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中国現法はマーケティングができない

だいぶ久しぶりのnoteです。
今回は中国界隈note界の巨匠である華村先生に「note書け」と命ぜられましたので重い筆をとり書きたいと思います。
題して「中国現法はマーケティングができない」です。

まず、日本企業の中国現法(現地法人)がどういうところなのかをご説明します。

もともと、日本企業の中国現法のほとんどが「中国は人件費が安いから」という精神のもとに設立されています。したがって、社内のオペレーションも安い人件費を基準として構築されています。

日本人も派遣されますが、「日本で売るものを安く作れればいい」という役割期待のため、「生産」だけやってれば良く、派遣されるのはほとんど生産・技術系の日本人です。

結構名だたる有名企業の社長として派遣されてきても「BS(貸借対照表)とかあまり見たことなくて…」みたいな人がいる世界です。

それでも、その人が悪いわけではありませんし、中国で生産する際の人件費を含めた費用が十分に安ければ、社長は「工場長」だけやってれば、多少内部管理が非効率でも、少しくらい現地スタッフが横領しても問題ありません。

しかし、そうはいかなくなってるのが中国現法が現在抱えている問題です。ある中国現法の日本人社長に密着してみました(この物語はフィクションです。むしろフィクションであってほしいです。)。

〜中国のある都市の日本料理屋にて、友人の他社駐在員と〜

*ここに至るまでの話を『中国現法はマーケティングができない ー中国赴任編ー』にアップしました(2021/11/15)。

日本人社長「最近つらいなあ」
他社駐在員「どうしたんですか?」
日本人社長「日本本社と現地スタッフの板挟みでさ。本社からは『もっと安く作れないのか』って会議で毎回文句言われるけど、現地スタッフからは『もっと給料上げてくれないと生活できません』って言われてて…」
他社駐在員「つらいですね。『中国の人件費が安い』なんて今は昔、人件費も毎年上がってますもんね。」
日本人社長「そうなんだよ。でももっとひどいのは高齢化だよ。今のスタッフの平均年齢は40歳。ずっと頑張ってくれた社員達だから大切にしたいけど、みんなを昇格させてたら人件費が増える一方だから、なかなかそうもいかないよね。それでもしかたなく少しずつは昇格させるから、どんどん人件費が増えちゃうんだよね。」
他社駐在員「頭が痛い話題ですね。」
日本人社長「ぶっちゃけ今の従業員全員クビにして20代の従業員雇った方が人件費も安いし生産効率も絶対高くなると思うんだけど…。」
他社駐在員「そうですよね…。なんか、暗くなっちゃいましたし、女の子のいるお店でも行きますか?」
日本人社長「そうだね。でも高いからカウンターの店にしようね。」

〜工場にて〜

日本人社長「はあ、また本社から『管理部門のコストが高い』って言われたよ。今まで生産一筋でやってきて、ここに来るときも、『生産量はこっちが指示するから、生産効率のことだけ考えてくれたら良いから』って言われたのにさ。実際来てみたら管理部門のこととか、会社の決算のこととかいろいろ言われるよ。人件費もどんどん高くなって、生産効率の向上でカバーするのも限界があるよな…。」
現地社員A「社長、今よろしいですか?お話があります。前回の給与査定ですが私は納得いきません。私はずっと昔からここで働いてきて、人一倍頑張ってきたのに平均以下の評価なんて…。今年から子供も私立学校に通い始めましたし、今のお給料じゃやっていけません。」
日本人社長「(よくサボってるって有名なAさんじゃん、サボってる奴ほどこういうこと言ってくるんだよな)Aさんのがんばりもよくわかるよ。でもAさんは能力が高いからもっと頑張れるはずだよ。Aさんには期待してるからこれからもがんばってほしい。」

