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マイクロサージャリーとは?〜リンパ浮腫〜

F.MEDの下村です。今回も手術に関連する話です。引き続き、こちらで述べるのは医師からの聞き取りや統計資料から導いた筆者の推論であったりします。ですので、詳細について知りたかったり体の不具合を感じたりした場合は必ずお近くの専門医の診察を受けてください。

さて、繰り返しになりますが、F.MEDが開発に取り組んでいる手術支援ロボットは、マイクロサージャリーという手術手技の支援を念頭にしています。マイクロサージャリーとは、直径1mm程度の極細い血管等を縫ってつなぎ合わせる手術の技術のことを指します。ここで血管「等」と記載しているのは、他にも対象となる組織があるからです。その一つが今回取り上げるリンパ管です。

乳がん、子宮がんといった婦人科がん手術の後遺症に、「リンパ浮腫」という疾患があります。これはがん手術や手術後の放射線治療によって、体内の老廃物を運搬するリンパ液の流れが滞り、むくみを生じてしまう病気です。日本国内の患者数は10万〜20万人と推計*され、がん手術の増加により患者数も増加すると考えられます。(*参考:1) 厚生労働省「平成29年(2017)患者調査の概況」, 2) 厚生労働省「全国がん登録」, 3) 北村薫、 赤澤宏平 「乳癌術後のリンパ浮腫に関する多施設実態調査と今後の課題」 脈管学 50 (2010): 715-720 )

リンパ浮腫の例

リンパ浮腫になるとむくむだけではなく、進行すると痛みやだるさを覚えたり、感染症にかかりやすくなって繰り返しの高熱に悩まされる患者さんも多くいます。また、見た目の変化から外出をためらう様になり、患者さんの心にも大きな痛みを与えることになります。

このリンパ浮腫を軽減させる方法として注目されているのが、「リンパ管静脈吻合術」という、マイクロサージャリーを使った手術です。

これは、リンパ液が流れるリンパ管をマイクロサージャリーで近くの静脈に繋ぐことによって、リンパ液の流れを回復させ、むくみを取ろうとする手術です。マッサージやストッキングと組み合わせて実施すると有効であるとされています。(*参考:Lymphaticovenular Bypass for Lymphedema Management in Breast Cancer Patients: A Prospective Study , David W. Chang, M.D. , Plast. Reconstr. Surg. 126: 752-758, 2010. )
しかしこのリンパ管静脈吻合術で求められるマイクロサージャリーの技術も難しく、「スーパーマイクロサージャリー」とも呼ばれています。なぜなら、リンパ管の直径は0.5mm程度であり、血管以上の繊細な動作が要求されるからです。そのため、ごく一部の限られた医師が実施できる非常に難しい手術であり、実施されているのは年間5,000例程度と推計されます。(*厚生労働省 第5回NDBデータより)

このような細い血管やリンパ管の吻合手術が受けられる施設は九州では数箇所しかなく、遠方から手術可能な病院を訪れる患者さんも多くいらっしゃいます。

もしマイクロサージャリーを実施できる医師が増えれば、そのような不便な思いをしなくても、より多くの患者さんがリンパ管静脈吻合術の手術が受けられると期待できます。F.MEDはロボットによる支援で実施できる医師の増加に貢献することを目標としています。