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「がん哲学外来」という、医療の隙間を埋める場

土曜の午後と日曜の午前は、「がん哲学外来コーディネーター養成講座」に参加した。もちろんこの時期なのでオンラインで、だ。

「がん哲学外来」とは、順天堂大学の病理・腫瘍学教授、樋野興夫先生が始めた「医療の隙間を埋める」ための取り組みだ。

がん患者の苦悩や気掛かりに耳を傾け、共感することで、患者の忘れかけていた自尊心を蘇らせる。

生きることの根源的な意味を考えようとする患者と、がんの発生と成長に哲学的な意味を見出そうとする人との対話の場である。

というように、開催の手引きには書かれている。がん哲学外来・メディカルカフェ、という名称で全国で実施されており、その趣旨に賛同している医療従事者の方も多い。

メディカルカフェを主催する認定コーディネーターになるためには、講座を3回受講することが条件になる。つまり最低でも3年かかる。また開催にあたって認定を得るための申請が必要で、営利を目的にしてはならないなども規定されている。

日本では、2000年代後半から、「カフェ」と名のつく対話の場づくりが大きく広がっていった。私が2009年にワールドカフェに関する活動を始めたときにも、「哲学カフェ」、「メディカルカフェ」が全国に広がり始めていたので、その存在は知っていた。

「哲学カフェ」は数年前に体験をし、いくつかの主催団体の養成講座を受け、それから自分でも場づくりを実践してきた。が、「メディカルカフェ」は自分とは関係がないと思い、対象から外してしまっていた。

だが昨年、自分ががん患者になったことで、当事者として参加することになったのである。ちなみに、メディカルカフェは特にがん患者に限ったものではない。がん患者の家族や友人、医療関係者、支援職に従事している人の他、人生についてしっかり考えてみたいという人も参加している。

5月、6月と実際のメディカルカフェ(オンライン)に参加してみたが、メディカルカフェならではの特徴が感じられた。

ワールドカフェや哲学カフェとの一番大きな違いは(比較する必要はないのだが、比較した方が自分がわかりやすいので)、個人の語りをそこにいる全員がしっかり傾聴するということだ。1人の語りは結構長い。当たり前だが、1人ひとりそれまでの人生がある。病気の苦悩、病気以外の苦悩など、普段は聴いてもらえる場がないから語らないだけで、1人の人間のなかに語ることは山のように詰まっている。それを皆でうんうんと傾聴する。このただ聴いてもらえるということの持つ力は、あなどれない。落ち込んでいたり、揺らいでいた心が、聴いてもらえることによって少しずつ回復していく。他の方の表情を見ていてもそれが伝わってくる。

さらに、語り手の語りがふと止まったとき、コーディネーターの人がさりげなく言葉を返す。そこには「ことばの処方箋」とでもいうような、その人自身の存在から湧き出る知恵が込められている。

具体的な内容はここには書けないので興味のある方はぜひ参加してみてほしい。この時期、オンラインで開催されているところも多いので、住んでいる地域に関係なく参加できるだろう。


最後に、昨日の講座の中で紹介された「傾聴のメッセージ」という詩を紹介したい。

10年以上前に産業カウンセラーの資格を取得した際に傾聴を学んで以来意識してきたことや、患者になったことで感じることなどが書かれているなあと思ったので。


「傾聴のメッセージ」

私が「聴いて」と言っているのに、
あなたはアレコレとアドバイスをくれる。
それは、私が頼んだことじゃない。

私が「聴いて」と言っているのに、
あなたが理由をあげて
「だから、そういうふうに考えちゃいけないのよ」と
お説教を始める。

私の気持ちは踏みにじられる。

私は「聴いて」と言っているのに、
あなたは、どうにかして私の問題を解決してやろうとする。

ちょっと変に聞こえるかもしれないけれど、それは私を裏切ること。

「聴いて!」
私は「何か話して」とか「何とかして」と頼んだわけじゃない。
ただ「聴いて」、ただ「耳を傾けて」と言っただけ。

私だってできる。力がないわけじゃない。

意気消沈して打ちのめされているかもしれないけど、力がまったくないわけじゃない。
私ができることや自分でしなければならないことなのに、
私の代わりにやってやろうとすることは、私の不安や無力感を大きくするだけ。

私には、私が感じていることもあるのだから、
それがどんなに変に聞こえても、それをそのまま受け入れて。
そしたら、私はあなたを説き伏せることをすぐやめて、
私は自分の変な気持ちの裏にあるものを、
あなたに説明する作業にとりかかるから。

お祈りの効果があるのも、このため。
神様は無言。
アドバイスしたり
「問題を解決してやろう」なんて乗り出さない。
話を聴いているだけ。
自分で解決するのを見守るだけ。

だからお願い、私の話を聴いて。
私の話に耳を傾けて。

(出典:サンフランシスコ市精神障害者インディペンデンス・リソースセンター)

※公認心理師のなかがわひろかさんのブログより転載させていただきました。


一般社団法人がん哲学外来のサイト


樋野先生の本はこちら



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