〜本社経営陣との会議にて〜

日本人社長「前期決算はなんとか黒字となりましたが、前々期対比売上、利益ともに減少です。生産効率の改善により人件費以外のコストは目標の5%削減を達成しましたが、受注減と人件費の上昇が相まって今期は黒字達成できるか微妙なところです。人件費は削減も限界がありますので、今期の受注はもう少し増やしていただかないと…」
本社専務「日本人社長君、状況はよくわかった。ただね、残念ながら今期発注を増やすつもりはない。こちらも厳しいのでね。ただし、中国現法の状況が厳しいこともよくわかっている。そこでだ、日本人社長君には新たなミッションをお願いしたい。中国市場の開拓だ。中国現法も現法設立から20年、中国人の人件費が上がっているということは、購買力も上がっているということだと思う。日本人社長君には是非この「中国市場開拓」という中国現法の新しいミッションに取り組んでほしい。詳しいことは海外統括部と相談してくれ。」
日本人社長「え?あ、はい、わかりました。」

〜海外統括部と電話にて〜

日本人社長「〜ということで専務から話があったんですが…。」
海外統括部課長「そうですね、我々も中国現法のここ数年の業績不振には頭を悩ませていましたので是非お願いします。海外統括部としてもサポートします。」
日本人社長「ありがとうございます。助かります。営業のプロジェクトチームを立ち上げていただけるということでしょうか?」
海外統括部課長「専務からは『まずは現法で頑張ってほしい』と言われております。拡販の可能性がありそうであれば営業人材の派遣を検討させていただきます。」
日本人社長「え?あ、そうですか…。わかりました。」

〜工場にて〜

日本人社長「大変なことになったなあ。ただ仕事が増えただけじゃないか。そもそもこれまでマーケティングなんてやったこともないし、どうすればいいんだろう…。ねえねえ、Bさん、うちの製品、中国国内で売れると思う?」
現地社員B「(あー今日は私が子供のお迎え行かなきゃだから早く帰らなきゃ、適当に話合わせとこ)うちの商品は品質が高いのですぐ売れると思いますよ!」

〜親しい日系商社の現地オフィスにて〜

日本人社長「中国国内販売しろって言われて困っていて…」
商社社長「(なんか全然売れなそうだし、既存商流の管理で手一杯だけど調子だけ合わせとこう)そうなんですか、我々のところでどこか買ってくれる会社がないか探してみますね!」

〜夜、日本料理屋にて〜

日本人社長「今度うちの製品を中国で内販しなきゃいけないことになっちゃいましてね。中国国内で売れるんですかね。」
他社駐在員「日本ブランド好きな中国人もいますし絶対売れますよ!あ、服务员!再来一杯啤酒!(*「店員さん、ビールもう一杯」の意味)」

〜カラオケにて〜

日本人社長「今度うちの商品を中国国内で売ることになって大変なんだよね。」
小姐「えー社長が買ってプレゼントしてくれるんですか?うれしいー!がんべいっ!」

〜本社経営陣との会議にて〜

日本人社長「えー、中国現法にて市場調査を行った結果、当社製品の中国国内でのニーズは相応にありそうです。現法側の予算にて、来月から営業部長を新規雇用して営業活動を開始します。(売れるかよくわからないけど、「中国国内では売れません」って言えるほどの材料もないし、とりあえずこんな感じでいいか。)」

〜工場にて〜

日本人社長「営業部長新規雇用の出費は大きいなあ。ただでさえ今期の黒字も厳しいのに。でも嘆いていてもしかたない。とりあえず営業部長も入社したし頑張って営業してもらおう!ん?なんで営業部長はスマホをずっといじってるんだ?なんかゲームしてるぞ?李部長?営業の調子はどうだい?」
営業部李部長「全然だめですね。」
日本人社長「そうなのか?じゃあ頑張ってしっかり営業してもらわないと。」
営業部李部長「わかりました、知り合いのつてをあたってみます。(今までやってきた営業と業種も違うからどうやって営業すればいいか全然わかんないけど、そんなにすぐに辞めさせられなさそうだしのんびりしてればいいか。)」

〜本社経営陣との会議にて〜

日本人社長「営業部長も採用して今頑張っているところです。今少しずつ話ができているところもありますので、もう半年くらいあれば徐々に結果が出てくると思います。(実際は従業員のつてを使ってなんとか話を聞いてもらったのが数社しかないぞ。とりあえず半年って言ってしまったからあと半年の間にはなんとかしなくては。)」

