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『歌え!ロレッタ愛のために』 カントリーミュージックの女王 ロレッタ・リンの生涯

ロレッタ・リンが90歳の大往生を遂げた。
カントリー・ミュージックの女王と呼ばれ、16曲もの全米ナンバーワン・ヒットを飛ばしたアメリカの伝説的な存在の歌手である。

私はカントリー・ミュージックにはあまり詳しくないのだが、ロレッタ・リンのことは知っている。
それはロレッタ・リンの伝記映画があるからだ。
1980年公開の『歌え!ロレッタ愛のために』という。

この記事を書いている2022年10月5日現在、『歌え!ロレッタ愛のために』はAmazonプライムビデオで無料で視聴できる。
カントリー・ミュージックについてそれほど興味のない人でも、この映画は観る価値がある。だからもしAmazonプライムビデオに加入していれば、ぜひ一度ご覧になってほしい。
そう思ったことが、この記事を書く理由だ。

現在Amazonプライムビデオでは10,000本以上の映画が視聴できるのだが、その中でいざどの映画を観ようか、となるとなかなか決められないものだ。
この記事が、その膨大なリストの中に埋もれている良質な映画を探し出す手助けになれば、と思う。

『歌え!ロレッタ愛のために』


「彼女は結婚指輪を望んだ。しかし、彼はギターを贈った。それから二人の新しい人生が始まった」

ケンタッキー州、田舎の炭鉱町で7人の兄妹とともに生まれ育ったロレッタは、15歳のとき軍隊帰りの青年ドゥーと恋に落ちて結婚し、遠くワシントン州に移り住み、三人の子を産んだ。
金を稼ぎ、子どもを育てるという貧しく慌ただしい生活の中で、二人には結婚の時に結婚指輪を買う余裕さえなかった。
数年が経ち、生活が落ち着いた中で結婚記念日に夫ドゥーが妻に買ってきたのは、結婚指輪ではなく一本のギターだった。

いつも家族の団欒の中でロレッタが子供たちに聴かせる歌声を、ギターを手にすることによってもっと大勢の人びとに聴かせてみたい。それがドゥーの願いだった。
それだけドゥーは、ロレッタの歌声に惚れ込んでいた。

ドゥーの導きによってやがて地元のライブバーで活動するようになったロレッタは、自分の歌が誰にでも通用するのだということに気づいて次第に自信をつけ、歌手としてやっていく見通しを開いていく。

夫のドゥーもマネージャーとしてロレッタをサポートし、ライブハウスやラジオ局にロレッタを売りこんでいく。
はじめは小さな会場、小さなヒットだったが、地道な活動が実を結んでロレッタの歌声はアメリカ全土に知れ渡るようにまでなる。
カントリー歌手の先達であるパッツィ・クラインとのつながりも生まれ、次第に大規模なコンサートを開催し、全米ナンバーワンヒットを飛ばすまでになるが、大所帯になったツアースタッフにはドゥーの居場所はなくなり、次第に夫婦の間に距離が生まれていく。
それでも、観客の前で歌うことの歓びに目覚めたロレッタは歩みを止めることなく、ついにカントリー界の頂点に立つ。
しかしそこには苦難も待っていた。

ビッグ・スターとしてのプレッシャー、疲れによって神経をすり減らし、一度はふつうの主婦に戻りたいとさえ思うようになるが、ドゥーの支えによってしばしの休養を経て、ロレッタはカントリー・ミュージックのシーンに復帰する。
映画のストーリーはざっとこんなところだ。

『歌え!ロレッタ愛のために』というのは邦題で、英語の原題は Coal Miner’s Daughter という。つまりは炭鉱夫の娘。ロレッタ・リンの出自を表している。
同名の曲がロレッタ・リンにはあり、故郷への思いと、貧しいながらも愛情をもって自分を育ててくれた父への思いが歌われている。
父テッドは、娘の歌手としての成功を見ることなく亡くなった。


さらに詳しい映画の内容については、すでに良質の記事があったので、そちらを参照していただければと思う。


シシー・スペイセクとトミー・リー・ジョーンズ

ロレッタ・リンを演じたのは、シシー・スペイセク。
シシー・スペイセクといえば、スティーブン・キング原作のホラー映画『キャリー』(1976)の主人公キャリー・ホワイトを演じたことで有名だ。
いじめられっ子だったキャリーが、パーティーの壇上で晒し者にされたことから内面にあった怒りが爆発し、サイコキネシス・パイロキネシスによって会場に閉じ込めたクラスメイトや教師たちを惨殺する。
内気なキャリーが怒りに震えて覚醒するシーンは、身の毛がよだつ恐ろしさだ。
しかしそれとともに、映像は美しい。

この時にスペイセクはアカデミー主演女優賞にノミネートされて注目を集めたが、彼女はそれ以来計6度も主演女優賞にノミネートされた名優なのである。
そしてその中で見事アカデミー主演女優賞に輝いたのが、この『歌え!ロレッタ愛のために』だった。

少女時代から中年に至るまでのロレッタを一人で演じきった彼女の演技が素晴らしいのは言うまでもないが、主演女優賞受賞の大きなポイントとなったのは、スペイセクが吹き替えを全く使うことなく、彼女自身の声でロレッタ・リンの楽曲を歌い切ったことだ。
そのため、この映画のサウンドトラックは、ほぼそのままシシー・スペイセクのロレッタ・リン歌唱集になっている。
この出来が、すごく良い。
映画を観たあとは、これを聴いて余韻に浸るのも楽しみかたのひとつだ。

夫ドゥーを演じるのはトミー・リー・ジョーンズ。『逃亡者』(1994)や『メン・インブラック』(1997)でブレイクを果たすまでは悪役や性格俳優としての役回りが多かったトミー・リー・ジョーンズだが、本作ではロレッタを支える夫としての繊細な役柄を見事に演じ切っている。


助演では、ロレッタの父をザ・バンドのドラマー、リヴォン・ヘルムが演じている。彼はミュージシャンだけでなく俳優もこなした。本作でも娘ロレッタに愛情を注ぐ厳格な父を演じた。

おわりに

繰り返すが、この作品はAmazonプライムビデオで視聴することができる。
日本での知名度はさほどない映画だが、カントリー・ミュージックがどれだけ大事にされているのか、アメリカの核心に触れるための一助として、ぜひ一度観ることを薦めたい。

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