見出し画像

養殖×地産地消で地方の経済を動かす

とある地方自治体の方とお話させていただくことがあって、養殖による地方創生には可能性があるというお話をさせていただいて盛り上がった。自分の頭の中を再整理する意味でnoteにもダイジェストを書いてみようと思う
※ダイジェストのつもりだったのに6000文字超えました、すみません

産地の魚の方が絶対安いし、うまい

海から離れると当たり前だけど、魚の輸送距離が長くなる。複数のプレーヤーで魚を持ち替える。輸送距離が長くなれば、輸送時間も長くなりやすい(空輸の選択肢もあるので、比例はしない)。鮮度も落ちやすい。

コールドチェーンでの輸送が担保されていればまだいいけど、途切れたりなんかするともっと鮮度が落ちる。物流センターを経由することで、スーパーに魚が並ぶ日がさらに1日遅れるなんてこともある。

それだけじゃない。物流は0円じゃない。トラックドライバーの人材不足は深刻で輸送コストはどんどん上がっている。倉庫の保管料のような見えないコストもある。その物流コストは少なからず魚価に反映される。

海から離れた場所に住むと、魚を手に入れるコストが高くなりがち&鮮度が下がりやすくなりがち。そうして「産地で獲れたての魚の方が安いしうまいよね」という結論に全員がたどり着く。

そこで、僕みたいな魚好きはどうするかというと、旅行にいく。「どうせならうまい魚を食べたいよね」と魚市場や屋台、露店にわざわざ出向く。

京都に住んでいたときは富山や金沢の市場にいったし、北海道は今でも毎年行く。東京に来てから沼津に行ったけど、沼津も魚がおいしかった。「産地の魚がうまい」という原則は今のところ概ね外れてはいない。

不都合な真実①「産地以外の魚を食べている」

ただ実はそこには僕らみたいな魚好きが日頃それほど意識してこなかった2つの不都合な真実がある。1つ目は食べている魚が産地以外のところから運ばれたもの(一部)だということ。

考えれば当たり前なのだが、日本全国どこでもブリが穫れるわけじゃない。漁港によって穫れる魚の種類は決まっていて、季節によって少しずつ変化する。すべての魚種を1箇所の漁港で毎日水揚げできるわけがない。

サーモンは陸上養殖から持ってくるし、ブリは富山から持ってくる。沼津で獲れたアジやカツオ、サクラエビは産地のものかもしれないけど、すべてがそうだとは限らない。

サーモンが好きだからと寿司屋で注文したら、東京で食べるノルウェー産のサーモンと同じでしたなんてことが普通に起こる。でも当然、お店は売上のことを考えるとサーモンを置かないわけにはいかない。

不都合な真実②「一番うまい魚は産地にはない」

もう一つ知りたくなかった?不都合な真実がある。それが「一番うまい魚は産地にはない」ということだ。

漁師さん曰く「等級がよくてサイズが大きくて脂がのっている魚は豊洲に送ってるよ」と。理由は単純明快で、それが一番高く売れるから。

漁師さんは自分が漁獲してきた魚をできるだけ高く売ることで生計を立てている。魚価を上げることは漁師さんにとってとても大事な問題だ。

でもその一番うまい魚の運命はというと上記の通りで、複数のプレーヤーが持ち替え、長距離を移動し、中間コストがかさみ、スーパーで並ぶ頃には鮮度が落ちている。そして高くなっている…

僕らが極上の魚を食べるために東京から産地に旅行にいっても、極上の魚は産地から東京に向かっている。無慈悲すぎる。

養殖なら2つの問題を回避できる

あまり知りたくない事実が詳らかになったところで、ここからはうまい魚を食べるために僕らがどうしたらいいかを考えてみる。

「産地以外の魚を食べている」説、これは消費者のリテラシーの問題でもある。産地に行く前にその季節・場所で水揚げされやすい魚が何なのか、事前に調べておけばいい。グーグル検索したら結構すぐ見つかる

