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中国現法はマーケティングができない ー第2章ー

*これまでのお話は『中国現法はマーケティングができない ー中国赴任編ー』『中国現法はマーケティングができない』をお読みください。

前期決算は赤字となった中国現法。一方で中国国内販売はなんとか開始されました。そんな中国現法に若手の駐在員が派遣されることになったようです。

〜日本本社にて〜

海外統括部長「人事発令だ。君には青島に赴任してもらおうと思う。君は中国語ができるんだったな?日本と中国ではビジネスの環境も違うと思うが、しっかり勉強してきてほしい。」
若手駐在員「ありがとうございます。わかりました。がんばります!」

〜工場にて〜

若手駐在員「今日からこの工場でお世話になることになりました。よろしくお願いします!」
日本人社長「大変なこともあるだろうけどこれからよろしくね。」
若手駐在員「ここでは私にどのようなことが期待されているんでしょうか?」
日本人社長「トレーニーではなく正式赴任で来ているので、会社に対してしっかりと付加価値を提供してほしい。中国語はできるんだよね?今現法の課題となっている中国国内市場の拡大を李部長と頑張ってもらいたい。今年から中国国内市場開拓の営業を更に強化するために、3ヶ月前に総務部からも一人営業に異動させたから、営業部3人体制で頑張ってほしい。もちろん、本社とのやりとりや資料作成でも私のサポートをお願いしたい。」
若手駐在員「わかりました!がんばります!」

〜工場・営業部デスクにて〜

若手駐在員「やっと念願の駐在だ。なんでもどんどん吸収して早く会社の役に立つようになりたいな。社長は営業をやれって言ってたな。営業は日本でもやってきたから経験を活かしてがんばるぞ。あ、李部長だ。李部長、今日からよろしくお願いします。」
営業部李部長「ああ、新しい子ね。よろしく。」
若手駐在員「早速ですが、今の国内営業はどんな状況でしょうか?私は何からやればいいですか?」
営業部李部長「どんな状況?まあ、そんなに気を張らなくてもいいよ。私が中心でやるから。」
若手駐在員「そうですか、できることがあれば言ってください!…じゃあまずは過去の営業履歴から確認するか、、、ん?営業履歴が残ってない?…すみません、李部長、過去の営業履歴はどこにあるんでしょうか?」
営業部李部長「ん?営業履歴?そんなのないよ。やることは私が指示するからそれまでは何もしなくていいから。」
営業課孫主任「李部長、新人さんは私が指導しますので任せてください。よろしくね、新人さん。」
若手駐在員「あ、孫主任、わかりました。よろしくお願いします。」

〜夜、日本料理屋にて〜

日本人社長「お疲れ様。少しは慣れた?」
若手駐在員「そうですね。なんとなくは。ただ、李部長があまりタスクを振ってくれないのと、李部長、孫主任が今何をしてるのかイマイチわからなくて…。」
日本人社長「そうなのか。まあ、営業のことはこれまで李部長に任せてきたから、李部長とうまくやってくれ。」
若手駐在員「わかりました。でも駐在員の立場ってなかなか難しいですね。」
日本人社長「そうだね。基本的に現地社員の何倍もの給料をもらってるわけだから、その分の価値をしっかり出さないとね。営業課の孫主任とは歳は同じくらいかな?」
若手駐在員「そうですね。孫主任のほうが2歳、私より年上です。」
日本人社長「そうか。まあ職位は君のほうが上なわけだし、孫主任と同じことやってるようじゃだめだから、しっかり頼むね。大学では経営学部だったんだっけ?」
若手駐在員「そうですね、専攻は経営戦略だったんですが、一応会計とか組織論なんかも一通りは勉強しました。」
日本人社長「そうか。私は会計なんて全然やってこなかったのに今は会計のことばかりで大変だよ。なんかあったら質問するかもしれないけどよろしくね。」
若手駐在員「わかりました。なんでもお申し付けください!」

〜週末、若手駐在員自宅にて〜

若手駐在員「まだなかなか仕事がやりづらいなあ。どうやって営業していいかもわからないし、李部長も全然教えてくれないし、孫主任が教えてくれるって、営業歴3ヶ月だよな?とはいえ年上だしやりづらいな…。とりあえず日本人コミュニティにでも顔出していろいろ情報収集してみるか。日本人はこの『すまいる青島』ってのをみんな読んでるのか?いろんな集まりがありそうだから、適当に出てみるか。」

