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【FLSG】ニュースレター「Monthly Report6月号」米大統領選を前に混迷の金融市場での対応

世界の金融市場では、根強いインフレ、米中対立など世界の分断が強まるばかりで少しずつ緊張感を高めている。さらに米大統領選の行方に米国の政治リスクを懸念する声は金融市場ではまだそれほど消化されていないようにも見える。(6月1日、文責太田)

大統領選に見る米国の衰退
 今年の最大の懸念材料は、米国の大統領選だ。民主党のバイデン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領になっても米国内の分断、それが世界経済にも大きな影響を与えることは間違いない。高齢のバイデン氏が大統領になったら、任期をまっとうできなければ、だれが後を引き継ぐのだろうか。民主党は穏健派より極左の影響が強まっており、逆に共和党は極右に支配されているため、政治的な対立は激しくなることは容易に想像できる。
 もしトランプ氏が大統領に選ばれたら、すでに言われているように保護主義に傾き、関税が大幅に引き上げられる。つまり国内物価は上昇しインフレにつながることになる。

 バイデン大統領が再選されても財政拡大は続き、インフレと財政赤字拡大は避けられない。つまり、どちらが大統領になっても、大幅な財政赤字になる。インフレ圧力が強まりFRBが目標とする2%の物価上昇率まで下がるのは、難しいかもしれない。

 今回の大統領選ほど、将来の米国やドルの世界での立ち位置を決する選挙はないものと予想している。バイデン大統領の老いぼれぶりは隠せないし、犯罪者に近いトランプ氏が対抗馬ということを、この先選挙までいやというほど見せつけられることになる。特にトランプ氏の熱狂的な支持者の発言を聞いても知的な雰囲気はまるでない。こうした連中が世界を動かしていると思うと、寒気がするのは私だけではないだろう。まともな候補者不在の米国は混乱と衰退期の瀬戸際かもしれない。

そもそも、今の米国は安いコストの移民と世界中から頭がいい連中を集めて成り立っているが、大多数はトランプ支持者のような知性を感じない連中なのだ。それほどひどい候補者(筆者の独断と偏見?)、いやまともな候補者不在の米国の現状から米国は明らかに混乱の瀬戸際であり衰退期に入っていると思っている。 

ドルの基軸通貨としての寿命
歴史は大きなサイクルで動く。オランダや大英帝国などかつての覇権国は絶頂期から衰退期に入るというサイクルを繰り返してきた。今、米国は支出と債務が過剰になり財政状況は悪化している。過去の世界の歴史でも財政状況の悪化が内戦や革命をもたらしている。米国の覇権は今や風前の灯と言える。

おそらくドルは今後10年、20年後には基軸通貨ではなくなっているだろう。第2次世界大戦直後から始まったドルの基軸通貨体制は米国の衰退とともに終末期に向かって進んでいると考える。通貨の購買力が落ちるインフレ圧力やゴールド価格の上昇と言った形ですでに表れているのだ。

しかし、金融市場は10年先、20年先を見ているわけではない。せいぜい年内利下げが何回あるだろうか、その程度だ。ただ、資産運用をやっているものにとって、米大統領選で誰が大統領になるかで資産価格が大きく動くと想定され10年先、20年先を見据えておくことは重要なことだ。

重要になる中央銀行の6月の政策決定会合
 日本の国債は5月30日に1.1%に達した。2011年7月以来の水準。日銀の政策変更は待ったなしとなってきたのである。今回の会合で政策変更があれば、その政策は世界の金融市場にも影響を与える。2016年1月、当時の黒田日銀総裁がマイナス金利政策を導入して以来、利回りを追って日本から米国債などに流入していた資金は、国内金利の上昇で米国債買い付け規模を維持することは難しくなり、米国債への資金流入は減少し、米国債の利回りは上昇圧力にさらされることになる。かつての米国債の買い手であった中国は、すでに急速に米国債の持ち高を減らしている。