一方、「一番うまい魚は産地にはない」説は構造的な問題だ。船や時期によって漁獲量は違うが、天然物は基本的に水揚量が多くなる。同じ魚種を300トンとか500トンとか一気に水揚げするケースもある。機械で選別し、サイズ別に分けて、セリにかける。

魚は足がとにかく早い。微生物が繁殖しやすく、常温だとすぐに腐ってしまう。半年から1年もつポテトチップスとはワケが違う。

何百トンという魚をできれば当日、遅くとも3日以内には消費者まで届けないといけない。量が大量なので、産地だけではそもそも消費できない。ゆえに全国に販売するには、市場の機能と小売を通じた販売活動が必要になる。そうなると「どこに何を卸すと売上が最大化されるか」が関心事になり、一番旨い魚が産地からいなくなる。

この問題を一筋縄で解くのは難しい。漁師さんと直接契約するとかは解決策ではあるけど、あまり現実的ではない。

ただこの問題を避けられる領域がひとつある。養殖領域だ。

出荷量を計画・コントロールできるという強み

養殖は天然物とは事情が違う。生産計画が予め決められる。いつどれくらい出荷できるかを事前に予測できる。

出荷するタイミングも自分で決められる。天然モノはいつ獲るかを事前に決めることはできないが、養殖は決められる。一番いい状態で出荷できる。養殖魚なら消費者に「一番うまい魚」を個別に出荷・提供できる。

反面、養殖は天然物より不利な点もある。たとえばロットが限られたり、病気のリスクがついて回ったり、エサ代が必要になったりなどなど。中でもロットが限られるというのが重要だ。

魚価向上は養殖事業者の至上命題

陸上にしろ、海上にしろ、養殖である以上は生簀で魚を育てることには変わりがない。生簀のサイズを決めると飼える魚の量が決まる。

魚の量が決まるということは売上数量の上限が決まるということだ。そして当然のごとく、売上は単価×数量で決まる。限られた生簀の数を前提とした上で養殖事業の売上を最大化しようと思うと、魚価の単価を引き上げる以外に方法はない。

ワクチンや餌などの工夫でできるだけ出荷量を極大化することはできるが、絶対的な上限を超えて飼育することはそもそもできない。

生簀を増やせば規模は拡大できるが、生簀を作るにも数百万の投資が必要だし、生簀を増やせば管理するために関連設備の投資や人の採用もしないといけない。海上養殖だと生簀を構えられる条件(波の高さとか温度とか)を満たす漁場が限られていることもある。

魚価向上は養殖事業者なら避けては通れない重要ミッションだ。

各地で相次ぐ養殖魚のブランド化

魚価を上げる手段としてよくあるのは魚種の絞り込みとブランド化だ。

歩留まりが悪い(病気になって大量に死滅しやすい)魚や価格が安い魚は選ばれず、価格の高いメジャーどころの魚種に養殖魚種が絞られやすい。たとえば「アユやヤマメを養殖していたけど、サーモンに転換する」とか「5魚種育てていたけど、3魚種に絞る」とかはこのあたりを意識した動きだ。

海上養殖だとブリやカンパチ、タイ、ヒラメ、クロマグロといった種類はよく養殖される。これも魚の流通価格が高いから。手間と時間、お金をかけても十分利益が出せる。

結果的に養殖される魚は偏ってきて、他地域との差別化が必要になる。市場で流通する魚とも差別化しないと同じ魚価ではそもそも商売が成立しない。そこでブランド化や地域の特産品化みたいなテーマが話題にのぼることになる。

  • ニジマスとブラウントラウトを交配させた新種「信州サーモン」(長野)

  • みかんの搾りかすを入れた餌で育てた「みかんブリ」(愛媛)

  • 世界で初めて完全養殖に成功した近畿大学の「近大マグロ」(和歌山)

