私小説 『月の耳』 #シロクマ文芸部
「月の耳さん、今夜もお話聞いてくれる?」
窓辺に肘をつき、薄い雲に隠れかけている月に向かって問いかける。もちろん返事はないけど、私は気にせず話を続ける。
「あのね今日、初めて電動車椅子でスーパーに行ったの」
今夜は風の流れが緩やかなのか、月はなかなか全ての顔を見せてくれない。
「車椅子に乗って買い物すると視線が低くなるでしょ? だから今までだったら気づかなかった下の方の陳列が見えるようになって、珍しい商品が発見できたんだよ」
雲の隙間から月の目がじっと私を見据える