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哲学対話「旅」の開催レポート

毎月第4土曜日にオンライン哲学対話を実施しています。4月23日(土)に開催した際の様子をレポートします。

哲学対話の概要

哲学対話とは「普段はあらためて考えない疑問」、「すぐには答えが見つからなそうな疑問」について、みんなで語りあって思考を深めていく場です。一人ひとりが自分の経験や考えを、自分のことばで表現することを大切にします。それをお互いに聴き、問いかけ合いながらともに考える場です。

哲学対話は、近年いろいろな所で行われています。当日集まった参加者から出してもらう問いについて対話をする場合もあれば、主催者が事前にテーマや問いを決めて実施する場合もあります。

我々の場合は大きなテーマだけを事前に決めておき、当日そのテーマに関連して問いを出し合って、選ばれた問いで対話をするというやり方で行っています。

過去のテーマはこれまで「対話」、「時間」、「夢」、「言葉」、「弱さ」、「笑い」、「つながり」、「学ぶ」、「遊び」、「信じる」、「読む」、「書く」、「聴く」、「楽しさ」、「無駄」、「不安」、「記憶」、「努力」、「考える」、「協調」、「変化」、「労働」、「プレゼント」、「味わう」、「ハマる」、「共感」など。

27回目となる今回のテーマは「旅」で、参加者は8名でした。

※以下、当日出た意見を、個人が特定されない範囲で紹介します。個人の具体的な体験などは省略した他、進行役の解釈・編集が入っていますのでご了承ください。

チェックイン

音声確認の意味も含め、①ニックネーム、②今の気分、を一人ずつ話していただきました。いつもはテーマに関することを軽く話していただくようにしているのですが、今回「旅」に関連することを話そうとすると長くなって本編に突入してしまうのではないかと思い、ノーマルなチェックインで始めました。

前半(フリートーク)

前半は、「旅」というテーマに関して思うことを出し合いました。以前は最初に問いを立てる時間をとっていましたが、最近はテーマについて思うことを自由に話してから問いを立て、後半にその問いについて話すというやり方で進めています。今回は、下記のような観点が出されました。

・旅行には物理的な移動という面もあるけれど、変化や普段と違うものを求める精神的な面もある。
・帰るところがあるから旅と言えるのではないか。帰らないという前提の旅はあるのか?
・旅には大きく3種類の目的がある。1)癒し、充電などのバケーション、2)学ぶ、見分を広げる、3)自分探し これは旅に「行く」というより旅に「出る」感じ。帰ってこない旅もあると思う。
・旅にはどこかへ行くだけでなく、違うものごとに出会って自分がその変化にどう対応するのかを見つめる意味もある。
・旅は体験やイベントに近い。美術館や野球の試合を見に行くついでにその場所で食事をしたり観光名所を見たりする。その体験の前と後では自分が何かしら変わっている。
・旅は目的というよりは手段ではないか。友達と旅をしたとき、誰と行くかが大事だという話になった。振り返ってみると旅はもっと仲良くなりたいという目的のための手段になっていた。
・「人生は旅」というメタファーもあれば、「街角のタバコ屋までの旅」という作家や写真家もいる。いったい旅のなかには何が含まれているのか?
・「街角のタバコ屋までの旅」というのは、見なれた風景であってもそこに変化を見出すことができる感性があれば旅になりうるということではないか。
・フリーランスになったとき、毎朝通勤で通っていた道にいろいろな発見があった。それまで急いでいて気づけなかった。日常見過ごしているものを見つけるのも旅モード。旅とは非日常を求めることで、非日常には不確定要素がある。
・物理的な移動を伴わないバーチャルな、たとえばGoogleアースなんかで見てまわるのは旅と言えるのか?
・感性の面で変化を求める欲求を満たす行為は旅と呼んでいいのでは?
・旅には目的地に行くときの気持ちの動きがある。

問い出し

前半のフリートークを受けて、3分程、各自で問いを考える時間を取りました。以下のような問いが出されました。

・(旅を旅たらしめる)不確定要素とはなにか? 
・旅が好きな人と嫌いな人の特徴は? 
・旅することで、したい体験や、味わいたい感情の動きはどんなものですか? 
・旅が"手段"だとしたら、何のための手段なのか?それとも、旅そのものが目的なのか? 
・自分の意識でなく、他人から見て「旅」であると規定できる要素は何か?(①帰る所がある、②移動する等々)
・人生が旅であるという比喩は妥当か?

