小木津 明

コロナ禍が始まった頃に小説を書き始めました。公募に出しては日の目を見ない未熟な作品たち…

小木津 明

コロナ禍が始まった頃に小説を書き始めました。公募に出しては日の目を見ない未熟な作品たち。ふと、ここに出してみようかなあと思いたち、参加させていただくことと相成りました。素朴な時代小説が好き。しっとりとそれでも胸が熱くなる物語が好き。無粋者につき、お手柔らかにお願いします。かしこ。

最近の記事

鯨の轍〜新入り埋文調査員の日々〜 第2話

「一度、こっちに来てくれないか」  父の葬儀から半年が過ぎた或る日のこと、伯父から遺品を渡す旨の連絡があった。  父の住んでいたアパートはすでに立ち退き済みだが、実家に置いたままの遺品整理は伯父に任せていた。  僕が最後に父の実家を訪れて十年以上経つ。山の麓でコンビニも店もなく、民家が数件あるだけの辺鄙な場所だ。一日に数本しかないバス、もしくは車で行くしかない。僕は車で向かった。  父が好物だった温泉饅頭を仏前に供えて、伯父に挨拶した。 「わざわざすまんかったな、来てもろうて

    • 鯨の轍〜新入り埋文調査員の日々〜 第1話

      〈あらすじ〉 葛城祐樹は幼い頃から考古学の道を目指し、ついに埋文調査課勤務を射止めた。しかし最初に報告したかった父は他界し、発掘した遺跡を埋め戻すという厳しい現実が待っていた。 父の実家に残された正体不明の遺品を引き取った祐樹は、それが化石ではないかと考えた。過去に父と訪れた川原に手がかりがないかと伊佐摺渓谷を訪れるが、不運にもそこで遺品を失ってしまう。父の古本に記された短歌、著者との出会い、先輩の助けも借りて、祐樹はさらに調べを進めることを決意する。 「新人! じゃなくて

      • 澱の川 (3) (最終回)

         ようやく雨も上がったので、来た道を戻ることにした。前方にさっきの表具店が見える。再び主人に呼び止められるかと警戒しながら通り過ぎた。  僕はふと足を止めた。視線の端に「青柳」という名が見えたのだ。  自転車を降りて表具店の表札を確かめた。やはり母の旧姓と同じだ。もしや手がかりがあるのではないか。  ついさっきまで自分は余所者で、人から後ろ指を刺されているのではと腰が引けていた。  だが、抜け落ちた記憶を取り戻したい。そう思えるようになった。  僕は店の前から奥を覗き込んだ。

        • 澱の川 (2) (全3話)

           その晩は地元のビジネスホテルに宿をとった。シャワーを浴びてベッドに転がり、昔のことを思い浮かべる。妹を思いだせるヒントはないか……記憶の欠片を探した。  そういえば家族と町を出て気づいたことがある。  母はいつも本に挟んだ写真を眺めていた。僕が近づくと隠してしまう。どうしても気になった僕は、母が不在の時に盗み見たことがあった。帽子を被る小さな女の子の写真、後ろに船も映っていた気もする。あれが妹だったのではないか。  それから――僕は誰かの手を引いて神社に遊びに行った。小さな

        鯨の轍〜新入り埋文調査員の日々〜 第2話

          澱の川 (1) (全3話)

           ドドド、ドウッ。  突然のエンジン音に息を呑んだ。遊覧船が足元の橋に吸い込まれ、川面に水紋が拡がっていく。僕はどうやら物思いに耽っていたようだ。小型の船は足元をくぐり抜け、背後に再び姿を現した。  甲板には若い夫婦と女の子ひとりが乗っていた。女の子は五、六歳くらいだろうか。じっとこちらを見る無垢な瞳に、僕の目は奪われた。  船は間もなく、少し先の停留所に到着した。乗客が下りるのを横目で見ながら、僕も橋を下りた。  川の両側には古い木造建屋が並び、傍らに小型船やプレジャーボー

          澱の川 (1) (全3話)

          ことばというのは、ふしぎな生き物です。(自己紹介?)

          なかなか筆が進まない。 なぜなら言の葉の言い回しのあやに振り回されてしまうから。「を」にするか「も」にするか。こんな些細なことでも意味がまったく違ってくるのだ。ほんと悩む。 そんなわけで、私は勢いで50枚くらい一気に書いてしまい、ものすごく時間を掛けて掛けて掛けて推敲します。 ほとんど何をしているのか判らなくなります。 はい、お気づきの通り、自分は小説を書くのが趣味です。 普段は派遣社員をしています。休みになると庭の手入れ(草むしりとも言います)をしたり近くの山に散歩に行

          ことばというのは、ふしぎな生き物です。(自己紹介?)