など各地のブランド養殖魚は枚挙にいとまがない。サーモンだけでも全国に数十種類以上のブランドがある。

ブランド化のその先へ。販路をどこに求めるか

ブランド化すれば商品としての差別化ができる。あとはどこでどうやって売るか。販路開拓が課題になる。

  • 催事や展示会に出店する

  • 東京・大阪に旗艦店を構えて認知拡大を図る

  • 高級料理店から直接契約する

  • 海外に販売先を求める

どれも有力な選択肢になる。ただそれは競合となる別地域の養殖ブランドも同じ。パッと思いつきやすい選択肢なだけに上記のような領域での販路開拓はおそらくレッドオーシャンになりやすい。

もっと勝てやすい領域は実は他にある。

顧客は外ではなく、内にいる

もっとカンタンに勝てる領域、それが地場のホテルや旅館だ。東京に出すと宮城の養殖ブランドとも鹿児島の養殖ブランドとも戦わないといけないが、地場なら別だ。

なぜなら旅行客が求めてくるのは、その産地のおいしい魚そのものだからだ。他の地域と戦う必要なんて最初からない。「一番うまい魚は産地にはない」という無慈悲な現実は養殖なら解決できる。旅行者が来るまさにそのタイミングで一番おいしい魚を提供できる。

旅行者は観光に来ている。「スーパーに並んでいる魚の中から一番安い魚を買おう」みたいなマインドでは来ていない。せっかく来たからには美味しいものを食べたいと思っているし、それが保証されるなら多少高くてもお金を払う。なんならついでにお土産を買って帰ったりする。

魚価を高く設定できる背景として他にも物流コストがかからないという点も見逃せない。魚を動かす距離と回数が減るからだ。産地で消費することは輸送に伴う環境負荷を減らすことにもつながる。

海外や首都圏の方が高く評価してくれると思うかもしれない。高く売れると思うかもしれない。だけど、そういう海外や首都圏に住んでいる人はわざわざ産地に旅行に行っている。そこで生まれているニーズには確実に当てに行った方がいい。

地場ならではの戦略で魚価を引き上げる

地場で戦うなら、地場ならではの戦い方でさらに魚価を上げたり、クロスセルを狙ったりすることができる。

観光客の人たちが何にお金を払っているかというと、「モノ」としての魚に対してではない。産地のうまい魚を大事な人と味わって楽しむという「コト」に対して価値を感じ、そして対価を払っている。

そうであるならば、現地ならではの体験を提供することで「コト」のストーリー性を引き上げていくことが価値創造と単価向上につながる可能性がある

たとえば生簀から活きたままの状態でホテルに納品された魚がホテルの水槽で泳いでいるとか、注文があったときに活締めしてくれるとかしてくれたら、個人的にはめちゃくちゃ嬉しい。メニュー表に養殖現場の人の養殖過程の苦労話が写真つきで紹介してあったりすると、思わず頼んでしまうと思う。

ホテル・旅館・飲食店の顧客単価があがれば、魚価や販売量にも返ってくる。いわゆる6次産業化のような文脈に近くなってくるが、本質は魚価向上のための販促活動だ。オリジナリティあふれる体験ができて、地方のおいしい魚も料理で味わえる。観光客も嬉しい。

そして観光客がホテルから帰るときには養殖ブランドの魚が買えるECサイトの割引クーポンを渡す。旅行にきて養殖魚の美味しさに感動した観光客はどうするだろうか。果たして首都圏や海外の人が高い養殖ブランドをネットで注文するようになる。

最初から首都圏や海外の人の受注を狙って販売活動をがんばるよりも、産地消費の盛り上がりをしっかり作った後で、その人たちに継続的に販売をしていく方がずっと楽だ。

地場での販路拡大は地方創生のエンジン

コロナ禍でなかなか困難な状況が続くが、観光客が増えていけば各観光地でお金が落ちる。事業者の売上が増え、地方公共団体や国の税収も増える。

魚価があがり、今後も維持・増加する見込がたてば、養殖事業者としても生簀拡大などの設備投資に踏み切りやすくなる。結果として養殖事業者は魚価単価を上げつつ、販売数量自体も中長期的に伸ばしていける。