〜工場・営業部デスクにて〜

若手駐在員「まずはとりあえず営業に行かなきゃだけど、李部長が何も教えてくれないからとりあえず日本人会の名簿でも見て顧客になりそうな企業でも探すか…。あー日本でこんなネットサーフィンみたいなことしてたら先輩に引っ叩かれただろうな。お、なんかこの会社いけそうじゃん?…ていうか、隣の人事課、誰も仕事してなくないか?みんなネットサーフィンしてるし、たまに話してるのも子供が勉強しないとか旦那の帰りが遅いとか、全然仕事に関係ない話じゃん。そもそもこんな規模の会社に人事課なんて必要なのか?赴任の手配してくれた人は仕事が忙しいって言ってたけど全然暇そうじゃん。まあそんなこと言ってもしかたないか。とりあえず可能性ありそうな会社をリストアップして、と…あの、孫さん、こんな会社って営業しに行ったことあります?」
営業部孫主任「んー日系企業?李部長は日本語が話せないし、これまで特に行ったことはないと思うよ。日本人だから、そういうところにセールスしに行くのはいいかもしれないね。」
若手駐在員「そうですね、ちょっと連絡取れそうか確認して、アプローチしてみます。(『私も一緒に行くよ』とかないのかな…まあ、言ってもしかたないか。)」

〜週末、サッカー同好会後の日本料理屋にて〜

若手駐在員「先日赴任してきたばかりですので、これからよろしくお願いします!」
他社駐在員「あー日本人社長さんのところの!よろしくね。」
若手駐在員「あ、うちの社長と知り合いなんですか?」
他社駐在員「そうなんですよ。日本人会の集まりでもよくお会いしますよ。」
若手駐在員「そうだったんですね!いや、今度ぜひ御社にお邪魔してお仕事のお話がしたいと思っていたところでして…」
他社駐在員「ぜひぜひ、いつでもお越しください。お茶くらいしか出せないですが!」

〜工場・営業部デスクにて〜

若手駐在員「孫さん、今度日系企業のお客さんのところに営業しにいくので、一緒にきてくれない?」
営業部孫主任「なんでですか?日系企業ですし一人で行けばいいんじゃないですか?」
若手駐在員「そうは言っても一回目は日本人同士だからって話聞いてもらえるかもしれないけど、二回目以降は中国人同士で話を進めたほうがいいと思うんだけど。」
営業部孫主任「別にそんなことないと思います。若手駐在員さんは中国語も話せますし、私は忙しいので一人で行ってきてください。」
若手駐在員「そうか、わかったよ。」

〜A社にて、他社駐在員との面談〜

若手駐在員「お世話になります。本日はよろしくお願いします。」
他社駐在員「こちらこそ。あれ、今日は一人ですか?」
若手駐在員「そうですね、中国人の営業担当がもう一人いるんですがちょっと別件がありまして。」
他社駐在員「なんだ、調子がいいんだね。」
若手駐在員「そんなことないです。貧乏暇なしです。」
他社駐在員「貧乏暇なしなんて久しぶりに聞いたね笑 それで、今日はなんだっけ?」
若手駐在員「はい、弊社で扱っている商品なんですが…」

〜工場・営業部デスクにて〜

若手駐在員「なんとか話聞いてもらったけど、購買はあの人の担当じゃないし、次の打つ手がないなあ…。」
営業部孫主任「この間の営業訪問どうでしたか?」
若手駐在員「話は聞いてもらったけど、その後がなかなか…。」
営業部孫主任「若手駐在員さんはやさしいからね。中国ではもっとガツガツいかないと。」
若手駐在員「そうなんですね…(孫さんが一緒に行ってくれたらまた違ったアプローチができたのになあ…)」

〜工場にて〜

日本人社長「駐在員が一人増えたけど、人件費は全額現法で払わなきゃいけないから、普通にコスト増だよな。そもそも人件費が多いのに…まあ頑張ってもらうしかないか。でもなんでこんなに人件費が多いんだろう?もう少し細かい数字もしっかり見たいけど、全然そんな時間もないし…、そうか、力試しがてら、若手駐在員にでも見させてみるか。おーい、若手駐在員、営業ももちろんやってほしいんだけど、会社経営の勉強もかねて、この会社の問題点を分析してみてくれないか?たぶん、人件費が多いことが問題だと思うから、人件費の削減策についてもあわせて考えてほしいんだけど。」
若手駐在員「わかりました。時間を見つけて分析してみます。…あ、他社駐在員さんからの電話だ…え、社長がお話を聞いてくださるんですか?ありがとうございます!すぐに資料を準備して伺います!(ガチャッ)…社長、今度A社の社長あてに商品を提案しにいくことになりましたので、一緒に来ていただけますでしょうか?」

〜A社にて、A社社長との面談〜

A社社長「いやあ、今日はありがとうございました。ちょうど困っていたところにいい製品をご紹介いただき大変感謝しています。」
日本人社長「いやあ、とんでもございません。こちらこそ他社駐在員さんには赴任当初からお世話になっていたにも関わらず、これまでご案内できておらず申し訳ございませんでした。」
A社社長「では、この話はこの方針で決まりということで、細かいことはナショナルスタッフ同士で話を進めてもらいましょう。」

