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女子校ヒエラルキー リッチチvs貧乳



乳への執着

私は胸が小さい。

 小学校高学年頃からきちんと成長期が来て、このまま順調に育つと思っていたら、発展途上でピタリと止まり、現在に至っている。
姉は私と違って立派な胸をしているため、私もああなると勝手に思っていたのだが、見事に思惑が外れたのだ。

 ずーっと胸にコンプレックスを持っているためか、街で女性を見ても、テレビで女優さんを見ても、最初に胸をチェックしてしまう。
顔がとても綺麗な人でも、胸がペッタンコだと勝手に親近感が湧き、逆に体は細いくせに胸は立派だと、「なんだコイツは!」と嫉妬に駆られてしまうのだ。
 私の胸への執着は凄まじく、普段から胸の話ばかりをするせいか、テレビでキャベツが胸の成長にいいという情報を見た4歳の姪っ子が、親切心で私にキャベツを送ってあげるように母と姉に懇願したことがある。
またある時は、私の胸が小さいのはDNAのせいであり、その遺伝子を私に渡した母のせいだ!と母に直談判したこともある。
 結果、母は私に「何のために、胸があるか分かるか?どちらが体の表でどちらが裏かを見分けるためで、アンタの胸でもその役割は十分果たしている」と到底納得できない反論をしてきて、口論になった。

貧乳協会へ入会

 女は腹の底ではお互いに牽制し合う生き物だし、女性のシンボルとも言える胸は女の人生に常に付いてまわる。
 女子校時代は、友人同士でおおっぴらにお互いの胸を触り、そして優劣をつけていた。
 成績同様に容赦なく、上位クラス、中間クラス、下位クラスに分けられ、それぞれ、「リッチチ協会」、「ノマチチ協会」、そして「貧乳協会」と名付けられた。

念のため、意味を説明しておこう。
リッチチは、リッチな乳という意味であり、ノマ乳はノーマルな乳、そして貧乳はその名の通り、貧乳ということだ。前者の2つは英語に由来しているにも関わらず、なぜ貧乳は直球で貧乳と名付けられたのかについては謎だが、呼び方だけは韻を踏むように「ひんにゅう」ではなく「ひんちち」と読む。そしてなぜに、「協会」というスタイルをとったかも今となっては謎のままだが、とにかく私は予想通り、貧乳協会に属することとなった。
実際、貧乳なのだからしょうがないし、異論はない。

 しかし、友人のSちゃんは貧乳協会会員と認定された際、「私は、違うって!」と協会入りを拒絶してきた。確かに、Dカップ以上だとリッチチ、Aカップ以下は貧乳というような明確な基準が設けられておらず、あくまで周りの判断によるものだったので、Sちゃんの自覚では自分は平均値だと思っていたのであろう。
 私が「ノマチチ協会のOちゃんより小さいし、貧乳協会やろ」と主張したところ、「でも、貧乳協会のHちゃんより大きいもん」と反撃してきた。貧乳協会の会員は同じコンプレックスを持った人間が結集していることもあり、結束が固い。「だったら谷間はできるのか?」「平気で水着になれるのか?」「普段着用のブラジャーはパッドが入っているか?」とまさに全員野球で攻め込み、Sちゃんも最後は降伏。貧乳協会に入れることに成功した。
実際、貧乳協会に入ることはメリットの方が多かったと思う。

貧乳協会会則


貧乳協会には、貧乳協会会則というものが制定されており、「貧乳を恥じることなかれ」と気持ちを支えてくれるものから「乳に関する情報は共有すべし」と実益に直結するものまであった。それに付随して「抜け駆け禁止」というone for all, all for oneの精神で成り立っていて、前述した通り、結束が非常に固かった。
 実際、リッチチ協会会員に「どうやって乳をそこまで成長させたのか?」とインタビューを行ったところ、「唐揚げを食べていたから」、「ワカメが良かった」などすぐに実践できそうな回答を得られたので、即座に会員にシェアしたことがあるし、他の会員から、婦人科に行ったら治療のため、ホルモン注射をされ、それはすごい効果だった、という情報を得たこともある。
上手く成長を遂げた人は、協会に引き止めることなく、卒業を祝福することも制定されていたが、高校卒業までに貧乳協会を卒業できたものはいなかった。

