加盟店手数料は商品価格の一部

近年、キャッシュレス決済が普及してきた。



■加盟店手数料

事業者は、キャッシュレス決済の端末やQRコードを導入するにあたり、カード会社や決済代行会社の規約で定められた「加盟店手数料」を支払うことになっている。


■規約違反になる行為

加盟店規約によって、禁止されている事がある。

例えば、三井住友カードの加盟店規約の第7条第9項には、以下のように書かれてある。

第7条(信用販売の方法)
9.加盟店は、有効なカードを提示した会員に対して、商品の販売代金ならびにサービス提供代金について手数料等を上乗せする等現金客と異なる代金の請求をすること、およびカードの円滑な使用を妨げる何らの制限をも加えないものとします。
また正当な理由なくして信用販売を拒絶し、代金の全額または一部(税金、送料等を含む)に対して直接現金支払いを要求する等、会員に対して差別的取扱いは行わないものとします。

三井住友カード加盟店規約(対面販売用)



具体例を挙げます。

◆第7条第9項前半(現金客と異なる代金の請求)

❌クレカ客に対して、商品の販売代金(表示価格)とは"別途"で手数料◎%を上乗せして請求する。
(例)税込1000円で表示されている商品について、
クレカ客に対しては販売代金の3%分(=30円)を手数料分として上乗せして計1030円で請求し、
現金客に対しては1000円で請求する。
 ⇒カード会員に対する差別的取扱いに該当する。

❌現金客に対して、商品の販売代金から◎%割引して請求する。
(例)税込1000円で表示されている商品について、
現金客に対しては販売代金から5%割引して計950円で請求し、
クレカ客に対しては1000円で請求する。
 ⇒カード会員に対する差別的取扱いに該当する。

※但し、直接の割引はせずとも、クーポン券を配布するなどして対処した場合は、グレーゾーンと思われる。
(請求代金そのものは同額であるため)


◆第7条第9項後半(正当な理由なくして信用販売を拒絶)

❌特定の時間帯に、正当な理由なく支払い方法を制限する。
(例)「ランチタイムは現金のみ」とする行為。
(例)「合計1000円未満は現金のみ」とする行為。
 ⇒カード会員に対する差別的取扱いに該当する。


■規約違反にならない行為

商品やサービスの価格は、「コスト」「需要と供給の関係」「利益率」「付加価値」などを総合的に勘案して決まる。

コストとは売上原価や販管費などを指すが、「加盟店手数料」もその中の一つである(支払手数料)。なぜなら、売上の数%をカード会社に献上する事になるのだから。
コスト以外の何モノでもない「加盟店手数料」は、販売代金の一部を構成する要素と解釈できる。

つまり、手数料等を商品価格に転嫁したものを販売代金の総額として表示し、決済方法を問わず、その販売代金で請求する行為は違反にはならない……という事。
例えば、税込1000円の中に加盟店手数料が転嫁されており、決済方法を問わず1000円で請求する行為は規約違反にはならない。
なぜなら、クレカ客と現金客とで異なる代金を請求していない、カード会員に対する差別的取扱いには該当しないから。

上記を踏まえると、加盟店手数料の実質的負担者は、決済方法に関係なく全消費者という事になる。
しかも、同じ販売代金である上に、クレカ客にはポイントが還元されるが、現金客には何も還元されないため、現金客の方が損をしていると言える。
つまり、現金客は、「加盟店手数料」を搾取され、カード会社の利益やキャッシュレス決済者のポイントという形で養分にされているのだ。


この事実を理解できずに誤解しているクレカ界隈・キャッシュレス界隈・自称評論家・事業主はかなり多いとみられる。



■誤った記事や煽り報道には御用心

例えば、この記事。
「手数料を利用客負担にする」と提案しているようだが、もう既に、決済方法を問わず利用客負担になっている。
手数料を実質負担しているのは、事業者ではなく消費者。(消費税と同様の仕組み)


例えば、この事業主。
加盟店手数料は、もう既に、販売価格の中に含まれているわけで、事業者側が損をするわけではない。
「加盟店手数料が重くのしかかって苦しい」というのは、価格転嫁できなかったイイワケにしか聞こえない。
加盟店手数料が重荷と思うのであれば、キャッシュレス決済を止めればいいだけの話。
キャッシュレス決済を止める事で客が離れるというのであれば、それは「値上げ」や「現金払いのみ」のせいではなく、お店の商品自体に魅力がないということ。