 6月の世界は今後の金融政策の方向を探るうえで、重要な政策決定会合を控えている。トップバッターはECB(欧州中央銀行)の理事会が6日、米FOMC(連邦公開市場委員会、金融政策を決定する会合)が11~12日、そして日銀は13~14日に予定されている。円にとって、3つの会合は重要だが、特に社会的、政治的なテーマになってきた円安にどのように対応するのか注目されえている。現時点では国債買い入れ減額という量的引き締めの過程にもかかわらず円安は止まっていない。

 歴史的に日銀が金融緩和に踏み込んできたのは円高・株安が進んでいる局面であり、それは米国が利下げ局面にあることが多かった。こうした状況は、あたかも日銀の金融政策が米金利(FRBの金融政策)を念頭に置いた通貨政策と言えるような状況であった。

 そして現在は、円高防止ではなく円安防止を念頭に置いた通貨政策が進むような構図にある。かつて、2008年かから2012年にかけて白川体制の日銀は「為替との戦い」と苦心惨憺したが、2013年以降は同様の場面を経験することなく時が経過してきた。しかし、ここにきて日銀の「為替との戦い」は再び注目されつつある。

わずか10年余りで通貨政策化の方向が180度変わったことは驚きだが、今も昔も日本経済の最大の関心事として為替動向がある。円は当然株価にも大きな影響を与えてきた。

日銀の為替との戦いは続く
 通貨安が一般物価に影響を与えるのは間違いなく、今の日本経済が通過案の渦中にあることも疑いようがない。この点を指摘すると「企業は円安で増収増益傾向にある」という声もあるが、円安による企業の好業績と家計の景況感悪化は併存する。そもそも「円安は日本経済全体にとってプラス」という日銀の黒田前総裁が連呼した事実はGDPの押し上げという一点に関しては認められるが、円安が家計部門を中心とする大多数の日本国民に忌避されている以上、円安は政治的に許容されず、また、日銀もこれと歩調を合わせることが求められる環境にあるということは知っておきたい。

仮に6月の追加利上げがなかったとしても、円安容認と受け止められた4月と同じ轍は踏まないように植田総裁は円安けん制を意図したタカ派色の強い会見を心がけるだろう。とはいえ、「会見はタカ派、運営はハト派」は通らない。6月を現状維持で乗り切っても7月の展望レポート会合ではまた投機の円売りが引き締めを催促するはずだ。

 日銀の「為替との戦い」が始まってしまったのだとすれば、今後は徐々に利上げが重ねられる可能性が高い。その後、ある程度の利上げ幅がたまってくれば、今度は政府債務の利払い増加にまつわる様々な問題点が浮き彫りになるだろう。
 その時、財政ファイナンス(国が発行した国債を中央銀行が直接引き受けること)がテーマ視されるような状況になることが、為替に限らず、債券や株も含めた円建て資産全般に懸念されるリスクシナリオである。

 最近、円安になるほど株が売られるという動きがみられているのは、「①円安→②利上げ→③株安」という連想が働いているからだ。5月30日は株安、債券安、円安のトリプル安に一時見舞われた。財政ファイナンスがテーマ視される状況では②の予想が極端に引き上げられ、円金利の急騰と政府債務の利払い不安が相互連関的に起きやすくなる。そのような状況では日本株も円も売られるだろう(要するにトリプル安が続く)。

そうした事態は可能性として高くはないと思うが、想定内にとどめリスクを分散させる運用を心掛けるべきだろう。分散にはセクター分散、株式の規模別分散、地域分散、資産別(株と債券など)分散などがある。金融政策の見通し難がこの先も続くと想定されるため分散投資が最も有効的な局面だと思われる。

「卵は一つのかごに盛るな」(イメージ)

