるようです。ただ、ざっと一読したところそんなにアメリカと比べて厳しいようにも思えないのだけど。

僕が見つけられないだけで、何か他の法律があるのかも?(こうした法律周りは素人なので苦手、顕著な違いがあるのであれば誰か教えてください)…

2. 日本は自社サイトのマーケティングインパクトが伝統的に低く、その他のブログや比較サイトのカルチャーが凄いのかもしれない

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アメリカでマットレスブランドを比較検索した場合、突出するのは「マットレス 100 ブランドランキング:2020 年の調査結果」というような、必ず大手メディアもしくは業界特価型レビューサイトがヒットするのに対し、

日本の場合は個人ブログの延長ばかりがヒットしているように見えます。例えば「無印良品とニトリのマットレスどっちがオススメ?比べてみました」というようなタイトルのブログ記事ばかりが多くヒットします。

なんでなんだろう。インターネットの国における盛成のスピードや時期の違いがなんとなく影響している?誰か詳しい人教えてください(丸投げ)。

3. そもそも競合比較が PR 的に逆効果で不謹慎になる文化がある

多分これ。そもそもこうした競合を名指しでディスってしまうキャンペーンは、日本の場合は「不謹慎」となり、炎上してしまう可能性の方が高そうな気がします。仮にですが、大学時代の就職活動中に

「〇〇ナビの方が〇〇ナビより良い 10 の理由」

なんてランディングページに着陸したとしたらどうでしょうか。なんとなくネガティブな印象を持ってしまうような気が。

個人的にも、アメリカ型の競合をこきおろしあうようなキャンペーンはそもそも日本のカルチャー・民族性にはあわない、というのが、こんなにも競合比較コンテンツが希少であることの根源理由なのかも、と。

11# ユーモアがあれば許される?

ただ、個人的な見解ですが、何故かファストフードや清涼飲料水業界だとこうした比較広告がたまに出ている気がします。とは言っても、米国に比べると相当マイルド。以下に思い出せるものをいくつか。

まぁ、あまりアグレッシブなものはやはり少ないです。

昔、クリスマスシーズンに、伝統的にはコカ・コーラの象徴的キャラクターであったサンタクロースが「休暇だからペプシ・コーラを飲みたい、内緒ね」とリクエストしている CM を見て爆笑した記憶があったのだけれども。

12# 余談:結局僕はどこのマットレスを買ったのか

購入の数週間前から、スキマ時間に各ブランドを調査したり、同僚に口コミを聞いてみたりしていましたが、いよいよそろそろ買わないとまずいな、というタイミングで冗談抜きで丸一日をかけ、人それぞれの好みの変数(予算・硬さ・腰のサポート・寝る際の体の向き・保温・クールダウンの度合い・マットレスの厚みなど)について検討。

ユーザーレビューをそれぞれのブランド毎に結構読み込み、マットレス比較サイトも 10 種類くらいは訪れたと思います。

あげくのはてに、平安時代~江戸時代の日本人の睡眠の形態・歴史までを調べて読み込んだ結果、購入するマットレスは Casper に決定。

が。

都合良く、近くに実際に Casper を体験できる店舗があったため、よっしゃ最後の念押し!と突撃して試した結果「えぇぇ…これは違う…期待してたもんとちがう…」と絶望。(硬めと聞いていたのですが、僕には柔らかすぎました)。

面倒臭くなった僕は、

本当はあまりにも寂れていて行く気が無かったはずの老舗マットレス専門店 Mancini's Sleep World に行き、店員のセールストークに負け、米国老舗ブランド Stearns & Foster のマットレスを購入したのでした。

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1846 年創業。

D2C全然関係ねぇし。

メキシコ人の歯が真っ白のナイスなタフガイズが
三人がかりで配達してくれました。

13# まとめ

人生でここまでマットレスについて考える期間はもう二度と無いでしょう。そして二度とやりたくない。あげくのはてに、購入したマットレスは結局 D2C ブランドですらなかったし。

さて、シリーズ記事一覧は以下の通り。

[01] D2C マットレス業界 5 社の Web UIUX を解体して各社の戦略を分析
[02] D2C マットレス業界の血みどろの戦い・その未来に不安を感じた話
[03] Casper はいかにして今の地位に登りつめたのか
[04] D2C マットレス業界 5 社の競合攻撃 LP の UIUX 考察・なぜ日本でこうした他社攻撃がおきないのか

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。どなたかの参考になっっていれば、本当に嬉しい。次回記事もご査収頂ければ幸いです。

お断り

本稿および note の全記事は個人的な解釈に基づいたもので、所属していた/している会社の意向・見解とは一切関係ありませんので、その旨ご理解いただけますと幸いです。


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