貧乳協会卒業後。 補正下着との出会い

私は、高校卒業後も胸が少しでも成長できるように独自の努力を続けている。
 Facebookに上がってくる胸が大きくなるサプリの怪しい広告をみては、怪しいと知りつつもついクリックしてしまい、挙句に検索しまくり口コミと効果を調べたりしている。
そしてつい、すがりたくなってしまう。

 大人になってから一番有益だった情報は補正下着の話である。同僚のスタイル抜群の女子が昔、会社の先輩から補正下着の重要性について講義を受けたというのだ。その結果、10年に渡って補正下着を使っているという。
効果のほどは彼女を見れば分かる。変なプライドが邪魔をし、その時は「ふ〜ん」と大して気にしているそぶりを見せなかったが、その後、補正下着を調べてみることにした。
 高額な補正下着は経済力的に購入できそうもなかったので、リーズナブルなものを試しに購入してみることにした。
色もどうせなら体が興奮するらしい赤にした方が効果がでそうだったので、つけたこともない真っ赤なブラジャーをチョイスした。
ドキドキしながら着用してみると、確かに胸をすごく寄せたままホールドしてくれている気がする。何年間にも渡り、胸を成長させてくれるものを調べてきたが、これはいい!
効果が出るのではないか、と期待に胸が踊った。

 本来は何着か買って洗濯もできるローテーションを組むべきだったのだろうが、いかんせん1着しか購入できなかったので、毎日同じものをつけるしかない。多少、清潔感に問題があるかもしれないが、真夏でなければ汗をかくこともないし、数日間くらい問題ないだろう。
汗問題よりも貧乳問題の方がはるかに重大な問題なのだ。

補正下着の効果やいかに


 夢の巨乳を目指して数日間つけ続けたところ、肩が非常にこるという副作用が出てきた。胸を持ち上げて寄せていたので、肩紐を短くしすぎてのかもしれない。再度、説明書を読んでみたが、胸の位置は間違ってないように思える。
 ここで負けて肩紐をゆるくしてしまうと、夢の巨乳が遠ざかるのではないか?肩こりと巨乳、どっちが大事なんだ!?と自分を奮い立たせ、このまま使い続けることにした。
 肩こりに負けずに使い続けられたのは、このブラジャーをつけると少し谷間ができるということが大きな要因だ。このブラジャーでぐっと寄せ、さらに自分の腕で、ぐっと寄せると見たことがない谷間ができるのだ。あまりに嬉しかった私は、鏡の前で何度も自分の谷間に見惚れていた。ご褒美があると人間は頑張ることができる。

 少しお金に余裕ができると2着目を購入し、3着目を購入し、と頑張ってきたが、結局、健闘虚しく貧乳は貧乳のままだった。

コンプレックスとの戦いの果て

 貧乳がコンプレックスの人は、私のような努力をしている人も多いだろう。大きな顔がコンプレックスの人は小顔矯正のベルトを着用している人もいるかもしれない。

 では、男の人で、あそこが小さいというコンプレックスの人はどうすればいいのだろう?とふと思った。私は女なので、調べたことも聞いたこともないのだが、あそこを大きくする矯正器具のようなものが存在するのだろうか?いや、構造上、無理なような気がする。
とすると、根本解決にはならないが女の人がブラジャーにパッドを入れるように、男の人もパンツの中になんか詰めたりすることがあるのだろうか?
そんなことをしたところで、股間に惚れる女の人はいないので何の意味もない上に、虚しさだけが残るような気もする。男の人はどうやって自分のコンプレックスと戦っているのであろう?

 私が矯正下着をつけ続けたところで、多少はマシになるかもしれないが貧乳は貧乳だし、小顔矯正ベルトを使っても、安室ちゃんくらいの小顔になれるとは思えないし、男の人のあそこのサイズ問題は(多分)どうにもならないのだろう。結局は、自分のコンプレックスを受け入れるしかないのだ。
そう思うと、開き直って貧乳協会くらい大っぴらに共有できた方が、楽になれるかもしれない。
 卒業後、かなりの年月が過ぎたが、私は今でも、貧乳協会OB達には、自分の貧乳を公開できるし、笑い合うことができる。コンプレックスなんか笑い飛ばしてしまえた方が楽だし、その仲間を得られたことが女子校最大の収穫だったと思う。


#創作大賞2024 #エッセイ部門

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