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『対人関係療法でなおす社交不安障害』を読んだ

 水島広子著『対人関係療法でなおす社交不安障害』という本を読みました。

 今まではこの病気の本をあまり読んできませんでした。前の医師から社交不安の症状があることを否定されてきたからです。しかし転院して社交不安の症状があることを認めてもらい、カウンセリングもやめたので、改めて自分からこの症状に向き合ってみようと思い購入。

 以下に雑感をつらつら書いてみようと思います。書評ではなく個人の感想なのであしからず。


考え方の特徴

 まず読んでよかったこととして、社交不安障害の人の心の動きや考え方の特徴が詳細に記されていることが挙げられます。以前読んだ本は症状についての記述はありましたが、考え方の特徴までは書かれていなかったり、個人のエッセイ本のようなものであまり私にはあてはまらなかったりしたので、これは明確に「この本を読んでよかった」と思いました。

(1)よく知らない人たちを前にした状況や行為に対する著しく持続的な恐怖がある。自分が恥をかかされたり、恥ずかしい思いをしたりするような形で行動する(あるいは不安反応を呈す)ことを恐れる。
(中略)
(1)が社交不安障害の中心となる基準ですが、その核となるのは、恥ずかしい思いをすることや、自分が「弱い」「どこかおかしい」人間であることに他人が気づくのではないか、ということです。患者さんの多くは、「本当の自分」を知ったら、他人はきっと自分のことを嫌いになるだろうと思っています。

p.23

 「本当の自分を知ったら他人は自分のことを嫌いになる」これは本当にその通りで、これがこの病気の特性なのだと知ったのは目からうろこでした。私だけが異常なのだとずっと思ってきたので。

 ほかにも、

どうしても避けられない状況は耐え忍ぶことになりますが、その際には、強い恐怖と「自分はだめだ」という無能感を感じ続けることになります。「やってみたらあんがい大丈夫だった」とすっきりするわけではないのです。

p.40

 これも納得しました。たとえば就職の面接もそうで、内定が決まったときも「よくやった」とか「私は成長したかも」と思えなかったんですよね。「面接だけであんなに緊張して、これから私は働けるのかな」という気持ちのほうが強かったです。友人と旅行に行った際も、現地での店員さんやガイドさんとの交流で強い緊張感を覚え、帰ってきても「楽しかった」よりも「疲れた」という気持ちのほうが大きかったです。そういうことは本当によくあります。「できた、もう大丈夫」ではなく「できなかった、次はもうしたくない」となってしまうんです。

 ほかにも患者の特徴やバイアスが丁寧に記されていて、ひとつひとつ心当たりがありすぎて苦しくもなりましたが、「これは病気のせいなんだ」と思えたのは大きな安心感でした。


病気と人格の区別

 全編通して「社交不安障害は病気であり、なおるもの」「人格ではない」ということが強調されており、希望が持てました。これは以前読んだ本でも書かれていたのですが、より強調されていたように感じます。

 また、この本を母に読んでもらったところ「今まで『みんな床みたいに人に対して緊張してるよ』って言ってきたけど、それってよくなかったんやね」と理解を示してくれたのが一番ほっとしました。以前のnoteでも書きましたが、「みんなそうだよ」と言われることがとても苦痛だったので。

 一度「みんなそうだよって言うのやめて」と言ったことがあるのですが、そのときはまったく聞き入れてもらえなかったので専門家の言葉というのはやっぱり重みがあるんだなと思うとともに、私の言うことには全然信ぴょう性がないんだなとも思って少し落ちこみました。

 (ずっと以前、身内の医者が「今の薬はそんなに危なくないよ」と言ったのをまったく信じなかったのに、医者でも何でもない友人が同じことを言ったらころっと信じた例もあるので専門家かどうかは関係なくて単純に身内の言葉ってぜんぜん届かないんだろうな……とも思います)


対人関係療法とは

 認知行動療法はよく聞くけれど対人関係療法は初めて聞きました(初めて聞いたのによく考えずに本を買った)。これは「考え方」に焦点を当てる認知行動療法に対して、今ある対人関係に焦点を当てる治療法だそうです。うまくいっていない対人関係を軌道に乗せることで「意外と大丈夫」と思える状況を作り出し、不安を減らしていく。そのために、具体的な症例を交えながら周りの人とどのようなコミュニケーションを取っていくべきかがこの本には書かれています。

 対人関係療法は面接の中で話し合ったこと、練習したことを面接の外で実践していく療法で、当然のことですが、面接しただけ、本を読んだだけでたちどころに病気がよくなるわけではありません。

 たとえば、「自分だけのせいだけではないということを認識する」という章では、以下のような記述があります。

社交不安障害の治療において重要なポイントは、対人関係上の不一致が自分だけのせいでないいうことを理解してもらうことです。何でも他人のせいにする人も問題ですが、社交不安障害の場合の問題は、何でも自分のせいにすることです

p.130

 これ、読んだときはなるほどと思ったんです。私も心当たりはあったので今度からは気をつけようと思ったのですが、その数日後、過去の職場でのことを母と話している中で自分がまさに「なんでも自分のせいにする」という思考に落ち込んでいることに気づきました。

 読むと簡単なように思えるのですが、やはり実生活に落とし込んでいくのはかなり難しそうだなと思います。ただ一度読んだことで、「気づく」ことができる土壌が自分の中に生まれたのは感じました。


怒りの感情を適切に表す

 私は十年ほど前から怒りという心の機能がすこんと欠落してしまって、何に対しても怒れずにいたのですが、それもよくないのだと書いてありました。怒りで人を攻撃することと怒りの感情を覚えることはまったくの別で、怒ること自体は人間として必要な行為である。その通りだとは思いますが、何しろ十年怒らずにやって来たのでなかなか難しそうです。

 またそのひとつ前の章では、「いい人でいることをやめる」「常に前向きであることをやめる」というようなことが書かれており、これも難しいなと思いました。

 前述したように私はなんでも「自分のせい」と思ってしまいがちで、そのため人に対して怒ったり、愚痴を言ったり、悪口を言ったり、そういったことがほとんどできなくなっています。また、単純に悪口を聞くのも苦手で、それが原因で前の職場にいるのがつらくなったという面は大いにありました。悪口を聞くとまったく関係のないことでも自分が責められているように感じてしまうんです。

 もっと愚痴や悪口というものをフラットな感情で受け流せるようになるといいなとは思うのですが、これはどうすればいいのかまだわからないので今後医師にも相談してみようと思います。


 ほかにも読んでよかったところや参考になった記述はいろいろあるのですが、あまり書きすぎてもよくないのでこのあたりで。読んでよかったな~と思います。今まで心理学系の本をほとんど読んでこなかったのですがしばらく図書館なんかで本を漁ってみようかな。


引用
水島広子『対人関係療法でなおす社交不安障害』2010年、創元社。

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