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一人二人羽織生活も悪くない。


 ダンゴムシのように丸まって
 泣いてしまったのは きっと

 助けてと叫びたくても
 それすらできないから

 もういやだと逃げたくても
 たった数歩で膝からくずおれる
 十秒貞子の出来上がり

 当たり前なことなんて
 結局他人が決めたこと


 止まらない全身のふるえ
 握りしめた拳 キツく瞑った目蓋
 どれも自分の意思では制御できない

 勝手に強ばる 勝手に動く
 涙だけが私の唯一の意思表示
 

 好き嫌いなんて何一つないのに
 食べることが大好きだったのに
 食べられないものが増えていく
 

 食べるってこんなにも
 難しいことだったっけ


 何とか口元に運んでも
 頑固な口はひらかない

 麺類もうまく啜れない
 ゼリー飲料もうまく吸えない

 何とか口に入れても どれだけ噛んでも
 飲み込みたいのになかなか飲み込めない


 こぼしたくないのに
 手からするんと滑り落ちるコップ

 逆さまにひっくり返しそうになるお椀
 残したくないのに掬えない最後の一匙

 平気なフリして笑っていても
 こんな身体がつらくないわけじゃない
 本当はいつもくやしくてたまらない


 思いはあるのに
 喋ろうと意識すると喉が詰まって
 声を発することすらできず

 ようやく出た言葉はプツプツと途切れ
 AIロボットよりも流暢に喋れない

 湯船に浸かれば
 毎回のように白目を剥く

 黒目は操り人形のように
 引っ張られて上部に退場

 
 洗顔中に目を閉じたら
 自分の意思では開かなくなって

 手探りで着替えて
 指で目蓋をこじ開けて

 壁を伝いながら自室に
 辿り着いたこともあった


 唯一のプライベート空間なのに
 それすらも誰かの手を借りないと
 いけなくなるのかな

 いくら朦朧としていても
 意識がある分 抵抗もある

 見られる恥ずかしさよりも
 自分のことくらい自分でやりたい

 ただそれだけなのに
 それすらも奪われてしまうのかな

 危うく溺れかけたこともあるけど
 言えば言うほど心配をかけるから


 本当のことなんか絶対に言えない

 だからどうしてもつらい時は
 シャワーを流している間だけ
 こっそり泣くって決めたんだ

 嗚咽を水音でかき消して
 くやしさ 歯がゆさ
 むなしさ やりきれなさも全部
 排水口に流してしまえばいいから

 もしかしたら真っ赤なお鼻が
 役に立つこともあるかもしれないから
 

 これ以上監視されたら
 あまりの息苦しさに
 心まで潰れてしまいそうだよ


 その息すらも まともには吸えず
 息苦しさでヒューヒューと喉が鳴る

 息を吐ききったら
 自然と空気を吸い込める
 なんて言うけれど

 それでも吸えないものは
 吸えないんだ 本当に

 深呼吸すると
 激しいけいれんを呼び覚ます


 パルスオキシメータで測っても
 ウェアラブルウォッチを常に身につけ
 血圧や心拍をこまめに測っても
 どこにも何にも異常は見られない
 
 
 なのにこんなに息苦しいのはなぜ?

 ちょっと背中をさすられる程度でも
 マッサージされたら脱力でへたりこむ


 無意識の意識に悩まされる日々
 なんて厄介な身体なんだろう

 眠りたいけれど眠りが浅過ぎると
 症状を誘発することもある

 何とか眠れても
 寝返りをうつこともできないほどの
 上下肢の痛みで目が覚めることもある

 最近では移乗する時や
 脱力で立っていられなくなると

 母にズボンのウエスト部分を
 掴まれるようになった

 首根っこを咥えて移動させられる
 子猫ってこんな気分なのかな
 ってちょっと笑っちゃったよ


 ヘルパーさんにドライヤーで
 わしゃわしゃと髪を乾かされていると
 犬みたいだなって思ったっけ
 

 生きるって 今を生きてるって
 これっぽっちも簡単なことじゃない

 病気や障害がなくても
 誰もが生きづらさを感じる
 この世の中


 苦しいのはきっと私だけじゃない
 苦しみは誰かと比べられるものでもない


 だからこそ私は思うんだ

 生きてるだけで
 みんな立派なんだって

 今ここに存在しているだけでも
 すごいことなんだって

 そんな綺麗事を
 いくら並べ立てられても

 今を生きていること自体が
 苦しい人もいるだろうから

 そういう思いを
 悪いことだと決めつける必要も
 誰かが否定する権利もないとも思っている

 むしろ それでも
 1分1秒と命をつないでいるのなら

 それだけでもう十分がんばってるんだよ
 って褒めてあげてもいいと思うんだ

 他の人より誰かの手を借りないと
 生きていけないことも多い私だけれど

 誰にも弱みを見せられず
 何でも一人で抱え込んで
 自分の力だけで乗り越えようとしてきた

 そんな私の性格を誰よりもよく知る
 身体からのSOSサインが症状として
 表れているんだろうなと思うこともある

 そうまでして必死で訴える健気な身体を
 大切にしてあげられなくてごめんねって

 泣きながら謝りたくなるほど
 申し訳なさを感じることもあるけれど

 そうまでして私を守ろうとしてくれて
 ありがとうって気持ちもちゃんとある

 不器用すぎる私を
 一番よく理解しているのは
 やっぱり自分自身なんだね
 

 だからこそ私は

 もう少しだけ もう少しだけ
 自分自身にも優しくなりたい

 一人二人羽織ひとりににんばおり生活だと思えば
 なんとなく心強く感じるから


 きっと私は
 心と身体の二人ににん分の力を使って
 なんとか今を生きているんだ

 だから苦しくても悲しくても
 私はちっとも寂しくないよ


 もしかしたら生きるって
 人生一回こっきりの
 チャレンジなのかな


 悩むこともある一休さんより



 このタイミングでこういった内容を更新してもよいものか悩んだのですが、今の私じゃないと書けないことをそのまま、お届けすることにしました。

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