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【詩】未練

俺のせいで 全て起こったことだ……
それでも まだ 未練がある……


彼女とは 一年近く 付き合ってきた。

はじめは 俺の一目ぼれ だった。

少しずつ 交流を重ねていって
俺が 告白した。
彼女は 嬉しそうに うなずいてくれた。

暇さえあれば 彼女のことを考え
休日になれば 彼女と会った。

俺と彼女だけの 温かい時間を過ごしていた。


けれど……

ある平日
俺が 親友に 彼女とのノロケ話をしている時。

親友が 言った。

「お前の彼女はおかしいヤツだ」

おもわず 彼の顔を 凝視した。

ぶっきらぼうな彼の話が 進むにつれ
俺の心には 疑心の芽が 生えた。

彼が口にしていった 正論の数々は
もっともなことばかり だったのだ。

疑心の芽は 正論 という雫を吸収し
俺の心を突き破るほど 大きくなっていった。

心に覆いかぶさる その葉の影は
いつものデートの日の 俺の目を曇らせた。

愛おしいはずの 彼女のすべてが
疑わしく 見えて……

俺は 笑顔の彼女に ぶっきらぼうに言った。
親友の言葉を 俺の口から。

そしたら
彼女の 見開かれた大きな瞳から
大粒の涙が こぼれた。

俺は とんでもないことをしてしまった 
と やっと 気づいた。

彼女は そうだよね とうなずき
悲しそうな顔をした。

俺は 耐え切れず その場から 走って逃げた。

俺の目からも 涙がこぼれ
風に流されて きらめいた……。


……これまで 彼女は 一度も
俺を 否定などしなかった。

俺が 弱音を吐いた時も
俺のわがままに つきあわせた時も

彼女は黙って 俺のそばにいてくれた。

また会おうと 手を振る時には
優しく温かい微笑みを 向けてくれた。

それなのに……
そんなに優しい彼女に 俺は……。


……分かっている。
全て 俺のせい だと。

俺は 彼女を愛していた 俺自身に
自信がなかった。

だから 親友の言うことを うのみにして。

目の前の彼女を
俺自身の 純粋な瞳で 見られなかった。

そうして
一人で 勝手に 疑心という植物を 育て――。


……のちに 彼女には 電話で謝った。

彼女は うん と言った。

俺は しばらく会わない方がいいかもしれない
と伝えた。

彼女は うん と言った だけだった。

俺は 震える手で 通話を切った……。


……そうして もう 何日 経ったのだろうか……。

俺の心の中
自責という雫 を吸収して
疑心という植物は 育ち続けている。

俺自身を疑う その植物は
その茎は その葉は

俺の心を 切り裂き続けている。

その傷が 痛くって
あの日の彼女の 悲しそうな顔が つらくって……


……分かっている。
弱かった俺のせいで 全て起こったことなんだ。

突然 正論をぶつけられた 彼女の方が
つらいんだ。

俺は 悲劇のヒロイン ぶっているんだ……。


それでも……
それでも まだ 未練があるんだ……。

彼女と一緒に過ごした
温かく 輝いていた あの日々に……

いつかは 戻れるかもしれない
と信じているから……。

今も……涙がとまらない……。

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