養殖事業者が販売活動として外に向けているエネルギーを内の地場産業に向けることは、養殖魚の販路拡大につながるだけではなく、地方創生のエンジンにもなる。

もっとも、ここまでやろうと思うともはや養殖事業者だけでなんとかできる領域はとっくに超えてしまっている。ホテルや旅館側の企画だって大事になる。地方公共団体の後押しだって絶対に欠かせない。地域全体で成長していくためには各プレーヤーがそれぞれの役割を理解した上で知恵を絞って本気で産地に向き合っていく必要がある。

無視できない受注業務のDX化

ここまではわりと理想論なのだけれど、この先はもう少し現実的な話。何かをやりたいなら、何かを減らさなければいけない。人に与えられた時間は24時間しかない。

今までやっていたことをやめるか、今やっていることを効率化するか。取りうる選択肢はこの2つしかない。

その観点から僕たちは旧態依然とした既存業務フローの生産性の低さを改善することが一番レバレッジが効くポイントだと思っていて、だからこそ受発注のDX化に取り組んでいる。

魚を育てるだけでもやることがたくさんあるのに、いちいち作業中に電話が来るとか、紙に書いたメモをなくすとか、字が汚くて読めないとか、単価計算を間違えるとか…

そんなことをやっていたら、規模拡大にはいずれ限界がでてくる。得意先の信頼も毀損する。旅行者とせっかく接点を持てても販売する手段がなければ受注は当然できない。仮にそういうシステムを入れたとしても、注文量が増えたときに今の業務フローのママだといずれ捌ききれなくなる。間に商社を挟めばその場は凌げるが、それは課題の先延ばしにすぎない。

今やっていることすべてが無駄だとは思っていないし、電話やFAXじゃないと解決できない領域も間違いなくある。ただ、変えるべき部分は変えるべき部分として認識して、どう変えていくかを真剣に考えていかないといけない時が来ている。

受注業務や請求処理業務といった領域はおいしい魚を育てることとは直接的には関係しない。そういう業務に時間と労力を取られていたらもったいない。

僕たちのミッションは縁の下の力持ちとして、そういう領域をできるだけ短時間で効率的に処理して、養殖業で働く人たちがもっと事業のコアに思考と時間のリソースを使えるようにすること。

養殖×地産地消で地方の経済を動かす。

1人のプレーヤーとして僕たちも挑戦を始めている。

一緒に養殖業の未来を切り拓きませんか?

僕が自分のプロジェクト?(会社にはまだしてないのでプロジェクト)で目指しているのはおいしい魚が食卓に並ぶ「当たり前」の日々を次の世代につなぐことです。

そのビジョンの裏にはもちろん「未来の養殖業の姿を自らの手で作り上げていきたい」という想いがあります。ただいきなりこのビジネスモデルから参入するのはコストもかかるし、何よりもっと手前のところに働く人たちの課題があるので、まずはここを解決しにいって信頼を積み重ねることから始めなくてはなりません。

水産業独特の「めんどくさい」を解消し、魚を届けるために働く人々を裏方として支えること。それが今の我々のミッションです。ひとつひとつ積み重ねながら歩みを進めます。

知見をお持ちの方、我々が目指す未来に共感してくださる方、ぜひ助けてください!力を貸してください。そして養殖と地方の未来を一緒に作っていきましょう…!
・地方創生をミッションに持っている地方公共団体の担当者
・エンジニア
・B2B営業経験者
・養殖事業に今携わっている方(ヒアリングさせてください)

ぜひ気軽に声を掛けていただけると嬉しいです!Twitterもやってます!フォローいただけると喜びます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?