[#シロクマ文芸部]ハルコさん 風鈴と・・
子供のころ 先隣りの町にあるハルコさんちでよく過ごしていた。夏休みの思い出など生家よりハルコさんちでの思い出が多いぐらいだ。
ハルコさんは私の祖母である。
おばあちゃん子だったのね、と思われるかもしれない。しかしハルコさんと一対一で語り合ったという記憶はない。
特に孫を可愛がる、というタイプでもなかったし商売もしていて大人どおしで会話していることが多かった。その会話はまじめな話であることもあったが、たいていはきゃっきゃと声をたて、おなかが痛くなるほど陽気に笑っている人だった。
私はというと、大人の話なんかは聞いていません、といった感じで自分からは話しかけず大人しくしているタイプの子どもだった。下手に加わって自分が笑いのネタになるのも嫌だった。
ハルコさんちではいとこと遊ぶこともあったが、遊ぶといっても前の浜にいって泳いだり、山にいってアスレチックコースを回ってきたり、ホッピングやバトミントンをしてみたり。
ままごとや人形遊びは苦手であった。
外で遊んできて、ハルコさんちに入る。
すると、さっきまで一緒に遊んでいたいとことも、距離ができる。
テレビのある居間、窓にはすだれがかけてあり風鈴がつってある。
扇風機の風も風鈴には当たらない。
部屋の隅、漆喰の壁にもたれ掛かる。
漆喰の壁はヒンヤリして冷たいからだ。
しかし、風もなく退屈だ。
ふと、入ってきたハルコさんに
「ああ、暑い。ちょっとキミ、こおり頼んできて」と使いを頼まれた。
ハルコさんちの向かいには、小さな小間物屋があった。駄菓子やちょっとした食品・文具が売っていて店の横手にはテーブルと椅子があり露店のようになっている。
備え付けの洗い場の前の棚にはみつがたっぷり入った瓶、横のシンクの上には大きな金属製のかき氷機が置いてある。
ハルコさんの住む町には漁港がある。
漁船が釣り上げてきた魚をトロ箱に入れる際たくさんの氷を敷き詰める。その関係で近所に住むおばあさんにも大きく切り出した氷が手に入る。
小さな店の露店には不似合いのステンレス製の冷凍庫から大きな氷を取り出して、かき氷機の突起の上に乗せて挟み込む。
あとは手動でハンドルを回し、きめが細かくふんわりとした氷に削っていく。
器はひらひらと波うった形状のガラス製。
こぼれ落ちるぐらいたっぷりと削っていきこんもりと山になったら真ん中にあの瓶からみつを回しかける。みつは1種類、ザラメ糖を溶かしたものでみぞれよりも褐色でコクがある。
みつの重みでこおりが小さくへこむ。
器に合わせて側面だけすこし手で整えたらまた上から氷をかけていく。片手でハンドルを回しながら、もう一方の手で器の底をもち形が均等になるように器の方をまわしていく。
2度目はかき氷が小さくならないように先に手で形を整える。潰しすぎないようにそれでいてみつの重みに負けないように。
それをじっと見ているのが好きだった。
「はい、よっつね」手際よく仕上げると、木の岡持ちにいれてくれる。
「ありがとう」そう言って今度はお運びさんだ。
ハルコさんちの居間にかき氷を並べる。
こぼれないようにそっとかき氷からスプーンを抜き、そぉーっと側面からこおりをすくい取りながら食べていく。
溶けてしまわないように急いで食べるが、途中2度は必ず頭がキーンとしてあいだをあける。
こおりのまま食べ終わることができずかつてかき氷であった液体が底に残る。
チリ、チリーン
涼を感じたのか風鈴が揺れて音をたてた。
薄いガラスでできた風鈴の下の部分は、金魚鉢のようにヒラヒラしている。
かき氷の器と似ている。
口の中にほんのり残る甘味を感じながら風鈴を見上げた。
ハルコさんと
ある夏の日の思い出
はじめてシロクマ文芸部さんの企画に参加させていただきます。
よろしくお願いします。
なんのはなしですか、とはちょっと違う、かな・・・
活動報告で課長名タグつけいたします(課外活動につき回収不要です~)
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