見出し画像

【FLSG】ニュースレター「Monthly Report」2024年のリスクを考えてみた

このレポートを書くにあたって、23年1月号を読み直した。
そこで書いたのは、①専門家の予想は当たらない。②その理由は発表された経済指標をもとにしており、すでに価格に織り込まれているから。③日経平均は24年から25年にかけ4万円としている。(23年12月30日 文責太田)

京都 建仁寺(双龍図より)

24年の干支は甲辰(きのえたつ)
筆者が証券界に入ったころは、新年の相場予想ではこの干支(えと)の見方を必ずひとこと付け加えていたものだ。ただし、筆者は海外投資家が相手だったので、干支のセールストークは使ったことがない。こうした「営業トーク」はいつから始まったのだろうか。戦後の取引が始まった1950年にはすでにあったという説もあるが、定かではない。
干支とは文字でわかるように、10年周期の十干(じっかん)と12年周期の十二支の組み合わせで表される。

ここであらためて、23年は干支による相場予測が当たっただろうか。23年は癸卯年(みずのとうどし)といい、「癸」は十干の順序で言えば最後にあたり、一つの物事が収まり次の物事への移行をしていく段階を指すそうだ。そして2023年の「卯年(うどし)跳ねる」で、結果的には日経平均は跳ねた。何となく当たっているような気がする。

そして、2024年の干支は甲辰(きのえ・たつ)。
甲(きのえ)は十干の1番目で「殻を破り、木の芽が吹く」を意味する。また、辰は十二支で唯一の架空の動物で「雄々しく天に上る趨勢」を意味する。株式市場にとってはこの上ない縁起が良い。ただし、辰(たつ)年の次は巳(み)年だ。これも相場では辰巳(たつみ)天井とも言うため、嫌がる相場関係者も多い。日経平均で言えば、昨年1月号で筆者が予想したように25年に4万円で天井を付けるということだろうか。

もう一度23年の市場を振り返ると、総じて非常に荒い値動きでもあった。3月のミニ銀行危機では、世界中で株価が下落して1月の上昇分が吹き飛んだ。安全資産への逃避から金価格が上昇し、欧米の国債利回りは2008年の世界金融危機以来で最大の月間下落率を記録したのだ。

その前の年の22年の投資のリターンはほとんどすべての投資家にとって最悪だった。世界の金融市場の指標となる米債券と米株価のリターンがそろってマイナスだったからだ。米債券、米株価、そろってマイナスリターンは1926年以降、1931年、1969年、そして2022年と100年の米金融市場の歴史の中でわずか3回しか発生していない。しかも、2年連続はなかったため、23年はひそかに債券か株価のどちらかはプラスのリターンが期待されていたのだ。
23年は多くの波乱に見舞われたにもかかわらず、何とかうまくいった年でもあった。

株式市場は、数十年ぶりの高金利環境や、前述したように複数の米地銀が破綻し著名銀行クレディ・スイスが救済買収されるに至った「ミニ銀行危機」を乗り越えてきた。結果として、世界の主要な国債は3~6%のリターンをもたらし、世界株の時価総額は10兆ドルも膨らんだ。
また債券市場では、ほんの数カ月前まで、米FRB(連邦準備理事会)が利上げを終えた後も、景気後退が予想される中でインフレが収まらず高金利を維持せざるを得ない状況であった。それが今ではインフレが鎮静化の様子を見せ、市場では利下げ開始が視野に入っている。
 結局、23年のNYダウは12月に史上最高値を更新、23年の世界の株式市場は、日経平均の28.24%上昇、NYダウ13.70%、ナスダック43.42%上昇で終えた。

2024年のリスク
不確実性が高まる時代に、相場の動きを正確に予想するのは不可能に近い。したがって、今年は未知のリスクに備える努力を怠ってはならない。そこで4つのリスクを考えてみた。

金融引き締めや地政学リスクなどに揺れた2023年だったが、想定される最初のリスクは、米国株式市場を席捲した「壮大な7社(マグニフィセント セブン)」だ。7社とは、エヌビディア(AI半導体)、メタ、テスラ、アマゾン、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アップルなどの7社のことだ。この7社の時価総額は12兆ドル(約1700兆円)と、2023年の1年間で7割増え、これが米株高をけん引したといっても過言ではない。