〜工場にて〜

日本人社長「え?従業員のCさんの親戚の会社が製品購入を検討してるって?お客さん第一号になってもらうべく頑張って営業しよう!」

〜商談にて〜

日本人社長「今日はお話を聞いていただきありがとうございます。我々の製品は日本品質なのでクオリティも高く…え、買ってくださるんですか?ありがとうございます!では詳細は営業部長の李と詰めておいてください!」

〜工場にて〜

日本人社長「はー、なんとか中国国内販売第一号を見つけられたぞ、よかったよかった。あ、李部長、これが契約書?なに、販売代金の受取は一年後?中国では結構そういうこともあるの?そうか、でも買ってくれる会社があるだけありがたいよね。まずはお疲れ様。」

〜本社経営陣との会議にて〜

日本人社長「営業人員も確保して営業とマーケティングに努めた結果、遂に中国国内販売を開始しました。今後、さらに営業を強化して売上を伸ばしていきます。(はーとりあえずなんとかなった!)」

〜本社財務部との会議にて〜

本社財務部「日本人社長さん、最近資金繰りが悪化してませんか?」
日本人社長「あ、え、そうですか?」
本社財務部「売掛金が増えてますよ」
日本人社長「あぁ、それのことなら中国国内販売の開始によるもので、販売先の信用情報もしっかりしてますから問題ありません。」
本社財務部「そうですか、うちは独立採算確保の観点から借入が必要な場合は現法側で個別に現地の金融機関と交渉してもらうことになってますからよろしくお願いしますね。」

〜工場にて〜

日本人社長「確かに言われてみると最近預金残高が減っているな。なんとかしないと。おーい、陳部長、最近預金がどんどん少なくなってるから、対策を考えてほしいんだけど。」
財務部陳部長「社長、今の状況で資金繰りを良くするには代金を早く回収するか、在庫を減らすか、支払を遅くするかしかありません。代金の回収と支払時期の交渉は営業と購買の仕事じゃないでしょうか?在庫水準は社長が『本社からの急な要請に対応できるように厚めにしておけ』と言うので少し多めになってます。私にできることはありません。」
日本人社長「そうか、わかった、ありがとう…。」

〜週末、自宅にて〜

日本人社長「平日は色々あって全然腰を落ち着けて考えられないから週末にやるしかないよな。財務部の陳部長は資金繰りを良くするには『代金を早く回収するか、在庫を減らすか、支払を遅くするか』しかないって言ってたな。でも、販売は本社と国内の販売先1社向けだけで、本社はちゃんと前金で送ってくれるからこれ以上は厳しいし、国内の販売先はいきなり早く入金してくれとも言えないから難しいよな。支払はどうかな?ん?うちの会社はほとんどが前金で仕入れてるのか。でも、中国企業は支払が遅いんだから、我々も遅く支払えばいいんじゃないか?そうだ、これだ!週明け、購買部の趙部長に指示してみよう!」

〜週明け、工場にて〜

日本人社長「趙部長、ちょっといい?最近資金繰りが厳しくて、仕入先への支払を前金じゃなくて、6ヶ月後とか、12ヶ月後で払えるように交渉してきてくれない?」
購買部趙部長「確かに、これまで支払期日については交渉したことがありませんので、交渉してみます。」
日本人社長「ありがとう。これまで交渉してこなかったならうまくいくかもしれないね!」

〜仕入先オフィスにて〜

仕入先中国人社長「いい加減にしてもらえませんか?確かに御社には昔から製品を買っていただいている義理がありますが、支払期日を納品の一年後に変えてほしいなんて受け入れられるわけないじゃないですか。正直、御社の注文は単価こそ高いものの、その分細かいルールが多くて採算が悪いんですよ。注文量も少ないし。だいたいなんですか?我々の製品は最終製品になる段階では消費者から見えない部分ですよね?その表面が少し汚れてるとかでいちいち陳部長が文句言ってくるんですが、そんなことで怒られても知ったこっちゃないんですよね。製品の本質的な品質に影響しませんよね?他の販売先は、製品の品質はそれなりでOKで、注文量は御社の10倍です。引続き前金で、ということであれば取引は継続させてもらいますが、そうでなければ他の会社から調達することもご検討ください。」
日本人社長「そうですか、わかりました。申し訳ありませんでした。」

