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11月10日(金):書籍「ことば、身体、学び」から、「できるようになる」とはどういうことか?

今回は先般に手に取ってみた書籍「ことば、身体、学び」に関することを少しばかり。

本書は五輪メダリストの為末大さんと認知・言語発達心理学を専門とする今井むつみさんとの共著で、副題の「『できるようになる』とはどういうことか」を中心に据えた対話形式です。

核心である「できるようになる」「熟達する」ことについては非常に腹落ちするものがありました。

具体的にいえば「熟達するとは調整力が高いということではないか」との投げかけがされており、本書ではその意図を次のように説明されています。

「陸上、水泳、体操はいつも同じようなことができるのがよいとされているスポーツですが、『いつも同じ』というのがどういうことかというと、それは、毎回異なる状況に対して、同じ結果を出せるということではないかという気がしています。つまり状況への対応能力、調整能力が高いということが、熟達したということではないでしょうか。」

「再現するとか、それが使えるようになるということは、一般的に思われているような、同じことが繰り返しできるようになるということではなく、違う条件に対応できるということ」

この点は以前に読んだ運動学習理論の書籍「エコロジカル・アプローチ」とも通じる面があって多分にあって合点がいきました。

エコロジカル・アプローチでは、そのあたりの詳細が「縮退」や「機能的バリアビリティ」といった概念を用いて解説されています。

そこでいうところの縮退とは骨格筋、分子、遺伝子など、あらゆるレベルに存在する性質で、人の環境変化への適応力を高めるための性質だと説明されています。

これを運動学習の領域にあてはめていえば、同じ運動結果を出すために、異なる複数のソリューションを持つことに当たるのだといいます。

バスケットボールのフリースローやサッカーのフリーキックの名手など、傍目には同じ動作を正確に行っているように見えても、実際のところは微細なレベルでみると変動性(バラつき)があるのだそうです。

意外だったのは一般的に名手とされるようなハイパフォーマーほど微細なレベルではバラつきがあり、その変動性は意図した結果を出すための複数のソリューションの形ということでした。

こうした望ましい変動性は機能的バリアビリティと呼ばれ、機能している変動性(バリアビリティ)との意味合いです。

従来的な運動指導のアプローチは「パフォーマンス結果の安定性=動作の安定性」との考え方で型の習得のための反復が重視される一方、エコロジカル・アプローチでは「パフォーマンス結果の安定性=動作の安定性+機能的バリアビリティ」と考えられています。

そして、こうした機能的バリアビリティの伴ったスキルを習得するには、厳密に同じ動作を反復するのではなく、「同じ結果を出すために、違う動きをすること」がポイントで、これを「繰り返しのない繰り返し」と表現しながら、指導者がそのような制約を意図してデザインしていくことの必要性を説いています。

「できるようになる」ことの核心が異なる環境、条件に対応しながら同じ結果を出すことで、それを可能にする対応能力、調整能力を身に着けていく点にあることへの理解が深まりました。

明日も関連した話をつづけます。

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