選ばれたのは「旅が"手段"だとしたら、何のための手段なのか?それとも、旅そのものが目的なのか?」という問い。ここでいったん休憩をはさみ、休憩中に問いを眺めて思いをめぐらせていただきました。

後半(対話)

選ばれた問いを入り口に対話をスタートしました。

・友人と旅に行ったとき、もともとは旅を目的としていた。思い通りにならないことがいろいろ起こり、そこで「誰と行くかが大事だ」という話になった。旅に行った結果、後から振り返ってみて誰と行くかが目的だったと思った。

・目的というのは、いつの時点の目的なのか?出発の時点、旅の途中、返ってきた後で変化するんじゃないか。当初のねらいと旅の実際の状況は違うだろうし、後で気づくこともある。

・旅=非日常で、その非日常の中に身をおくことで新たな目的が見つかることがある。会議のための出張などは移動がともなうけれど、日常の頭でいるから旅ではない。

・何のために旅をするのかというと、非日常に出会う、新たなものを発見する、自分を見つめる、体験するなどの目的のために旅をする。手段として旅をする。旅をしたいから旅をするということではない。

・バックパッカーとして3か月旅に出たときは、目的はなくとりあえず行ってみようという感じだった。だけどその旅が一番心に残っている。社会人になってからの旅は綿密に不確定要素がないように準備をしている。バックパックはいきあたりばったりだけど、自分を見つめることになった。だから旅そのものは目的になりうるのではないか。ただ、目的と手段というのは明確に分けられるものではなく意外とあいまい。旅のどこかのタイミングでより大きな意味が目的になると、旅は手段に変わる。

・「人生は旅」だとしたら、人生は手段だということ?だとしたら人生はなんの手段なのか?人生は目的と手段の連鎖のなかで最上位にくるものののような気がする。旅が最上位になることはあるのか?

・出発の前に準備が必要なものが旅。非日常を求めて行うもの。探さないでくださいといってただいなくなるのは放浪。

・非日常というのは、環境としての非日常性と感性としての非日常性がある。

・自分のなかで何らかの目的を達成するための手段が旅だとして、なぜ人はいくつかの手段のなかから旅を選ぶのか?他の手段ではその目的は満たせないのか?手段として旅が特異な点はなにか?

・以前親に旅行をプレゼントした。そのときは感謝を表したいという目的があって、手段として大きめのプレゼントをしたいと考えて、それでいくつかの手段のなかから旅行を選んだ。金額的にちょうどいい大きさのプレゼントだった。

・旅の特異な点として、非日常は記憶に残る。この点において旅に勝るものはないんじゃないか。また、誰かと旅行に行くと何日も一緒にいることでコミットメントが求められる。関係を深めたい場合、より親密さを得られると言えるのでは。

・たとえばどうしてもピラミッドをみたいと思ったらそこに行くしかない。知的好奇心を満たすという意味がある。

・旅の定義として、レジャーというよりバックパッカーとか大きなことというイメージがある。移住をするのは旅っぽくない。

・非日常に関して、感情のマックスを超えると非日常。近くの映画館でぼろ泣きするのも旅。感情をふりきることで、自分を取り戻す感覚。

・歩きながら自分を見つめようと四国遍路に行ったことがある。歩くことは家の近くでもできるし、非日常モードを求めるとしても四国まで行かなくてもできる。なぜわざわざ時間とお金を使って遠いところにいくんだろう?

・遠いところにいくのは切り換えるため。自分の感性を非日常に持っていくために、他の人、場所の助けを借りるのが旅。

・よくいく佐渡島は独特の空気がある。肌感覚が違う。日常では味わえない。

・不確定要素が旅の1つの要素だとして、それの何が人を惹きつけるのか?

・危険、予想できないことがあると、もちろん怖いけどワクワクもある。

・竜巻が起こりそうな天気の中で川のそばを散歩したとき、ワクワクはしたけれど旅という感じではなかった。旅というともう少しロマンがあって、外国のイメージと自分の体験が関連付けられるという感じ。ニュージーランドの山のイメージがあって、そこに自分が来たんだという感じ。

・場所の力は旅に絡んでくる。普段行けないところだからこそ、そこにロマンを感じる。だけどそこに住んでいる人にとってはそれが日常。

・旅は人に語りたくなる。語れるのが旅。

・江戸時代は旅をするのは一生に一回。そのときにしか味わえないものを得られるのが旅。

2時間の対話を終えて

全体としては「それが旅であると言える要素はなにか?」「旅を旅たらしめているものはなにか?」というところに焦点があたって進んでいたような印象です。キーワードとして、「非日常」「不確定要素」「変化」「感性」「目的と手段」「場所の力」「肌感覚」「身体性」などが出てきました。

哲学対話終了後、少人数で延長戦を行いました。「なぜ人は何らかの目的のために非日常を求めるのか?」と考えたとき、「自分を知っている人がいない環境だからこそ、本来の自分が出せる」という意見に、なるほどと思いました。それだけ人は日常の文脈や関係性にがんじがらめになり、自分を見失っているのかもしれません。また「人生は旅」という比喩を好む人は「探求し続ける」ことが好きな人なのではないかという意見も。何かを積み重ねることが好きな人にとっては「人生は建築物」かもしれません。
まだまだ深めていきたいテーマでした。

5月の開催予定

■5/7(土)10:00~12:00
オンライン哲学対話:テーマ「後悔」

■5/7(土)14:00~16:00
対話の基本① "聴く"トレーニング

■5月21日(土)10:00~12:00
対話の基本② "問いかける"トレーニング

■5月21日(土)10:00~12:00
みみ哲#6 「7つ道具de哲学対話」

■5月28日(土)10:00~12:00
オンライン哲学対話:テーマ「役に立つ」


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