〜週末、地域の日本人会の会合にて〜

日本人社長「はあ、仕入先だから有利に交渉できるかと思ってたのに、逆に呼び出されて怒られちゃったよ。もう資金繰り改善のために打てる手がないよ。」
日本人会会長「…ということで、昨今の度重なる停電については日本人会として当局としっかりと会話して、停電回数の減少と事前告知を要請していきます。」
日本人社長「あれ、今期の日本人会会長は銀行の人だよな?少し相談してみるか。」

〜銀行にて〜

日本人社長「…と、いった状態で、最近資金繰りが厳しくて。お金って借りられるもんなんでしょうか?」
銀行支店長「会社の決算内容にもよりますが、もちろん借入は検討できます。ただし、日本と違うのは、借入の金利です。だいたい4〜5%くらいを目線としてもらえると間違いないと思います。」
日本人社長「え、あ、4〜5%ですか?すごく高いですね。」
銀行支店長「そうなんですよ。日本ではゼロ金利で住宅ローンも1%を切る水準ですが、こっちは結構金利が高くなっています。」
日本人社長「そうですか。わかりました。ありがとうございます。」
銀行支店長「日本の本社から借りるやり方もありますので、ご本社とも相談してみてください。」

〜工場にて〜

日本人社長「資金繰りも厳しいけど、やっぱり売上伸ばさないとだよな。李部長、最近の営業の調子はどうだい?」
営業部李部長「話は聞いてもらえるものの、なかなか次につながりません。」
日本人社長「(李部長はこの間営業もせずにゲームしてたからな)わかった、今度私も営業に連れて行ってほしいな。」

〜営業先にて〜

日本人社長「当社の製品は業界でも珍しい材質を使用してまして…」
営業先部長「いや、私が聞いてるのは御社の製品が200℃の熱に耐えられるかってところなんですが」
日本人社長「それは使用状況と環境により変わるもので、ここで明確には申し上げづらく、是非もう少しお話を…。」
営業先部長「とりあえずわかりました。それでうちはお願いする場合1万個/月の生産をお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
日本人社長「私どもは社歴も長く、ラインによっては1万個/月の生産をしているものもあります。ただ、今回ご提案の商品を1万個/月となりますと工場設備の増設も必要ですし、またこれは本社の稟議事項となりますので…。」
営業先部長「そうですか、ちょっとなかなか条件が合わなそうですね。御社の製品自体は素晴らしいものですので、また何かいい話があれば教えてください。」
日本人社長「わかりました。ありがとうございます。」

〜営業先からの帰り道〜

日本人社長「今回は残念だったね。でも、製品は良いって言ってくれたし、今度また別の商品でアプローチしよう。」
営業部李部長「…そうですね。(ロットも合ってないしこの会社は絶対注文してくれるわけないよな)」

〜本社経営陣との会議にて〜

日本人社長「〜と、これらの要因により前期決算は前々期決算に引続き減収減益、損益では現法設立以後初の営業赤字となってしまいました。ただ、中国国内販売も開始され、中国市場開拓は徐々に成果が出つつあります。今期は黒字となるよう引続きコスト削減と中国市場開拓に努めてまいります。」
本社専務「そうか、よろしく頼んだぞ。」

おわりに

最近、日本企業のかなり多くの中国現法でこのようなことが起こっています。では解決策は?ということですが、「わかっちゃいるけど、リスクが高くてできないよね」みたいな話もあり、一筋縄ではいかず、成功している日本企業は多くありません。

それぞれの場面について、もう少し深堀しながら解説記事を書けそうな気もするので、ニーズがあれば少しずつ書いてみようと思います。

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