ちなみに、世界の上場企業2万2千社の時価総額の合計が107兆ドル。マグニフィセント セブンは、実に世界企業のわずか0.03%の7社で1割強の時価総額を占めていることになる。つまり、米国の代表的な株価指数であるS&P500は分散されておらず、かなり偏った株価指数になっていることが最初のリスクだ。極端に特定の銘柄に集中した結果、過熱感などの理由で変調を来せば、世界で最も存在感の大きい株価指数が世界の市場を揺るがすことになり、大きなリスクを抱えていることがわかる。

この7社に資金が集中しているということは、かなり市場はバブっているのではないか。バブルが膨らむ理由はバブルとなっている市場に資金が流入しすぎるからだ。そして、バブルはわずかな変調でしぼむのが常だ。

2024年は世界的な「選挙イヤー」 各国で大型選挙が目白押し

2024年の世界は選挙の年
次に、2024年は米国、ロシアで大統領選が実施されるなど、世界的な「選挙の年」となる。選挙結果次第では世界の「分断」が一層進む可能性もあり、世界経済への影響は避けられない。スケジュールは下記の通り。
・ 台湾総統選挙(1月13日) 
・ インドネシア大統領選(2月14日)
・ 米大統領選のスーパーチューズデー(3月5日)
・ ロシア大統領選挙(3月17日) 
・ 韓国総選挙(4月10日) 
・ インド総選挙(春)
・ 欧州議会選挙(6月6~9日)
・ 東京都知事選挙(7月)
・ 自民党総裁選(9月)
・ 米大統領選挙(11月5日)
 
米大統領選は高齢化がキーワード
最大の注目は米大統領選(11月5日)だ。再選を目指している現職のバイデン米大統領(81)に、野党共和党の候補者として有力視されているトランプ前大統領(77)が臨む展開が想定されている。現職のトランプ氏にバイデン氏が臨んだ前回選挙と同じ構図になる可能性がある。
一方で、有力な「第三の候補」が浮上する可能性もあり、現時点で選挙戦の展開を先読みするのは難しいが、バイデン、トランプ両氏が候補者になれば高齢化がキーワードになりそうだ。バイデン氏は23年11月に81歳になり現役大統領として最高齢記録を更新したが、健康不安説もくすぶる。仮に当選して2期目を務め、任期満了を迎えれば86歳だ。
 トランプ氏も日本でいえばすでに後期高齢者だ。もし24年の大統領選で当選すれば、25年1月の大統領就任式時点では78歳7カ月で、バイデン氏が21年に就任した時点の年齢をわずかに上回る。

トランプ氏再選は世界経済に大きなリスク
世論調査では、バイデン氏の人気は低調、トランプ氏優位が続いているようだ。もし、その予想通りの結果となったら、トランプ氏の内向きの政策が一段と進みそうで、バイデン大横領の政策は相次いで転換されることになる。トランプ氏の一つ一つの政策を見ていると、露骨な自国優先と同盟軽視が見えてくる。トランプ氏が大統領に再選されれば、市場関係者だけでなく、間違いなく世界は身構え、米国市場から徐々にではあるが退出者が出てくるだろう。

米中対立の最前線で、先端半導体の一大供給源にもなっている台湾も総統選(1月13日)を迎える。選挙戦は、与党・民進党の頼清徳(らいせいとく)副総統、最大野党・国民党の侯友宜(こうゆうぎ)新北市長、第3政党・台湾民衆党の柯文哲(かぶんてつ)前台北市長による三つどもえの構図だ。台湾統一への意欲を隠さない中国の習近平国家主席に対し、蔡英文総統は「台湾は台湾人のもの」として距離をとり、日本、米国との関係を強化してきた。現政権の路線が継承されるかが焦点。

上記の選挙とロシアの選挙を加えた24年の世界の選挙を見ていくと、民主主義の火が弱くなり、消えかかるかもしれないという危惧が生まれてくるリスクがある。これが第2のリスクだ。

