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2分小説 『雪化粧に染まるまで』 #シロクマ文芸部


 雪化粧に染まる季節。平凡な毎日も、降り積もっては溶ける雪のように時は移り変わりゆく。

「あ、白髪みっけ!」


床に胡座をかき、ゲームに夢中になっている恋人をソファに座って観察していたら、黒い頭頂部に一本だけ色素の抜けた毛を発見した。一度気がつくと、そこだけ光って見えるから不思議だ。


「マジ? どこ?」

手元は忙しなく動いているのに、反応が返ってくるのが思いの外早くて、彼の意識のうちの二割くらいはちゃんと私にも向けられているようで、なんだかうれしい。


「ここ」

まあるい旋毛つむじの少し下にぴょこんと生えている、白というより透明に近い毛を人差し指でつつく。

「見えねぇよ、そんなとこ」
「じゃ抜いてもいーい?」
「まあ、いいけど……」

相変わらず画面に釘付けのままで、ちっとも目は合わないけれど、本人の同意は得られたので遠慮なく引っこ抜く。

「った!」

ぷつりと根元から毛を抜くと、彼は頭部を手で押さえて痛がった。

大袈裟だなあもう、と半ば呆れながら手の中にある毛を見て、今度は私がうろたえる。

「あ、」
「な、なに?」
「ごめん、しくった」
「はあ?」
「まだ生きてる毛、抜いちった……」

しかも結構な本数。
草抜き感覚でやっちゃった。
うっかりうっかり。


「おまえなあ……!」
「ごめんごめんご!」
「ごめんで済んだら警察いらんわ!」

警察も痴話喧嘩にゃ介入しないと思うけど。


「ほら、若白髪は幸せになるっていうしさ!今回は大目に見てよ」
「よかないわ!その前にハゲたらどうしてくれんだよ!」
「ハゲでもデブでも、そのままの柊叶しゅうとが私は好きだよ」
「デブは関係ないだろ!」

そう言って怒ったように立ち上がると柊叶しゅうとは私から距離を取って座り直す。

その時、ちらっと見えた画面の中ではさっきまで軽やかに走っていたハンターが、えらく鈍足になっていた。彼の動揺がそのままゲームに反映されていて面白い。


「あーあ、早くロマンスグレーになったしゅうちゃんが見たいなあ」
「……おまえ絶対確信犯だろ?」


はて、なんのことやら?


(20161103 改編)


 セルフリメイク作品です。私もこの作品を書いた頃より、白髪がチラ見えし始めましたが、ヘアカラーの匂いが苦手なのと座っていられる時間に制限があるため、カラーリンスで乗り切ろうかと!

 基本的にアンチアンチエイジング派として衰えを受け入れていくスタイル! というと、かっこいいけれど、実際のところはただ単に面倒なだけだったりします🙈<抗うのって、結構疲れるやん?)

でも、その根底には鴨長明の『方丈記』の冒頭の文がとても好きというのもある鴨長明🦆いろんな現代訳があり、それだけでも感じ方が変わるかもしれないのでご興味のある方はご自身で検索してみて下さいな💁

ただなんて言ったらいいのか自分でもわからないけれど、永遠に同じ姿形は維持できないとしても、その人の中身は“三つ子の魂百まで”だとも思っていて、そういういいところはきっと後世にも受け継がれていくんじゃないかなとも思っています。

 相変わらずロマンスが薄れるほどあとがきが長すぎてごめんなさい🙏💦

(代わりにこちらのロマンスもどうぞ~>🙋



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