例えば、この事業主。
新紙幣や新硬貨の対応のために、新しい券売機に更新するための費用の捻出が苦しいというのはわからなくもないが、券売機の維持費も加盟店手数料も商品価格に転嫁すればよいだけの話。

新紙幣(現金)に対応できる食券機に変えるのではなく、
完全キャッシュレス化(QRコード・クレジット・電子マネー・デビット)にすればよいのでは……と思ってしまう。
PayPayのQRコードを一つ置いておくだけでも、それなりに抑えられるやろ。
それとも、現金に拘る特別な理由でもあるのでしょうか?



■カード会社もそんなに儲かっているとは思えない理由

加盟店手数料は、クレジットカードで3.24%になっている。
このように書くと、カード会社はボロ儲けしているのではないか?と思われるかもしれないが、決してそうとは言い切れないだろう。

でなければ、あんなにも度重なるポイントやサービスの改悪をするだろうか?
半ばポイント還元の良さを大判振る舞いでアピールして釣ってきた顧客が離れるかもしれないリスクをわざわざ背負うだろうか?
三井住友カードでさえ、SBI証券のクレカ積立絡みでかなりの改悪を打ち出したほど。
そして、改悪王の楽天はSPUを何度も改悪している。まぁ楽天の場合は手数料云々よりもモバイル事業がヤバイからという理由もあるだろうが。


■いろんな意味で現金は汚いものだ

個人でひっそりやっている店舗ならともかく、スーパーやコンビニ等で「現金のみ」にされたらどうなるか?

客の回転率は下がるわ、人件費はかかるわ、無駄な時間も増えるわ、日々の売上精算業務は面倒だわで、
加盟店手数料を持っていかれる以上の負担になりそう。
かえって、売上や利益を出せなくなるだろうし、そうなれば賃上げもできるはずがない。

いちいち現金をジャラジャラ取り出しながら勘定していたら、その労力や時間が勿体無い。

そして何より、「不特定多数が触った現金はいろんな意味で汚く不衛生」という事。
手垢的な意味でも足が付かない的な意味でも汚いのが現金。

それでも、ニコニコ現金払いの人はまだまだ多く、当分の間は現金信仰が続くのだろう。

しかし、だからと言って、一部の現金崇拝主義者に配慮していたら何も前に進まない。


『現金払いvsキャッシュレス決済』の話題が出るたびに、「キャッシュレス決済するとお店の人がかわいそうだから現金で払う。」という人が現れるわけだが、
これはまさに、時代の流れをキャッシュレス化にさせたくない、現金払いでなければ大変に都合が悪くお困りになる理由があるからだろう。

そりゃそうですよね。キャッシュレス化されたら、売上や利益をチョロまかす事もできなくなる、脱税もできなくなる、お金を洗えなくなる。

そういう事だろ?




■完全キャッシュレスの店舗も現れている。

2024年4月25日にリニューアルされた渋谷TSUTAYA。



中華そば春木屋は、2024年8月1日より完全キャッシュレス化する。



加盟店手数料ガーとブー垂れている経営者がいるのを横目に、キャッシュレス化を進めて優位に積極的に動こうとする姿勢は良いものだし、大いに歓迎したいものです。



■現金のみでも素晴らしい店舗は存在する

私はここ20年くらい、ほぼ毎週土曜日のランチは、とある個人経営の喫茶店に通っている。
その喫茶店は現金のみで、過去に何度か値上げをしていてそれなりの料金だが、それでも通い続けている。
サービス価格や決済手段に関係なく、お店や商品そのものに何らかの付加価値を見出しているからね。

今ではすっかりキャッシュレス人間となった筆者であるが、現金払いを真っ向から否定しているわけではなく、いずれの決済方法を選択するにしても要領よく立ち回らなくてはならないという事だ。


とりあえず、ファミレスや喫茶店のランチメニューは1000円くらいにしておけよ、と言いたい。
そうすれば、加盟店手数料くらい出せるやろ。




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