米利下げに期待過剰気味の現状にリスク
12月19日にNYダウは史上最高値を更新した。その背景にあるのは、24年早々に米利下げを予想する楽観的な見方だ。米10年国債利回りは10月23日に5.02%と16年ぶりの水準まで上昇したが、わずか2カ月後には3.79%まで低下した。同時に株式市場の動きを見ていくと、市場は米経済の景気後退ではなく、軟着陸(ソフトランディング)を視野に入れているようだ。

しかし、コロナ禍で発生した米国の過剰貯蓄は枯渇しつつある。逆に金利高による不動産向けの融資に延滞が目立ち始めてきた。米FRBは利下げに転じても量的引き締めは続ける方向で、マネーのひっ迫もそろそろ目立ち始めるだろう。

選挙で人気取りの政策をやりすぎると歳出増につながり、そのツケは大きい。世界的な低金利の時代は終わり、経済や市場、そして政策に、新たな均衡点を探るという道筋が用意されており、トップは難しい選択を迫られる将来が待っている。

欧米の投資家、エコノミスト、ビジネスリーダー、そして消費者は共通の期待を抱いている。それは利下げの開始だ。ほとんどの主要先進国の中央銀行は12月、22年以降の積極的な利上げを事実上封印する金融政策決定会合を開催した。唯一の例外である日本銀行はマイナス金利政策の解除を見送った。

主要中銀が利上げを見送ったのは23年にインフレが後退したためだ。FRB(米連邦準備理事会)、ECB(欧州中央銀行)、イングランド銀行(英中銀)、カナダ中銀、日銀など主要国が共有するインフレ目標値2%の平均3.7倍のインフレ率でスタートした後、物価上昇ペースは目標値の1.5倍まで低下した。

そして、そのリスクとは、中央銀は早過ぎる勝利宣言を嫌い、最大限の選択肢を維持するため、前のめりな金融市場をけん制。高水準の金利を長期維持する、必要ならば追加利上げするとの意向を示している。つまり、必ず利下げが実行される保証はないのだ。もし、インフレが収まり切れなかったとき、利上げとなったら株式市場は総崩れになることは目に見えている。中央銀行の政策変更にあまり楽観的になり、インフレリスクを過小評価しているのも気にかかる。これが3番目のリスク。
 
安倍派の機能停止でアベノミクス終焉=日銀のフリーハンド
日本を大きく揺るがした戦後最大の政治スキャンダルは、1976年に起き、田中角栄元首相が受託収賄罪などで有罪判決を受けたロッキード事件だ。そして今、長期政権を維持している自民党を裏金疑惑が直撃している。裏金に関与し、将来の首相候補と目される多数の議員を巻き込んだこの疑惑は、日本の政治システム全体を根底から覆す可能性がある。

何人もの有力議員が政治資金パーティの収支報告を正しく行わなかったという疑いで、検察はすでに自民党の2つの有力派閥の事務所を捜索。刑事告訴や逮捕もありそうだ。
遅かれ早かれ、この事件で岸田文雄首相は終わりを迎えるだろう。それ以上に安倍派は機能停止状態が続くことは避けられない。今回のパーティ収入キックバック問題で自民党政治状況は変わる。2024年は自民党政治の転換点にあるかもしれない。

その最大の変化は日銀がフリーハンドを得たことだろう。安倍派がにらみを利かしている間は、「アベノミクスに繋がる政策はやめます」とは言えなかっただろう。非伝統的な金融政策を変えるには盤石な証拠がないとできなかった。日銀は先を見越した判断はできなかったのだ。安倍派の機能不全で日銀は他の国の中央銀行同様に、先を見越した判断ができることになった。

それはリスクではないのでは、と言われるかもしれないが、マイナス金利の解除など、市場が思っているより早期に実行されれば、局地的にかつ短期的に日本の金融市場にとっては第4のリスクになるに違いない。いずれにせよ、24年後半には日銀は政策の正常化に向かうのではないだろうか。その時がアベノミクスの終焉ということになる。

こうしたリスクを超えて、2024年の日本経済は約30年間のデフレ経済から脱却する可能性のある、大きな経済波動のスタート段階にいる。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。


■■■ 公式LINE ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/23771

■■■ Instagram ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/33771

■■■ TikTok ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/43771

■■■
X(旧Twitter) ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/63771