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繊細かつ大胆に

DNA解析の手法についてお話ししようと思います。大学で(最近では高校でも)行われているDNA解析は、DNA抽出PCR法のセットで行われています。大まかな原理はどれも同じですが、研究の目的によってこだわりが発生するため、多様な方法が存在します。今回は、DNA抽出の原理と私のこだわりについて紹介します。独学で寄生虫(扁形動物)の研究をしようという方は参考にして下さい。いるのかな?

DNA抽出の原理

DNA解析をするためには、最初に細胞の中からDNAを取り出さなければなりません。これがDNA抽出です。DNA抽出の原理を理解するために、細胞の中にDNAがどのような形で収められているかを知っておく必要があります。動物や植物は多細胞動物なので、多数の細胞が集まってできています。そして、細胞は細胞膜と呼ばれる膜で覆われています。DNAは細胞の中にあるのですが、核膜という膜に保護されています(細菌類は別)。このようにDNAは、細胞膜と核膜の2つの膜で覆われているのですが、この膜はリン脂質という脂肪でできた膜です。また、核膜の中にあるDNAは、ヒストンとよばれるタンパク質に巻き付いています。
中学や高校の生物の実験で行うDNA抽出は、ブロッコリーを乳鉢でつぶす洗剤に入れる塩水に移すエタノールに入れる、となっています。これらは、DNA抽出の原理となっており、大学や研究機関で行われている精密な実験でも原理は同じです。その原理を説明すると:
乳鉢でつぶす→細胞をバラバラにする&細胞膜を壊す
洗剤に入れる→脂肪でできた細胞膜を洗剤に含まれる界面活性剤で破壊する
塩水に移す→タンパク質を沈殿させる(DNAは水にとけたまま)
エタノールに入れる→DNAはエタノールに溶けないので沈澱する
となります。

DNA抽出の原理を図示すると大体こんな感じです。

私のこだわり

私の場合は、1mm前後のとても小さな寄生虫からDNAを取り出します。しかも、体の一部だけを切り取って抽出するので、先述したような大胆な方法では、DNAを抽出することができません。そのため、私は専用のキットを使用しています。先述の方法との違いは、以下のようになります。

乳鉢でつぶす→ホモジナイザーで破砕する。

バイオマッシャーというものを使用しています。

洗剤に入れる→Nuclei Lysis Solutionという純度の高い界面活性剤を加える。さらに、Nuclei Lysis Solutionを冷やして、しっかり細胞膜を壊す。その後、温めて細胞内に含まれているものを全て溶液中に溶かす。

純度の高い界面活性剤, 冷やす様子, 温めている様子

塩水に移す→Protein Precipitation Solutionでタンパク質だけを沈殿させる薬品を入れる。この時、攪拌機(Voltex)を用いてしっかり撹拌し、冷やすことで溶液中のタンパク質をしっかり沈殿させる。

左上:タンパク質を沈殿させるための薬品, 右上:Voltex, 左下:遠心分離機, 右下:遠心分離機で沈殿させたタンパク質

エタノールに入れる→遠心分離機にかけて、タンパク質を沈殿させる。上澄み液をプロイソパノールに入れる。
この時、DNAの量が少ない場合、沈殿を始めたDNAが見えないことがよくあります。そこで、共沈剤と呼ばれる薬品を入れます。これはDNAに付着する物質で、微量のDNAを大きくすることができます。最終的に、沈澱したDNAを専用の保存液を入れて冷凍庫に入れておきます

左:共沈剤, 中央:イソプロパノール中で沈殿を始めたDNA, 右:保存液

細かいことは気にするな

このDNA抽出を学生に教えてやらせると、「プロトコルに冷却時間5分とあるが、うっかり4分にしてしまったが問題ないか?」「撹拌を忘れてしまったが問題ないか?」などトラブルが発生します。精密な実験になるので、些細なミスが失敗につながります。しかし、それぞれの手法の目的を理解すれば、こだわるべきことと、そうでないものがわかります。例えば、冷却は溶液中の物質を沈殿させるために行います。そのため、短いと沈殿が十分におこらないのですが、少しくらい長めにやっても問題ありません。仮に、1時間以上冷却を続けてしまっても、沈澱するものがなくなれば、それ以上何も起こりません。
一方、撹拌を忘れてしまうと、薬品が全体に広がらないので、工程の意味がなくなってしまいます。次の薬品を加えるまでであれば、撹拌を行うところからやり直せばよいのですが、何かを加えてしまうと取り返しがつきません。

注意すべきことは?

DNA抽出にこだわる理由は主に2つです。1つは、不純物が混じってしまうと、DNAを増幅させるPCR法がうまくいかなくなります。PCR法は、DNAを増幅させるための薬品がDNAと結合することで増幅が始まるとイメージして下さい。そのため、不純物が混じるとDNAを増幅させるための薬品が不純物と衝突してしまって、増幅させたいDNAと結合しにくくなると考えて下さい。
もう1つは、余計なDNAが混じってしまうことです。これは、今回紹介している手法とはあまり関係ないのですが、寄生虫のDNAを抽出している時に、マスクもせず喋りながら作業を行うと、作業をしている人のDNAが混じってしまいます。これをコンタミといいます。ヒトのDNAが混じることは少ないのですが、吸虫のDNAを抽出したあとにちゃんと片付けをせずに、単生類のDNAを抽出すると、稀に混在してしまうことがあります。基本的にはそのようなことは起こらないのですが、学生など慣れない人がやると時々起こります。

今回、DNA抽出の話をした理由は、年度末&論文作成で、調査に行ったり、興味を持った論文を読む時間がとれなかったためです。ネタ切れです。すいません。

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