〜本社財務部との会議にて〜

日本人社長「先日、中国国内販売2社目が内定しました。上場企業A社の子会社ですので与信は問題ありません。しかしA社も支払は3か月後だとのことで、今後ますます資金繰りが逼迫してくる可能性があります。こちらの銀行の支店長と話したところでは、本社から借りる方法もあると聞きましたが、可能でしょうか?」
本社財務部「そうですか。以前より申し上げていますが本社としては資金支援はできませんので、必要であれば現地での調達をお願いします。」
日本人社長「そうですか…。わかりました。」

〜銀行にて〜

日本人社長「…そんなわけで、今後資金が必要になってくる可能性がありますので、ご相談にうかがいました。」
銀行支店長「ご相談ありがとうございます。ご商売が順調なようで何よりですね。ただ、ご本社の方針もあるかとは思いますが、今必要な金額を考えると、本社から借りたほうが合理的かと思います。こちらで借りるとなると、決算書の提出や借入の都度、借入に関する資料の提出や財務状況のモニタリングなどが発生しますし、金利も高いです。御社のご本社であれば1%を下回る金利で調達できるかと思いますので、日本のご本社と再度ご相談されたほうがよろしいかと存じます。」
日本人社長「そうですか…。今回、2度目の相談をしたのですが、なかなか首を縦に振ってくれず…。4〜5%の金利であれば、なんとか採算が合いそうなので、是非お願いしたいのですが。」
銀行支店長「そうですね、わかりました。そうなると最終的には金利と審査次第ですね。御社は確かにこれまでずっと黒字を継続されてきて自己資本も厚いですが、前期赤字となっていますよね。これはどういった要因でしょうか?」
日本人社長「それが、これまで受注は日本本社のみだったのですが、人件費がどんどん上がってきていて、コスト上昇を吸収できなくなってきている状況でして…。」
銀行支店長「本社との価格交渉はされたのでしょうか?」
日本人社長「本社にもかけ合いましたが、こちらも『受注量や単価の調整は応じられない。中国でじゅうぶん長く事業をしているんだから、採算が合わなくなった分は現法で中国市場を開拓してなんとかしろ』と言われてしまい、それで今回なんとか2社目の販売が開始されようとしている状況です。」
銀行支店長「そういうことですね。ご事情は了解しました。我々も採算は本社から厳しく言われておりまして、7%くらいの金利を頂戴できれば検討できる可能性がありますがいかがでしょうか?」
日本人社長「7%ですか、高いですね…。でも、わかりました。金利のところは私も社内で確認しておきますので、まずは審査を進めていただけませんでしょうか?」
銀行支店長「承知しました。またご連絡します。」

〜工場にて〜

若手駐在員「社長に不良品報告見て勉強しろって言われたけど退屈だな…。もっとこう、『マーケティングミックスの4Pによれば、当社の価格は…』とか『ポーターの5forces分析によれば…』みたいなカッコイイ話ないのかなあ?…ん?ていうか、この会社の不良品率って、日本の工場と比べてもめちゃくちゃ高くないか?確か、ここでは日本の工場で作ってるシリーズの低価格帯商品を作ってるんだったよな。…なんだ?この報告書。『ヒケ有り(注:プラスチック成型品に窪みができること/出典:「現場のスペシャリスト」が中国現地法人のトップをやるのは正解なのか)』ってこんなヒケ、日本の工場でも不良品ってレベルじゃなくないか?何か顧客からの特別な要請があるのかな?…まあせっかくだから社長に聞いてみるか…社長、この不良品報告の『ヒケ』ですが、日本でも別に製品として出して問題ないレベルじゃないですか?」
日本人社長「まあ確かに日本だと商品として出しちゃうレベルだな。だけどここではだめだ。少し緩めるとどんどん緩んで歯止めが効かなくなる。私たち日本人がそこをしっかり厳しく管理しないと、どんどん品質が下がっていく。」
若手駐在員「じゃあこれは本社にこれで出しても本社も何も言わないってことですよね?お言葉ですが、会社の採算が下がって赤字になっている状況においては、コスト意識を持ちながら品質の水準を適切に調整する必要があるのではないでしょうか?」
日本人社長「なんだって?大学で経営戦略を学んできたか知らないが、まだモノづくりに関わって数年の君にはわからない世界があるんだよ。そんな的外れなことを指摘してくるくらいなら、早く人件費の削減策を考えてくれよ。」
若手駐在員「わかりました…。」

おわりに

前回の『中国現法はマーケティングができない』ではただ「あるある」を書いてたつもりが、かなり多くの方に読んでいただきありがとうございました。今回もまた「あるある」を書いたつもりですが、もう少し書けそうなので第3章に続きます。

人件費の問題、うまくいきはじめた中国国内市場開拓、銀行調達の行方、日本人同士の衝突。今後どうなっていくのでしょうか?

まだ一文字も書いてないので、今後どうなっていくか私も楽しみです。

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