分散投資の薦め
投資の格言に「卵は一つのかごに盛るな」という分散投資の必要性を説く言葉がある。投資資金を一つの対象に投じるのではなく、複数の対象に分散しリターンを下げずにリスクが下げられるという。分散投資の一例をあげてみる。例えば日本株に投資するとして、自分の資産運用に総合商社の株を何か持とうと考えた時に、三菱商事と伊藤忠商事のどちらを入れようかと迷ったとする。それぞれの業績や公表されている将来の展開を比べたり、あるいは、PER(株価収益率)や配当利回りなどの指標でどちらかを選ぶか、さまざまなアプローチがある。

 しかし、こうした場合の資産運用上の定石は「迷って決められないなら、両方を持っておくといい」である。両方を持つとして、それぞれの投資ウェイトをどう決めるかが、パフォーマンスを決定する重要なポイントになるのだが、大まかな考え方としては「半分ずつ持つ」でいい。

 無理やり、勇ましくどちらかに決めなくてもいいということだ。「分からないものを、無理に分かったことにして決定する」よりも「分からないものは、分からないことを前提に意思決定する」のが上策だ。根拠のない賭けは、なるべく避けるべきなのだ。人生の選択にあっても、おおよそ同じだが人生では結婚や就職のように分散しにくい選択もあるが(全く不可能ではないが)、資産運用では「分からない場合は分散する」という手が使いやすい。

 一方、「売り方」についても一言述べておきたい。「良い!」と思って買った株式が、大きく値上がりしたり、あるいは業績見通しが悪化したりで、売却したいと思う場合があるのだが、この場合に、保有している全株を「思い切りよく」一度に売ってしまうのは「悪手」である場合が多い。
 良し悪しを伴う判断には、しばしば「中間」が存在する場合がある。保有する資産の中にある銘柄が「良い株」から「悪い株」に変わる場合、いわばその中間の「普通の株」の状態を経過することが多い。それでは、この状態の銘柄をどう扱ったらいいか。

「普通の株」は、「良い株」のようにポートフォリオのリスク当たりのリターンの効率を高めるとは期待できないが、分散投資の一部としてリスク低減の役には立っている。従って、わざわざ削減しなくてもいい場合が多い。ここまで、非常に大雑把な「分散投資」の説明だったが、混迷の時代は分散投資の重要性は増していくことは必至だ。

金融・資産運用特区の実現に向けた4都市首長との意見交換

資産運用立国と運用力
5月、岸田首相は海外投資家が集まるイベントで講演し、資産運用立国の実現に向けて特区の創設の取り組みを加速するなどとしたうえで、日本への投資の拡大を呼びかけた。イベントは米国の大手投資銀行が主催し、各国の機関投資家やヘッジファンドなどおよそ140社が参加した。

 この中で岸田首相は資産運用立国の取り組みを強力に推進するとして「国際金融センターを目指し『金融・資産運用特区』の創設の取り組みを加速する。北海道、東京、大阪、福岡の主要4都市の知事や首長に集まっていただき、構想を具体化する」と述べ、6月になったら特区の具体的な内容を公表すると明らかにした。岸田首相の発言のなかに「高度な運用力を持った外国人人材」という言葉を繰り返している。ここで言う運用力とは何のことかと気になる。運用力とは「同じリスクの条件の下に、稼ぐことが出来るリターンの大きさ」で測る。こうした「運用力」に優れた外国人なら、そこそこの数がいるかもしれない。 

ビジネスとしての資金運用を考えると、顧客を惹きつけ、説得し、納得させるような種類の能力が存在する。この種の能力の持ち主は、日本の運用会社にもある程度は存在する。

 しかし、運用に関する説明やプレゼンテーションに当たって、欧米人が有利であり優れているケースがしばしばあることは、実感として認めざるを得ない。資金運用というビジネスの歴史的背景が影響しているのかも知れないが、顧客に「期待させて、対価を受け取る」運用業のビジネス・モデルを考えると、口先の「ビジネス力」も運用力に必要な力だ。「口先だけだ」と馬鹿に出来るものではない。岸田首相が提唱する「資産運用立国」が浸透していけば、個人の中でも運用力というのが話題になってくる可能性は高い。その場合、プロの運用力は主に「口先」にあることを忘れてはならない

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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