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名作『男たちの挽歌』を観てくれ

「座右の書」ならぬ、「座右の映画」はありますか?

その後の自分に大きな影響を与えた映画。価値観を変え、時に勇気を、時に絶望や混乱を与えてくれる映画。

僕は高校生、大学生の時、割とたくさんの映画を見た。劇場で、レンタルビデオで名作からB級映画まで片っ端から見たんだけど、心に残っている映画はいつまでも色褪せない。

クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』はその衝撃の大きさから、ずっと心の1位の座を譲らないし、ロビン・ウイリアムズ主演の『いまを生きる』は今の仕事へ進むきっかけとなった。スティーブン・キング原作『スタンド・バイ・ミー』は友達の大切さを教えてくれた。『ロッキー』のテーマが流れてくると、問答無用でアドレナリンが放出され筋トレをしてしまう。

あなたは『男たちの挽歌』という香港映画をご存知だろうか?1986年公開。ブルース・リーが確立した「香港映画=カンフー」という図式をものの見事に破壊した、エポックメイキング的な作品である。

「火薬と弾の量で勝負したる!」という清々しい姿勢。超がつくほどのド派手ななガン・アクション。「香港ノワール」というジャンルを生み、これ以降の映画における銃撃戦を大きく変えたと言っても過言はない。『男たちの挽歌』こそ、映画史に大きな爪痕を残した侠気と銃弾の伝説。未見の方はぜひ、ご覧あれ。

僕はとにかくこの映画が大好きで何十回と見たが、ついぞ劇場で観たことはなかった。

しかしこの作品が日本公開35周年を記念し、4Kデジタルリマスター版として劇場公開された。「これは行かねば!」と僕は休日の朝から、梅田の劇場へ足を運んだのであった。

わずか60席のミニシアター。このこじんまりとした感じが親密感があり、僕は大好きだ。確か学生時代からここに来てたよな。

観客はわずかに10人に満たなかったし、中年男性ばかり。けど、本当に好きな人ばかりが来てるんだろうなあ。それが嬉しくもあった。

『男たちの挽歌』は東映や日活の任侠映画を彷彿とさせる、ぶっちぎりのヤクザ映画である。極道と警察官である兄弟の葛藤、自分のために落ちぶれた友への友情を軸に物語は熱く泥臭く展開していく。

僕は準主役のチョウ・ユンファが大好きで、懐っこい笑顔と冷徹な眼差しのギャップに虜になってしまった。とにかくカッコいい。これほどロングコートの似合うアジア人はそうはいない。

物語の序盤、チョウ・ユンファ扮するマークが裏切り者を制裁をするシーン(楓林閣の襲撃)はあまりに壮絶で、血と硝煙の香りに背筋に寒気が走り、体が震えた。

しかもクライマックスでは、それ以上に火薬と銃弾がこれでもかと炸裂し、その圧倒的なカタルシスは観るものを圧倒するのであった。

やはり劇場で見ると、こちらも気合の入り方が違う。ワンシーンも見逃すまいとすごく真剣に観たおかげで、僕は映画が終わった後、ぐったりしたのと余韻に浸ってしばらく座席から立てなかった。心地の良い疲れと共に。

もう2度とこの映画を、劇場で観ることはないかもしれない。だから今日、観にきて良かったと心底感じることができた。

そんな風に感じることができる映画が今、どれだけあるだろうか?

『男たちの挽歌』は今なお、僕の中で燦然の輝き続けるのであった。




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