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「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 6. 審 問

『第5話 浦島太郎の苦悩 5. 責められる乙姫』からつづく

 むかし、むかし、あるところの日本の沖合1キロの海中で50名近いクローン・キャストたちが竜宮城のセット解体に黙々と取り組んでいた。全員がキャラクターへの変身を解き元のクローン人間に戻っている。
 乙姫も変身を解き仲間と小道具の回収に働いていたが、誰ひとり乙姫に声をかける者はいないし、乙姫も沈黙を守っていた。

 そのころ、タローはラムネ星の「日本昔話再生機構」の審問室で窮屈なイスにかけ金属製のテーブルに向かっていた。『浦島太郎』の不成立判定の直後に白砂の浜辺から緊急回収され、ここに連れてこられたのだ。
 金属製の分厚い扉が開き、プロジェクト管理部長が男性の記録係を連れて入って来た。記録係が部屋の隅のデスクにつき、部長がタローの前に座った。

「よりによって、『浦島太郎』のラストで変身しなかったとは。君の不作為で5000万ラムネ―ドの巨費を投じた『浦島太郎』再生が水の泡だ。なぜ、こんな重大なサボタージュをしたのだ」
――サボタージュ? 自分がしたことは、この人に言わせると、そういうことになるのか……
 浜辺で、タローの頭には自分がしていることの意味など、まったく浮かばなかった。玉手箱から白い煙が出ないのを見て、タローの身体が動きを止めた。それだけだった。

「答えないのか」
部長がテーブルを叩いた。
――そんなに怒られても、自分だって、なぜああなったのか分からない。
タローはぼんやりと考えていた。
「答えないなら、いい。お前はクローン・キャストから除籍してラムネリウム鉱山送りだ。言っておくが、向こうではサボタージュしたら、その場で射殺だ」
ラムネリウム鉱山、サボタージュ、射殺……部長の口から出たどの言葉も、タローの頭の中では意味を伴わない「音」として響くだけだった。

『第5話 浦島太郎の苦悩 7. 部長対決』につづく