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「現場のスペシャリスト」が中国現地法人のトップをやるのは正解なのか

Twitterやnoteで交流させていただいている藤田さんに「中国の日系企業現地法人が抱える問題」についてリクエストしたところ、快く書いていただきました(僕は「中国界隈note界の巨匠」ではありませんが……あと命じてはいないです!)

ある在中日系企業の現地社長に密着、という体裁で在中日系企業の抱える構造的な問題がリアリティたっぷりに書かれており、読んでいると笑いが止まらないと同時に胃痛が襲ってきます。ぜひ一読をお勧めします。

誰も悪くない「現場からトップ」問題

さて、上のような問題が起こる背景のひとつに、日系企業の現地法人責任者として派遣されてくるのが多くの場合「現場のスペシャリスト」であるということがあります。これは特に製造業、メーカーに顕著なのではないかと思います。

トップとして派遣されてくるわけですから全く実績のない人というわけではないのですが、特に日系企業の中国法人は生産拠点としての役割を求められることもあり、まずは工場の管理だということで、主に求められるのは製造・生産の知識や現場経験です。

僕自身、いくつかの中国にある中小日系メーカーの拠点で働きましたが、トップはほとんどみんな技術畑の人や、生産管理や品質管理などの出身の人でした。若くとも40代、多くの場合は50代後半以上の人が多かったように思います。もともとは他の営業や経理の人と一緒に技術職で派遣されてきたけど、その日本人同僚が都合で帰任してしまい、そのまま技術職の人が兼任をする……というパターンもありました。

たしかにみなさん、知識や技術的には素晴らしいものを持っていらっしゃるのですが、営業だったり人的マネジメントについては、ちょっと……と言う人もたくさんいらっしゃいました(自分が冷遇されたから言ってるだけかもしれませんが)。

そのため藤田さんのnoteにもあるように、売り上げが減少してきたから販路を拡大しなければならないとか、経理・人事上の問題が出てきたとかいう時に、芯を食った対応ができないということになります。これは中国各地の日系企業(に限らず多くの日系の海外拠点)で起こっている問題なような気がします。

これは本人が悪いという単純な話でもなくて、日本国内ですら経験が乏しいんだからそりゃそうなるわな、ということでもあります。これも藤田さんのnoteにあるように、本人は技術的なことや現場管理だけに集中するつもりで来たのに、後出し的に本社からアレをやれコレをやれと言われるのですから、たまったものではないでしょう。

しかし本社としてもコストもかけられないし、そもそも中国に自ら進んで赴任したいと思う奇特な人材もいない。なんとか自分で、もしくは現地スタッフをうまく使ってしのいでくれ、という話にしかならない。難しい問題だと思います。

頑固一徹ものづくりオヤジのちゃぶ台返し問題

あとメーカーで技術畑の人がトップに立つとありがちなのが、そのものづくりへの愛が強すぎるがゆえに起こる「こだわりちゃぶ台返し」です。

これは技術要求の高くない家電の外観部品や雑貨などのメーカーによく起こります。ある製品についてすでに客先の承認をある程度得ているにもかかわらず、ふとした時にそのサンプルを見た技術畑出身の偉い人が「この色は何だ!」「ここがヒケてる(プラスチック成型品に窪みができること)じゃないか!」「こんなもんお客様に出せるか!」とまるで頑固なラーメン屋のオヤジのように騒ぎ出し、製造工程を大幅に巻き戻した調整が必要になることがあります。

中国で日系メーカーに営業として勤めていた時は、頻繁にこれを喰らいました。こちとら、そりゃ完璧なモノじゃないことはわかっているけど、コストと納期、スタッフに要求できる技術水準などをなんとかバランスをとりながらやっているわけです。そんな時に偉い人に進捗を根底からひっくり返され、「あーあ……」と思いながら再生産を現場に命じる場面などがたくさんありました。とうぜん怒り狂う現場。その文句を一手に引き受ける僕。なんで俺が、と踏む地団駄。殴る壁。増えるジャンクフードの量、そして体重。

もちろんその「ものづくり」にかけるこだわりは素晴らしいことですし、このような人がいるから「日本のものづくり」のクオリティは世界最高水準を保っていられるのでしょうが(個人的には「日本のものづくり」という言葉は自己陶酔が透けていて大嫌いなのですが)(書かなくていい悪口)、なんつうかもうちょっと色々なバランスを考えてくれませんかね……と思うことしきりでした。

これも、同じようなことに心当たりのある人はいるのではないでしょうか。いますよね。一緒に泣きましょう。

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現場のプロがマネジメント層にいくことは必ずしも悪ではありません。特に製造業などにおいては、現場や製造工程についてまったくわかっていない人が管理層にいると、ものすごくトンチンカンなことになります。それはそれで問題です。

しかし、逆に管理経験や、製造業で言うと現場の「ものづくり」以外の場面の経験が乏しい人にマネジメントを任せるなら、それを補うための何かが絶対に必要だよなあ、といくつかの在中日系企業を見てきて感じます。

ちなみに、社内で昇進させる人を選ぶ方法として最も期待値が高いのは「ランダムに選ぶこと」である、ってQuizKnockの動画で言ってました。もう中国現地法人のトップもくじ引きで決めればいいんじゃないかな。でもそれじゃみんな納得しないだろうし、そういうわけにもいかないんだろうな。世の中って難しいですね。

なんかどうしようもないな、と絶望したところで本日は終了です。それではまた。

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